活字の海で、アップップ

目の前を通り過ぎる膨大な量の活字の中から、心に引っかかった言葉をチョイス。
その他、音楽編、自然編も有り。

流れる海 ドキュメント・生還者

2007-11-10 01:00:31 | 活字の海(読了編)
著者 小出康太郎 佼成出版社 

先日、「海の世紀」に関するブログを書いた後、海に関する本を読みたくなって
蔵書の中から未読のものを引っ張り出してきたものが本書である。

著者は、「ダイビング・ドキュメンタリー」というシリーズものを上梓しており、
僕は一応プロダイバーの端くれとして、本シリーズも一通り目を通している。

その著者の作品で、かつダイバーの漂流もののドキュメンタリーということで、
かなり前に入手をしていたのだが、なぜかそのまま積読になっていたものである。

この本の主人公は、昭和58年の夏、伊豆諸島の新島でダイビング中に
潮に流され漂流。56時間後、230Kmの距離を流された末に、
銚子沖で漁船に救助されている。

海面以外に見えるものとて無い大海原の真っ只中、
約三日間に渡り、殆ど一睡もせず、飲まず食わずでありながら、
精神の均衡を維持しながら生還を成し遂げた主人公の生命力に、
素直に感嘆する。

ダイバーなら、誰しも経験が有る事であるが、水面に浮かぶダイバーは
実にちっぽけな存在である。

船の縁は遥かに高く、少々の声も風に紛れて届かない。

船の上から見た海面のダイバーが、殆ど波頭の中にあって目立たない存在となる
ことを知っているが故に、水面を漂うダイバーの心を襲う孤独と絶望は、
想像するに難くない(いや、勿論所詮想像の域を出ないのではあるが…)。

自分がその状況に陥った時、果たして主人公と同様に生き延びることが出来るか、
正直、自信はもてない。

何が彼を支え、生き抜かせることが出来たのか?

著者は、主人公の楽天的なメンタリティーの強さに、その原因を見出そうとしている。
恐らくそれは、間違いではないのだろう。

ニヒルなペシミストが、この状況で生き延びようとする意思を保ち続けるなどと、
想像し難いのだから。

当て所の無い漂流中。

時間感覚は間延びし、1時間が一日にも匹敵するように感じられたことだろう。

喉の渇きに耐えかね、目の前に溢れかえる海水を飲み干したい誘惑に抗するために、
凄まじい意思の力を必要としたことだろう。
#実際には、海水は一日に数百ml程度であれば、飲用しても大丈夫らしいが。

そんな中、主人公は鯨と出会い、流れ着いたゴミに付着する蟹と邂逅する。

それら命との出逢いが主人公にどれほどの力を与えたのか、
これこそは想像を絶するものであろう。

また、そうした出逢いを意味あるものと思える精神の持ち主こそが、
こうした事態に即しても生き延びることが出来るのであろう。

一ダイバーとして、主人公に心から敬意を表するものである。

また、この物語は、ひとつの大きな教訓を教えてくれた。

漂流当初、海面に浮上した主人公は、60mほど先に自分を乗せてきた
ボートを見つけるが、傍にいた釣り人に遠慮し、海面で大声を出すことを
躊躇ってしまう。

それは、自力で泳いで帰り着ける自信が有ってのことなのだが、
結果、主人公はその後流され続けて船を見失ってしまう。

更に、新島の近くに漂流した際には、重いタンクやスピアガン、
突いた獲物のヒラマサを抱え込んだまま新島へ向かって泳ぎだすが、
やはり潮に負けて離されていってしまう。

なぜ命が罹っているのに、大声を出して助けを求めなかったのか?

なぜ重いタンクやその他の荷物を捨てて、身軽になって死に物狂いで
島に向かわなかったのか?

安全な場所から主人公の行動を軽率と非難することは、容易い。
それを承知の上で尚、もう少し適切に対応出来ていれば、
漂流という最悪の事態をもっと早く切り上げられたのでは?と思ってしまう。

ただ、そうした失敗があっても、人生の神は、自ら助くるものを助けるのだ。
それを、主人公の生還が、何より証明している。

何が今必要なのか、常に冷静に考え、最適な行動を取れ。
但し、そうした行動を取っても、或いは取れずに事態が悪化しても、
最後まで希望は捨てるな。
終わるまで、人生は分からないのだから。

この本からは、そうした教訓を学ばせていただいた。

著者の文体は、相変わらずやや大仰で、かつ擬音交じりのパターンではあるが、
読みやすく1時間半程で一気に読了してしまった。

なお、この本は「ダイバー漂流 極限の230キロ」と改題、加筆訂正され、
新潮oh!文庫より発売されていることが、この書評を書くに当たって
確認できた。


追記
この本の主人公・福地裕文さんは、現在東京 中野でダイビングショップを
経営されているとのこと。
ダイビングショップ シーロマン


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2 コメント

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お邪魔しますo(_ _)o (ぷちこ)
2007-11-10 13:04:11
MOLTAさん、先日はブログに遊びに来てくださってありがとうございました
早くコメントを書こうと思いつつ、夜はだいたい『ほろ酔い』状態でMOLTAさんへのコメントはちゃんと記事を読んでからでないとだめだ~と思い、今日になってしまいました(^ ^ゞ
MOLTAさんはプロのダイバーさんなんですね私も1度はもぐってみたいと何年も考えてはいるのですが、重要課題「耳抜き」ができません 飛行機の離発着時にはひとりもがき苦しんでます飛行機自体は好きな乗り物なのですが、これだけは飴をなめてもガムを噛んでも水を飲んでもだめでして…。今度乗る時は「耳の痛くならない耳栓」を買おうと思います。
ー閑話休題ー
私はなんと明日の花月先生のラストレッスン、諸事情によりお休みです一万人の第九に参加してから「お休み」は初めてです。今年は小学生になった姪っ子と参加しているのですが、なによりもレッスンを楽しみにし、真剣に取り組んでいる姪に申し訳ない気持ちです
そして大阪Gクラスでは花月先生・山本先生を迎えて本番終了後打ち上げをするそうです。私は今のところ参加予定ではないので、合唱本番で教えていただいたことをしっかり発揮することで先生方に感謝の気持ちを伝えたい!と思う次第です。大きな課題ですね

初めから長文コメント失礼いたしました。気になる記事にはちょこちょこコメントをつけさせてくださいませ
↓下の記事、「メディア・リテラシー」についてはなにがきっかけかは忘れましたが本をいろいろ読んだことがあり、大変興味を持って読ませていただきました
返信する
ありがとうございます!! (MOLTA)
2007-11-10 23:10:57
先月からブログを始めて、初めてコメントらしい
コメントを付けていただけ、とても感激しています

ぷちこさんは耳抜きが出来ないのですね~。
確かにそれは、ダイビングをする上では大きな
課題ですね。
(というか、耳抜きできないと、そもそもダイビング出来ないものなあ)

ただ、耳鼻咽喉科に行って耳管に空気を通して
貰う等して、耳抜きのし辛さを克服してきた
お客様も沢山いらっしゃるので、ぷちこさんも
ダイビングはともかく飛行機等でも辛いほどなら、
一度耳鼻咽喉科に行かれてみてはいかがでしょうか?
それで治れば、めっけもんですしね。

ダイバーの一人として、ぷちこさんが海の楽しさを満喫できる日が来ることを、お待ちします。

明日はお休みなのですね。
それでは、不肖私目が出来る限り詳しく(といっても、所詮私のレベルなのですが)レポートさせていただいます。

ぷちこさんや、まさぽんさんのような訳には行きませんが…。

終了後の打ち上げについては、前々回の時にもアナウンスされていましたよね。
うちは子連れ参加なので、打ち上げは参加しないと思います。
なので、ぷちこさん同様、本番でなるべく教わった先生の教えを活かして、佐渡さんのタクトに忠実に歌い切ることで感謝の意を表わしたいと思っています。

ウイスキー、届いたら是非レポートして下さいね

それでは、おやすみなさい。
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