活字の海で、アップップ

目の前を通り過ぎる膨大な量の活字の中から、心に引っかかった言葉をチョイス。
その他、音楽編、自然編も有り。

クラシック名曲と恋 ベルリオーズ編

2010-03-22 21:12:06 | 活字の海(読了編)
著者:桐山 秀樹 , 吉村 祐美 (共著) 生活人新書刊 定価:
初版刊行:2003年12月8日(入手版も同じ)


■ルイ・エクトール・ベルリオーズ(1803~69)
 -永遠の恋人に捧げる失意の「幻想交響曲」(桐山秀樹著)


誰にでも。
心の中に、忘れられない人影の一人や二人はあるだろう。

それが、同性か異性かを問わず。
自分の心身を育んでいく上で、影響を受けた人々。

それが。

リスペクトや愛情といった正の側面を持つ場合と。
失望や嫌悪、憎悪といった負の側面を持つ場合と。

更には、それらがコンプレックスされた場合と。

様々な思いが重畳して、その人への思いを形成していることは多い。


中には。
それが告白の成功という形で、成就出来るケースもあるだろう。
師弟関係という絆で、繋がりを持ち続けることもあるだろう。

それでも。
そんな思いを、密かに心の中に刻み込んで生きていくこともまた多い。

それが、異性であれば尚のことである。


ところが。
今回の主役、ベルリオーズのそうした思いに対するアプローチは、
度肝を抜かれた。

彼は、若干12歳にして見初めてしまった初恋の女性に対して。
2度の結婚と離婚(あるいは死別)を繰り返した後に。
彼が61歳という年齢に達しても、なお。
出し続けたラブレターが、志向するもの。

それは、彼自身が内包していた狂気にも近い愛情であった。

著者は、彼の狂気に満ちた人生をその幼少から老年までバランスよく
トレースしていく。

そこで、紐解かれるもの。
それは、さしずめ今ならストーカー法に引っかかりかねないレベルの、
ベルリオーズの執念とでもいうべき行動である。

ただ…。
著者が示唆しているように。
ベルリオーズという男は。
現実の女性に恋をしていた訳ではないのだろう。

彼は終生、あくまでも自分の心に映った幻影を追い続けていた。

それを成し得たのは、彼の思い込みの強さゆえであろうし、
それだけの感情のテンションがあればこそ、芸術家として大成できた
のだろう。

何せ。
自分の恋愛に対する想いを元に、「幻想交響曲」を創り上げてしまう
のだから。


もう一度、言おう。

彼が、愛情を抱き続けたもの。
それは、現実の女性たちではなく、全て彼の幻想に過ぎない。

更に言えば、その幻想の果てにあるもの。
それは、彼の自己愛なのだろう。

そこまで自らに酔えることもまた、立派な才能なのである。


チャップリンの映画「独裁者」の有名な台詞。

「1人殺せば殺人犯だが、100 万人殺せば英雄だ。
                 数が殺人を神聖化する」
 ( One murder makes a villain, millions a hero.
                 Numbers sanctify. )

 ※ 台詞は、青の季節さんのHPを参照させていただきました
   ありがとうございました。


これを、ベルリオーズに当てはめてみれば。

「手紙を出し続けるだけなら単なるストーカーだが、
             交響曲まで仕立ててしまえば芸術家だ」

とでもなるだろうか。

ベルリオーズにとって、その恋愛の成就などには一切興味が無かった
ことは断言出来る。

彼はただ。
恋する自分が大好きで、ひたすら片思いに浸る自分を演じ続けた。
告白し、拒絶されればされるほどに、彼の手紙のボルテージが上がって
いくことが、そのよい証明だろう。

そして、それが。
後年。
数多の人の心に届く「幻想交響曲」という形を成したとき。

それこそが、彼の情念の勝利とも言えることなのだろう。


ベルリオーズ:幻想交響曲 第1-3楽章


ベルリオーズ:幻想交響曲 第4-5楽章



それにしても。
只管に、自分しか見つめない男でありながら。
現実世界では音楽家として大成し、二度の結婚をも成し遂げた彼。

いやはや。
たいした男である。

自分が、かく有りたいとは思わないけれどね。

(この稿、了)

クラシック名曲と恋 (生活人新書)
桐山 秀樹,吉村 祐美
日本放送出版協会

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