活字の海で、アップップ

目の前を通り過ぎる膨大な量の活字の中から、心に引っかかった言葉をチョイス。
その他、音楽編、自然編も有り。

ビッグツリー

2010-01-22 23:50:49 | 活字の海(読了編)
著者:佐々木常夫 WAVE出版刊 定価:1300円(税別)
増補改訂版代刷刊行:2009年7月30日(入手版)
サブタイトル:自閉症の子、うつ病の妻を守り抜いて
帯コピー:12万人が感動したベストセラー、「その後」を収録の決定版!
裏帯コピー:苦しいときも”家族の絆”と”仕事”で乗り越えた男のドラマ


以前。
著者の出した別の本を読んで。

その内容に、甚(いた)く感銘した。


その中でも、もっとも心に響いた言葉が。
「上司を、驚かせない」というもの。


当時の、僕は。

新しい職場。
新しい職種。
新しい職責。
新しい赴任地。

何もかもが、一新された環境にあって。
それまでの経験値。
それまでの方法論では、賄い切れない問題が続出していた。

その結果、対策が後手に回ったり。
前捌きが不十分だったりして。

問題を焦げ付かせてしまった結果。
上司を「えっ!?」と言わせしめることも数多(あまた)あった。

勿論、いい意味での驚きならばWelcomeなのだろうけれど。

そんなことは、夢のまた夢。

山積していく問題は。
時間の経過とともに腐臭を放ち始める。

更には。
それらは、自己増殖という負の連鎖(スパイラル)を巻き起こして。

やがて、収集がつかなくなってしまう。


そうした、閉塞状態に陥っていた僕にとって。
本書と出会えたことで、救済された部分は大きい。

早期段階での、徹底した上司とのベクトル調整。
先を見越した、逆線表によるスケジューリング。

言葉にすれば、当たり前のことなのだけれど。
目先の問題に拘泥し、叱責を回避しようとするあまりに。
そうした基本の所作が行えていなかったことが、
事態の悪化に拍車をかけているだけだったことについて。

改めて気づかせてくれた良書だった。

勿論、まだまだ至らない点は多々あるけれど。

この本と出合えたことで。
ここ数ヶ月は。
少しずつではあるが、仕事回しが楽になったと思えるようにもなった。

僕にとっては、著者はある意味救世主とも言える存在である。


さて。
本書は、先の著書の仕事術とは切り口を代えて。
家族をキーワードに、著者が自らの半生を回想したもの。

そこに描き出された人生の濃密さは。
ちょっと類を見ないレベルの、鬼気迫る凄まじさに満ちている。

結婚して、すぐに生まれた長男は自閉症と診断される。
学生のうちはイジメの対象となり、長じてからも幻聴に悩まされ、
日常生活にも齟齬をきたす日々。

年子で生まれた次男は。
転勤を機に、高校生後半から家族を離れていく。

更に年子で生まれた長女は。
家族を支える柱としての立ち位置に閉塞し、自殺未遂を図る。

妻は。
肝臓病からうつ病を併発して。
入院43回。繰り返す自殺未遂の末に、家を出てしまう。

そして、本人は。
6度の転勤と、昇進。それに伴う異動と引越し。
更に、新たな職場と職責での激務が、ワークライフバランスの比率を
蝕んでいく…。


この。
壮絶としか、形容しようのない状況を前にしては。

少々の事態を。
逆境だなどと、軽々しく口に出すことなんて出来やしない。


氏が、状況を打破しようとして尽力すればするほどに。
事態は、悪化していくのだ。

それはまるで。
砂浜にあって、波の浸食から砂の城を守ろうとする営みにも近しい。

あるいは。
永遠に、当て所もなく岩玉を山上に押し上げ続けねばならない
シーシュポスにも似て…。



激務をこなしながらも、三人の子供たちの食事の世話や洗濯、掃除を
やり遂げていく氏。

だが。
その頑張りが、病気故に家事を行えない妻のメンタルを更に追い込む。

こと、ここに至っては。
出口など、どこにも見えない。
正に、袋小路である。

では、その状況を。
氏は、どうやって乗り越えてきたのか。


その詳細なプロセスは。
是非、ご自分の目で本書を読んで、確かめて戴きたいが。

端的に言えば、”とことん、遣り通す”ということ。

氏の献身が、氏の妻を追い込んでしまった時に。

妻への配慮や、自分自身の閉塞感。
その他。
如何なる理由にしろ、氏がそのフォローの手を緩めてしまっていたら。

恐らく。
妻との間に信頼関係を再構築することは、適わなかったのではないか。


妻が発し続けた、夫への不信感は。

自分を見てほしい。手を差し伸べてほしいという。
血を吐くような叫びの裏返しであり続けたのだろう。

そして。
そのことを、氏が判っていたかどうかは別として。

絶望感を感じつつも。
氏自身の気性や意地も相俟って、手を差し伸ばし続けたことが。


負の感情の蟻地獄に、もう少しで埋没しそうになっていた家族を
救い上げることに成功したのだ、と思う。

勿論、それは。
氏が、一方的に救ったというものではなく。

救っていた氏が、実はそのことにより救われていたとも言えるのだが。


家庭と仕事の両立を、何とかこなそうとする中で。

氏は、冒頭に掲げたような仕事術を身につけ、実践していく。

そして、あるときは、仕事の成功に家庭の鬱屈のはけ口を求め。
またあるときは、家族に痛んだ心をフォローされる。

その、果てしない日々の繰り返しの果てに。

この人生で、よかった。

そう思わしめる人生の果実を、氏は掌中に収めるのだ。


その果実は、渋柿に似ている。

そのままでは食べられないものが。
手間と時間をかけていくことで。

その奥にある滋味を、引き出せていくのだ。


そして、それは。
その労力を惜しまぬものにのみ齎される、人生の褒章でもある。

元より。
氏も、氏の家族の人生も、まだまだ先へと続いていく。

その中で、これから何が起こるのは、誰も知りえようが無いけれど。

少なくとも、そこに記された氏の半生に。
勇気の翼を貰った人が数多いることを、12万部という出版部数が立証
していると思う。


ページを閉じた後で。

また、明日から頑張ろう。

そう素直に思える本である。


(この稿、了)



【新版】ビッグツリー~自閉症の子、うつ病の妻を守り抜いて~
佐々木 常夫
WAVE出版

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部下を定時に帰す仕事術 ~「最短距離」で「成果」を出すリーダーの知恵~
佐々木 常夫
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2 コメント

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Unknown (シャドー81)
2010-01-23 22:08:42
あの時はそんなにひどい負の状態だったんだ。いつもと違うと思っていたが・・・

転勤してからすごく、視野が広くなったというか、視点がたかくなったように思う。そのようになったのも、そういった困難を乗り越えた結果だったのですね(私ごときが言うのは失礼な話だけど)

PS
昨日の日記。比べると、元の文章のほうが、力というか切れがありますね。失礼しました。
返信する
Unknown (MOLTA)
2010-01-25 00:17:32
コメント、ありがとうございます。

なかなか。
人生、日々是修行です(笑)。

だからこそ面白いのだと。
今は言えることが幸いですが。

ブログ記事の新旧比較については、耳が痛い。
でも、それもまた実力ということで。

精進しますので、これからもご贔屓に。
返信する

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