壺中日月

空っぽな頭で、感じたこと、気づいたことを、気ままに……

盗人に

2010年12月20日 22時31分09秒 | Weblog
        盗人に逢うた夜もあり年の暮     芭 蕉      

 かつての歳暮における盗難の体験を思い起こしている、と解せないこともない。けれども、この一年のある夜、世の人並みに、盗人にあったという意外な体験が、年末にたどり着いた安らぎの中で、かえって、ほのかなあたたかさで思い返されている、といった感じがする。

 「盗人に逢うた」というのは、実際に盗人と顔を合わせたのではなく、盗人に入られたことがあった、というくらいの意であろう。
 「夜もあり」という口調には、怒りとか、憎しみとかを超えた、淡々とした追憶の気持が流れているようである。

 季語は「年の暮」で冬。一年を振り返りしめくくる感じとして、「年の暮」がとりあげられている。

    「今年もすっかりおしつまり、とうとう年の暮になった。一年を
     ふりかえってみると、いつであったか、この自分も人並みに、
     盗人にやられた夜があったなあ」


      天心の冬満月が声を出す     季 己