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その他、音楽編、自然編も有り。

クラシックミステリー 殺人の四重奏 第四楽章:王妃マリー・アントワネットの首(上)

2008-04-12 21:46:27 | 活字の海(読了編)
著者 藤本ひとみ  集英社 2006年9月30日 第1刷 1500円(税別)

本作品は、四話の短編小説で構成されている本書の、第四話目(本書風にいうと
第四楽章)に収録されているものである。


マリー・アントワネット、引いてはフランス革命について、様々な書物を読み進む
うちに、ロンドンにあるマダム・タッソーの蝋人形館には、マリーやルイ16世の
首級の蝋人形が在るということが分かった。

これだけなら、単なる際物趣味として打ち捨てられるのだが、それらが実際の
首級から型取りして作られたものである!ということを聞き及ぶに至って、
なぜ?どのような経緯で?一体誰が?…と様々な疑問が雲霞のように涌いてきた。

しからばと、マダム・タッソーについての伝記その他を探してみたのだが、
これが滅法少ない。

ルイ16世やマリーを処刑した死刑執行人サンソンが、あれほど様々な人物に
よって回想録や小説化されているのに比べて、こちらは如何にも歴史の片隅に
追いやられている感がある。

そんな中見つけた数少ないタッソーを主人公にした小説がこれ。

この小説について感想を述べる前に、マダム・タッソーについて、簡単に
おさらいしておこう。

マダム・タッソー(独身時は、マリー・グロショルツ)は、1761年 
フランス東部のドイツとの国境にあるストラスブール生まれ。

乳児の頃に父親を七年戦争で亡くし、母親の弟であり、医学博士でもある
フィリップ・クルティウスの元に身を寄せることとなる。

彼は、医術の施術例等を分かりやすく具象化するための術としてのワックス
モデリング(所謂、蝋細工)に精通しており、大学や医学校に納めたりして
いたらしい。

そうした医療用モデルのみでなく、葬式用のデスマスク等もニーズに応じて
作成するうちに、彼の技術がフランスでも認められるようになり、パリで
展示場を開いてはどうかという誘いを受けることとなる。

まだ6歳の頃、こうしてパリへと移住したマリーは、やがて博士の助手として
働き出し、そのことがその後の彼女の人生を大きく変える転回点となる。

博士(=マリーの叔父ですな)の展示場は評判を呼び、その評判に応える
形で作品をどんどんと追加していく必要が生じた。

やがて、マリーは17歳で、初めて展示場へ出品する胸像作品を仕上げること
になる。その際のモデルは、彼のジャン・ジャック=ルソーである。

やがて博士のみならず、彼女の作品作りの腕前も喧伝されるようになり、
ある日とうとうヴェルサイユから王妹エリザベートが彼女を美術教師として
召抱えたいという連絡を受け取り、ヴェルサイユへ居を構えることとなる。

このとき、時代は1780年。マリーが19歳の頃であった。
この後、1789年のフランス革命勃発寸前まで、マリーはヴェルサイユに
住むこととなる。
その意味では、彼女はどっぷりと体制側の人間であり、フランス革命の際には
ギロチンによる粛清の対象となっても全くおかしくは無かった。

フランス革命勃発の1789年当時、28歳だったマリーは、時代のきな臭さを
敏感に感じ取った叔父により、ヴェルサイユから呼び戻される。

その後の革命の奔流の中で、一時は王党派として処刑寸前までいきながら
何とか無罪を勝ち取ったマリーは、ギロチンにかけられた様々な著名人の
首級を蝋人形にして、展示館に陳列することを思いつく。

その首級は、ルイ16世、マリー・アントワネット、マラー、ロベスピエール等、
正に当時の著名人のオンパレードである。
さぞかし、展示場は盛況だったことであろう。

やがて、1794年に叔父が逝去。その後を受けて展示場のオーナーとなった
マリーは、1795年に作業助手のフランソワ・タッソーと結婚。
以降、マダム・タッソーとなる。

息子を二人授かるが、どうもこの結婚は成功ではなかったらしく、やがて彼女は
展示品の殆どをまとめて海外ツアーへ長男を連れて出立。それが夫との事実上の
別離となる。

その後に起こったナポレオン戦争のため、母国へ戻ることが出来なくなるが、
そうした事情を抱える彼女には、むしろ好都合だったのかもしれない。

ツアーは盛況だったようで、1821年頃には次男もフランスから呼び寄せる
ことに成功するが、根無し草のツアー生活に嫌気も差してきたのか、1835年に
ベーカー街に常設の蝋人形館を開館。これが今のマダム・タッソーの蝋人形館の
文字通りの基点となる。

その後、1850年に、入浴中に死亡。享年88歳。
#クリックすると、彼女自身の蝋人形と、墓碑のページ(海外)へ飛びます。

(長くなったので、感想は後半へ続く((C)ちびまるこちゃん)



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