活字の海で、アップップ

目の前を通り過ぎる膨大な量の活字の中から、心に引っかかった言葉をチョイス。
その他、音楽編、自然編も有り。

クラシックミステリー 殺人の四重奏 第三楽章:公爵令嬢アユーラのたくらみ

2008-07-08 01:17:05 | 活字の海(読了編)
著者 藤本ひとみ  集英社 2006年9月30日 第1刷 1500円(税別)


時は1562年。
登場するのは、ド・ラ・メール家の一人娘オルラーヌ。
彼女が6歳の折、フランス中南部のヴィシーで起こったカトリックと新教徒の
内戦(まったく、これだから宗教と言うものは…)に巻き込まれたところから
この物語は幕を開ける。

瀕死の重傷を負った彼女から、ド・ラ・メール家所縁の十字架を奪った近隣の
村娘アユーラ。
彼女が孤児として修道院での日々を過ごしていた折に、ド・ラ・メール家の
一人娘捜索隊によりオルラーヌと勘違いされ、それを活かして成り上がろう
と、単身貴族社会へ乗り込むアユーラが、この物語の主人公である。

この一編。
実は、この四編の作品集の中でも、かなり好きな部類に入る。
(但し、ラストの前までは、という条件付だが)

貴族社会の生業などろくに知らないアユーラが、苦心惨憺して公爵令嬢に
成り済まそうと努力するところ。

召使達を篭絡し、自分の手駒として囲い込もうとし、うまくいったとほくそ
笑むところ。

人間関係の機微を読み取り、公爵家内の対立関係をうまく活かして、
自分の後ろ盾を得たと得心するところ。

そして、それら全てに裏切られ、欺かれ、自分の矮小さを思い知らされる
ところ。

こうした流れを書かせると、藤本ひとみは本当に上手い。

更に本書では、どんでん返しを用意している。

打ちひしがれ、それでも今の生活にしがみ付いていなければならないと
いう惨めさに落ち込むアユーラにとって、更なる恐怖が待ち構えていた
のだ。

それが何なのかは、本書を一読されてのお楽しみとして、ここでこれを
持ってくるか!と、通勤電車の中で膝を打ちそうになってしまった。


しかし、どうにもその後のクロージングがいただけない。

せっかく用意したサプライズも尻すぼみ。
しかも、永遠の牢獄とも思われた公爵家をさっさと抜け出して、元の
お気楽修道院生活へとちゃっかり戻るアユーラ。

このラストは無いだろう?

せっかくの先ほどの感嘆も、それが大きいだけにこのラストには、大きく
裏切られた気持ちであった。

せっかくのネタと装置を、勿体無いなあというのが、正直な感想である。


(この稿、了)

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