活字の海で、アップップ

目の前を通り過ぎる膨大な量の活字の中から、心に引っかかった言葉をチョイス。
その他、音楽編、自然編も有り。

星間商事株式会社社史編纂室

2010-03-13 19:56:34 | 活字の海(読了編)
著者:三浦しをん 筑摩書房刊 定価:1500円(税別)
帯コピー:川田幸代。29歳。会社員。腐女子(自称したことはない)。
     社の秘められた過去に挑む!
裏帯コピー:本間課長は言った。
     「社史編纂室でも、同人誌を作ろう!」
      その真意はいかに?風雲急を告げる社史編纂室。
      恋の行方と友情の行方は、五里霧中。
      さらには、コミケで人気の幸代の小説も、混乱に混乱を!?



三浦しおんの小説は、初めて読んだ。

馴染みの古書店で。
レジで精算をしているときに、カウンターの前の未整理の本が
詰まれた山の一番上に、この本が鎮座していた。

そこで。
大仰なタイトルと、帯コピーのおかしさに惹かれて手に取ったのが、
本書と、更に言えば著者との馴れ初めである(笑)。

カバー写真は、青空に屹立する高層ビル。
といっても。
いわゆるデザイナーズ系ではなく、いかにも質実剛健な働くための
ビル!といった感じの建物である。

そのビルの上。
まるで、看板のように、本の幅一杯を使って書かれた標題。

「星間商事株式会社社史編纂室」

これだけ読むと、硬めなイメージが澎湃としてくるが。
帯コピーは、上に書いたとおりの内容。

その、ギャップの面白さに。
思わず手にとって、おじさんに「これ、いくらですか?」と聞いて
しまった。

おじさんも、まだ値付けもしていなかったようで。
少し眺めた後で、「ま、600円で」。

(その「ま、」という前フリは何だ?)と、心の中で突っ込みながらも
そのまま購入に至った次第である。


そのまま、暫く積読コーナーに安置されていたのだけれど。
先の人間ドックのお供へと、何か持っていくものを探していた際に
ピックアップされ、検査の待ち時間の合間に読了してしまった。

初邂逅の三浦しおんの文体がとても読みやすかったことと、
300ページ弱という本のボリュームとも相まって、さくさくと
ページを繰ることが出来た。


さて。
皆さんは、社史編纂室と聞いて。
どのようなイメージを、思い浮かべるだろうか?

広報畑と連動した企業のCI戦略の一翼を担う組織として、
プロアクティブな印象を持たれる場合も有るかもしれないが、
総じては閑職、平たく言うと窓際職的なイメージで言の葉に
上ることが多いのではないのだろうか。
#実際に所属されている方がいらっしゃれば、ごめんなさい。
 あくまで、僕のイメージですので…。


主人公・川田幸代は、元々はバリバリ働いていたのだが、ちょっとした
揉め事からこの閑職に”飛ば”された。

現在幸代を含めて4人いる社員は、課長を筆頭に皆ノンビリと
マイペースで仕事をしている。

というか、殆ど仕事をしていない。

皆、それぞれの経緯があってこの職場に流れ着いたこともあり、
誰も社史編纂という仕事に熱意も意欲も持っていないのだ。

その結果。
創立60周年の節目にも、社史は間に合わっていない。
課長が後1年で定年なので、それまでに完成すればいいか。といった
ゆる~いタイムラインが流れている職場。

それが、星間商事株式会社奢侈編纂室である。



羨ましい。
はっきり言って、羨ましい。

もっとも、幸代は少なくとも勤務時間中はきちんと仕事に向き合う派。
動かない他の面々を叱咤激励しつつ、資料収集等に勤しむ日々。

そんな幸代には、腐女子という裏の顔があった。
もう15年も一緒にヤオイ系(今風に言えば、BL系)の同人誌を
発行している仲間たちとともに、夏冬のコミケへ出品する作品の
創作と製本に余念の無い日々を過ごしている。


けれど。
そうした、幸代の腐女子趣味を課長に知られた時から。
運命の歯車が、ごとりと音を立てて動き出した。

同人誌活動と知って、なぜか社史編纂室でも同人誌を作ろう!と
はしゃぎ出す課長。

社史編纂作業も、おっとりながら進んでいく中で、次第に明らかに
なってくる、会社の陰の部分。

社史起こしのため、”陰の部分”とは知らずに、いわば裏社史に
アクセスしかけた幸代たちに迫る危機。

平行して、幸代の彼氏との間にも秋風が吹き始める。

追い討ちをかけるように、創作仲間の一人が足抜けを宣言して…。

果たして、社史は、同人誌は完成するのか?
そして、幸代の恋の行方は?
裏社史の秘密とは、何なのか?

様々な謎が絡み合い、物語は織り成されていく。
もっとも、絡み合うのは謎だけではないが(笑)。


読了して、まず思ったこと。

面白い。
けれど、浅い。

この小説の骨子は。
縦糸となる、社史編纂と、それに纏わる裏社史の件(くだり)。
横糸となる、同人誌の製作に纏わる進行と友情の件。
更に、アクセントとして幸代の恋愛の件。

三つがそれぞれに交わり合いながら、物語は進んでいく。

けれど。
そのどれもが、突っ込みが浅い。

ステージは魅力的なものが用意されているのに、勿体無い!
のである。

特に、社史編纂の話しについては、さすがにそれは無いだろう?
という経緯に、読み終えて結構目が点!状態であった。

同人誌についても。
幸代の恋愛についても。

それぞれのセンテンスでは、純粋に納得したり、小気味のよい思いを
味わったりしているのに。

それが、こうした幕切れでは…。

その、あっさりとした切り上げ方がよいという方もいるだろうし、
文体とも合っているのかもしれないけれど。

僕としては。
ここまで来たのだから、もう少し踏み込んで欲しいよなぁ。

そう、思えてしまうのだ。

と、言う訳で。

疲れたときに、ライトな気分で読み進められる本が欲しい方には
お勧めする一冊である。

同人誌製作の裏事情や、コミケの模様等も。
それなりに書き込まれていて、そっち方面の造詣を深めたい人。
あるいは実際に活動をされている人から見ても、それなりに
納得感がいく書き方ではないかと思われる。

もっとも。
僕自身は、コミケは行ったことが無いのだけれど。


凝っているな。
そう思えたのは、本書の装丁。
担当しているのは、鈴木成一デザイン室

読み終えた方は、よく本書の装丁を確認して欲しい。

思わず、ニヤリ!としてしまうだろう。

やるな!鈴木成一デザイン室!なのである。


(この稿、了)




星間商事株式会社社史編纂室
三浦 しをん
筑摩書房

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