活字の海で、アップップ

目の前を通り過ぎる膨大な量の活字の中から、心に引っかかった言葉をチョイス。
その他、音楽編、自然編も有り。

動け、動け、動いてよ■KAGAYA監督トークショーinわかやま館(その13)

2012-02-01 21:18:08 | 宇宙の海

日時:平成23年8月20日(土) 午後2時~
場所:わかやま館1Fイベントホール
主催:みさと天文台友の会
テーマ:「星への憧れ-宇宙と神話の世界-」
写真画像提供:@j_pegasus(わかやま館元シアターディレクター村田氏)
CG画像提供:KAGAYA氏(※ 掲載は、氏の許可を得て行なっています)

<Atention>
 このレポートは、KAGAYA氏のトークショー、ならびにその前後に
 氏に対してブログ主が行った質問等を再構築しております。
 内容に関して事実と齟齬等有った場合には、その責は当然ながら
 全てブログ主に帰します。


■動け、動け、動いてよ

スターリーテイルズ 星座は時をこえて」は。
KAGAYAスタジオが、「銀河鉄道の夜」「宇宙一直線」に続く三作目の
プラネタリウム番組として世に送り出したフルドーム対応4Kピクセル
仕様のCG映像作品である。


神話の時代から、悠久の時を超えて星々は宇宙を巡る。
その瞬きの元には、人間の営みが連綿と繰り広げられていく。

そして、更にそれらを俯瞰する存在としての、神々が存在する。

そうした果てしなき時の流れの中で。

遠い未来の天空においても、そこに星座は輝いているのだろうか。
その星座を見上げる人類は、まだ地上に存在しているのか。

もし、人がまだ存在しているとして。
その中に、星々の連なりに神々や様々な事物の姿を見て取った心は、
まだ残されているのだろうか。

その神々も。
かつては、人々と地上で共生していたが。
人間が得た技術の代償のように心を喪っていき、”鉄の時代”へと
この世を変えてしまったことに失望し、次々に天空へと去っていく。

最後まで人々を信じ地上に残った、正義を量る天秤を持つ女神
アストライアの思いに、人間は応えることが出来るのだろうか。

そうした様々な思いを描いた、壮大なスケールの作品である。


この作品の制作が佳境に入っていた、2011年3月11日。

東北地方を中心に甚大な被害を日本にもたらした東日本大震災が、
KAGAYAスタジオも襲った。

作品完成予定の、わずか二日前のことである。

その被害は、甚大であった。

停電による全PCの強制ダウンはもちろんのこと。
建物を襲った地震の衝撃によって、稼働中の全PCが転倒して
しまったのである。

突然の停電に加えて、転倒という物理的な衝撃。
この、ハードディスクにとってはこの上なくハードな状況は、
ディスククラッシュによるデータ破壊を容易に予想させた。


レンダリング中のハードディスクともなれば。
演算中はともかく、データをハードディスクに書き込みしている
最中であることも十分に有り得る状況である。

その状況と不意の停電やPCケースの倒壊が重なった場合に、ディスクの
クラッシュが起きていないと考える方が楽観的というものであろう。

もちろん、制作の節目毎にバックアップは取られていたと思うが、
そのバックアップもどういう媒体に記録し、どこに保管されていたか
によっては、地震の影響で保管ケースが棚ごと倒れて物理的に破壊
されてしまっている可能性だってあるのだ。

こうして。
先の「銀河鉄道の夜」の制作最終フェーズで発生したクライシス
(=ブレーカー断による全PC電源切断)よりも、更にグレードの
高いトラブルが、KAGAYAスタジオを襲来したのである。

あたかもRPGや少年ジャンプの如く、敵インフレ化の法則がここ
にも!等と言っている場合ではないのである。

このトラブルの顛末について語る前に。
そもそも、こうした作品のデータ量がどれくらいのものなのかに
ついても確認しておきたい。

前述のとおり、この作品は4K仕様。
つまり、4000ピクセル四方の映像をフルドームに投影することが
出来る情報量を持つ画面が、一秒30コマ。それが40分前後の
長さで必要なのである。

そのデータ量がどれほど膨大かについては、例えば同様に4K仕様の
作品である「銀河鉄道の夜」について、KAGAYA氏がコラムの中で
語られている


それによれば、枚数にして約69,000枚。データ量にして約1.4テラ
バイトの大きさでだったらしい。

更に、そのボリュームを体感出来る数値としては。
バックアップや配給元への配布用として、別のハードディスクへの
コピーを作成するだけで、裕に2~3日は必要だということである。


となれば。
「スターリーテイルズ」も、ほぼ同様のデータ容量を持つと思って
よいであろう。


ちなみに、4Kは最近でこそ新型テレビの目玉技術等として耳目に
触れるようになってきたが、まだプラネタリウムでも対応して
いる館はかなり少ない。

例えば、「スターリーテイルズ」の場合。
現在上映中の館は、17館。
「スターリーテイルズ」公式HP中の上映館情報より。
  ※ データは、2012年1月30日現在のもの)

そのうち、4Kピクセルに対応した投影設備を有している館は、
わずか2館のみである。

上映終了した館を加えても、その比率は4対23。

つまりは。
その本来の画像を楽しめる人は、来館者の二割にも満たないと
いうことである(収容人数や上映期間等の問題はとりあえず
考慮外)。

将来的にはこの仕様の投影設備に、各施設とも置換されていく
だろうが、これらの設備の耐用年数が通常15~20年である
ことや、館によっては30年ものの機材も順調に稼動している

いう状況からも、こうした更改は容易には進まないと思ってよい
であろう。

つまりは。
4K仕様の作品というものは、それくらい先を見越して制作されて
いる映像だということである。


その、膨大なデータの内。
果たして、どこまでが復旧可能なのか?
作業は、どこまで手戻りが発生するのか?

いや、そもそも今回の震災を踏まえた時。
これから先、CG映像を作っていられるような状況なのか?

電力も復旧しない以上、生じている被害の全容も把握出来る術も
ない。 

電池式のラジオか、携帯電話やノートPCその他のモバイルウェアを
利用しての、細々とした文字通り蜘蛛の糸をたぐり寄せるような
中での情報収集が続く。

幸い、東京エリアにおいては、ほとんどのところで翌12日には
電力は復旧
した。

その中で、まずは。
倒れたPC類を起こし、きちんと整列させ直す。
各種のケーブル類も、抜けや緩みもあったであろう。

それらを直しながら、KAGAYA氏とスタッフの皆さんの胸中はどれ
ほどの不安で塗り込められていたことか。

これまで、この作品に関与した多くの人々の労苦。
そして、この作品への思い。

音楽をお願いした姫神

KAGAYA氏と共同でCG、脚本を担当した貴希

CGを担当したコンノヒロム

アストライアやナレーションを演じた水樹奈々

主題歌を担当したORIGA


そして、もちろん監督、CG、脚本とマルチにこの作品に取り組んだ
KAGAYA氏。

その他、様々な人の様々な思いは、どうなってしまうのか。

復電後に、KAGAYA氏がPCの電源を再起動するときの気持ちは、正に
星々に祈るような心境だったことは、想像に固くない。


もし、その時のKAGAYA氏の電源ボタンを押す指が小刻みに震えていた
としても。

誰が、それを笑えたであろうか。

そうして。
アドレナリンが最高潮に分泌される中、ついに電源が再起動された。

低周波音とともに、各PCのファンの駆動音が響き出す。
BiosからOSを起動させるべく、ハードディスクへのアクセスが進む。
アクセスランプが慌ただしく明滅し、磁気ヘッドがフラッタの上を
舐めるように移動し、データを読み込んでいく。


上がった!
まずは、OSの起動、そしてログインが無事に成功する。

突然のダウンによって、場合によってはセーフモードからの起動と
なっていた機器もあっただろうが、なんとかすべてのPCにおいて
無事に立ち上げを完了。

さあ。
次はいよいよ、データの状況である。
この完璧な保管が確認できて、初めて。
審判は完了となるのである。


そして…。
データは、無事であった。

PC類も物理的な破損等は一切発生せず、復電後は倒れている機器の
整理を行えば、すぐにまたレンダリング作業に戻ることが出来た。


こうして。
地震による中断時間を除けば、ほぼ予定通りのスケジュールでもって
「スターリーテイルズ」は無事完成となったのである。


ここまでKAGAYA氏からは、「銀河鉄道の夜」「スターリーテイルズ」と、
それぞれの作品の完成にまつわるトラブルについて語っていただけた。

であるならば。
当然、両作品に挟まれて制作された「宇宙一直線」においても、何か
しらのエピソードは有ったはずではあるが。
(いや、無い方が好ましいのは言うまでもないのだが)

こちらについては、また次回のお楽しみに。

KAGAYA氏の語りは、更に「スターリーテイルズ」の制作現場について
切りこまれていく。

(この稿、続く)


スターリーテイルズ
クリエーター情報なし
aten recordings


スターリーテイルズ
クリエーター情報なし
河出書房新社



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