木村忠啓の大江戸百花繚乱

スポーツ時代小説を中心に書いている木村忠啓のブログです。

黄表紙

2006年05月19日 | 江戸の風俗
山東京伝という人物がいる。1761年~1816年に生きた作家である。最初、歌舞伎の脚本からスタートし、黄表紙を書き、後には読本の作者に転向した。日本史の教科書的には、寛政三年三月、寛政の改革により手鎖五十日の刑に服し、版元蔦屋重三郎は身上を半分にされた、というところだろう。
これだけ見ると、寛政の改革って厳しかったんだな、と思われるかも知れないが、どうも出版元、辣腕プロデューサー蔦屋重三郎が、「まあ、これくらいだったら大丈夫だろう」と、お上をなめていたきらいが感じられる。黄表紙出版禁止が申し渡されたので表紙の色を変え、教訓本と書いた帯を巻いて、黄表紙と同じ内容のものを出版したのだから、罰せられない方がおかしいのではないか、と思う。この頃、蔦屋は飛ぶ鳥を落とす勢いだったから、周囲が見えなかったのかも知れない。
しかし、今回は、そういった歴史背景ではなく、黄表紙そのものにスポットを当ててみたい。
黄表紙は表紙が黄色かったのでそう呼ばれた。
当然、違う色の本もあって、子供向けが赤本、青年向けが青本、黒本と呼ばれたのであるが、その黄表紙の内容はどのようなものだったのだろう。
寛政の改革の時、風紀を乱すという理由で罰せられたのだから、アダルトな内容なのでは、と思う方も多いのではないかと思うが、そうではなく、政治的な風刺がとがめられたのである。
黄表紙は、「文武二道万石通」だとか「江戸生艶気樺焼」だとか「桜姫全伝曙草紙」だとか漢字ばかり並ぶので、現代人には、たいそう難しそうに思えるかもしれないが、何のことはない、今で言えば、漫画のようなものだ。
挿絵がドン、と描いてあって、あいたスペースに本文がずらずら書いてある。
挿絵はとってもシュールだが、有名画家葛飾北斎なども絵を提供している。
内容もこれまたシュール。荒唐無稽なストーリー、シニカルなギャグの連続である。
といっても分かりづらいだろうから、黄表紙のひとつ「箱入娘面屋人魚」(画・北尾重政)のあらすじを紹介する。

浦島太郎は乙姫との結婚が倦怠期を迎え、繁華街である中州で芸者の鯉と浮気する。
中州は現在の箱崎町あたりであり、実際の繁華街であったが、黄表紙では設定上、川の中に水没しており、竜宮城のようになっている。
二人は事に及び、鯉は妊娠し、出産。浦島太郎はその子供を押し付けられてしまう。
女の子だったが、魚と人間のあいの子であったので、人魚(絵がかなりすごい)である。
困った浦島太郎は、その人魚を海に流してしまう。
後日。
漁に出た平次は、網にかかった大きな魚があるので、見て仰天。
成人(成魚)した人魚だった。
平次は大事に家に持って帰ってこっそり女房にする。
どこで聞きつけたか、見世物小屋の主人が、売らないかなどと言うが、平次は即座に断る。
しかし、家は貧乏で街金にも金を借り、家賃も滞納するありさま。
そこで、人魚は自らを女郎屋に売り込むことにする。
珍しもの好きの女郎屋主人が人魚をもらいうけ、花魁にする。
上客がついたのはいいが、初床の際、あまりに人魚が生臭くて、臭いに我慢しきれず、客は逃げ出してしまう。
結局、人魚は家に追い戻されるが、借金の山。
困った二人が儒学者に相談したところ、人魚をなめると、若返るので商売にすれば、と言い出す。
それを聞いた庶民はひとなめ一両以上もするのに老若男女が押し寄せるように人魚をなめにくる。
「もっと下の方がなめたい」などという下品な客もいたが、大盛況。
二人は一気に金持ちに。
女房に鯉のぼり!を着せて、偽商売を始めた者もいるがすぐにばれて、夫婦ケンカが始まる。
一方、自分も若返りたいと人魚をなめすぎた平次は子供になってしまう。
そこに浦島太郎が玉手箱を持参して現れる。
玉手箱をあけてびっくり、平次は油の乗り切った男盛り31歳に。
人魚もなんだかんだしているうちに、皮がむけて、普通の人間になった。
この皮も薬として売れて、二人はさらに金持ちになる。
それから平次は年をとると人魚をひとなめし、若返り、もう何百年も生きているという話。
二人が住んだ所をもとは人魚町と呼んだが、今はなまって人形町になったと最後にこじつける。


あらすじよりも原作は数倍面白い。
下記出版社から本がでているので興味ある方は実際に手にされてはいかがだろう?
   
左が箱入娘面屋人魚、右の画は葛飾北斎

江戸戯作草紙 棚橋正博 小学館
ポケット文学辞典 文研出版

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コメント (6)
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