壺中日月

空っぽな頭で、感じたこと、気づいたことを、気ままに……

薬盗む

2011年04月05日 22時51分47秒 | Weblog
        薬盗む女やは有るおぼろ月     蕪 村

 「おぼろ月」の妖しいほの明るさによって、天上界と地上との差別の意識がなくなり、伝説の世界と現実の世界との差別の意識も薄くなったのである。おぼろ月夜の一面の特性がたしかにとらえられている。

 「薬盗む女」は、『淮南子』に見える故事で、次のようなものである。
     羿(げい)という男が、不死の薬を西王母から請い受けた。ところが、
    その妻が盗んでその薬を飲み、仙女となって月の宮に勢いよく駆け上った。
    月に住む「ジョウガ」というのがそれである。
 「女やはある」の「やは」は、本来は「女があるだろうか、いや、ありはしない」と、反語として否定の意になる。しかし、ここでは、「やは」という音によって、「女もあらん」「女あるらん」という、意味を強めるのに使われている。

 季語は「おぼろ月」で春。

    「おぼろ月夜で、天界も下界も一つになり、ほんのりと明るい。夫の手から
     秘薬を盗んだ女が仙女と化して上天したのが、あの月だと言い伝えられ
     ているが、今晩など、そういった女がそこいらにも潜んでいるような気が
     することだ」


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