活字の海で、アップップ

目の前を通り過ぎる膨大な量の活字の中から、心に引っかかった言葉をチョイス。
その他、音楽編、自然編も有り。

クラシックミステリー 殺人の四重奏 第二楽章:詐欺師マドレーヌの復讐

2009-04-18 00:01:44 | 活字の海(読了編)
著者 藤本ひとみ  集英社 2006年9月30日 第1刷 1500円(税別)


標題のとおり、四部作で構成されているこの作品。
残りの三作は、読後すぐに書評を書き上げ、アップさせていただいた。

 ・第一楽章:寵妃モンテスパン夫人の黒ミサ
 ・第三楽章:公爵令嬢アユーラのたくらみ
 ・第四楽章:王妃マリー・アントワネットの首

そして、本章が書評で紹介するラストとなる、

 ・第二楽章:詐欺師マドレーヌの復讐

である。

実は、この書評。他の書評とほぼ同時期に書き上げていたが、
どうもしっくりこず、ずっとお蔵入りとなっていた。

このたび、棚ざらえをして発見したものを、見直した上で
UPするものである。

さて、半年以上も前に読んだ本の書評の手直し(しかも、
図書館で借りたので、手元にもう本は無い)が、無事に
出来るかどうか、乞うご期待。



『奇跡の袋小路』という貧民窟が、パリ市北部、モンマルトル
通りの西側に広がっている。

これは実在の広場であり、一度ならず官警の手が入り、浮浪者等は
一掃されたそうだが、いつの間にかまたホームレス達が根付いている。

ここが小説の舞台となるのは、本書が初めてではない。
あの有名な、「ノートルダムのせむし男」にて、ヒロインの
エスメラルダが無実の罪で処刑されそうになったときに、
主人公カシモド等によって彼女が匿われていたというエピソードが
語られている(らしい。というのは、僕が未読のためです。
ネタ元は、虎ノ門病院健康管理センターのHP中の、
元精神科部長 栗原 雅直氏のコラム「パリの芸人-物乞い2」より)。

無論、本書はノートルダム…とは一切関係なく、この貧民窟に暮らす
マドレーヌという詐欺師(見習い)の復讐譚である。

彼女は、孤児だった自分を拾ってくれた色事師(スケコマシ)
アドリアンが、仕事に失敗して誑し込もうとしてアラモン伯爵夫人に
接近。首尾よく同衾に至ったものの、その現場を夫であるアラモン伯爵に
押さえられ、隠れこんだ大きな飾り壷の中に、石灰を流し込まれて絶命する。

その遺体が、奇跡の袋小路の彼らの住処に運び込まれたところから、
この物語は始まる。

センテンスは短いが、アドリアンの絶命の様子の描写が生々しく、また
遺体がそれをさもありなんと思わせる傷み方をしており、そのあまりの
惨さに、マドレーヌ始め兄弟(勿論、血の繋がりは無い。所謂、義兄弟。
盗賊一家である)達が復讐を誓う辺りのどろどろとした情念の高ぶりの
運びは、藤本ひとみの真骨頂と思う。


だが…。

その後の展開が、僕的にはいただけない。
二転三転する黒幕。そして、最後のカタルシス。
きっちりと要所は押さえられているものの、どこか型に嵌まった感が
あるのは、僕だけだろうか?

詳述は避けるが、せっかくの舞台装置を用意しながら、途中でネタバレ
してしまうような、そんな中途半端な読後感が残った一編であった。

一応ミステリーなので、そのカラクリを明かすことはしない。

だが、敵をインフレーションさせるにしても、やりようというものが
あるだろう。
これならば、もっとシンプルな設定にして、その分徹底的に性格等を
書き込んでいった方が、よほど作品としては生きたのではないか?

そう思えてくる作品だった。

仕掛けは十二分に面白いだけに、このようにして四部作のうち、
もっとも低い評価となってしまったことは、残念である。

まあ他の三作が佳作だったので、由とするか。

(この稿、了)


殺人の四重奏―クラシックミステリー
藤本 ひとみ
集英社

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