社説:風力発電 潜在力もっと生かそう
毎日新聞 2012年08月08日 02時30分
風力発電は設置に手間ひまがかかる。家庭に1台というわけにもいかない。だが、国際的にみると成長は著しい。この10年で世界の導入量は10倍に増えている。
その中で、日本の累積導入量は世界13位。1位の中国の25分の1に過ぎない。国内の全発電量に占める割合も0.4%程度。完全に出遅れた状況だ。
風力の適地がないわけではない。陸上と洋上をあわせると住宅以外の太陽光発電の10倍以上の潜在力(導入ポテンシャル)がある。これを生かさない手はない。特に北海道や東北は潜在力が高い。再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度開始で事業者の関心も高まっている。にもかかわらず導入を阻む壁がある。
適地の多くが過疎地で送電網が整備されていない。不安定な電源を入れたくない電力会社の事情も加わり、買い取り枠に上限が設けられている。結果的に発電したくても断られる。北海道電力では申し込みが買い取り枠の1.5倍を超えた。東北電力も同様の状況と見られる。
政府は送電網などインフラ整備の支援を表明している。早急に前に進めてほしい。電力会社も前向きに取り組んでもらいたい。気象予測をしながら不安定な出力を調整したり、調整用の火力発電を効率よく使う技術も日本で開発できるはずだ。
国土が起伏に富む日本では大規模陸上風力の適地は限られる。一方で、海岸線が長く洋上風力の潜在力が高い。実際、導入ポテンシャルの8割を洋上風力が占める。積極的に増やしていく必要があるが、その際に大事なのは地域との連携だ。
茨城県神栖市の風力発電会社「ウィンド・パワー」は鹿島港の太平洋岸に洋上風車7基を設置し、約7000世帯分の電力を生み出す。年度内にはさらに8基を稼働させる。沖合に100基を並べ中型原発1基分の電力を生み出すのが目標だ。
洋上は障害物がないため風力が有効に利用でき、低周波などの騒音問題が起こりにくい。一方で、漁業権の調整や環境アセスメントなど解決すべきハードルは多い。ウィンド・パワーは地元の漁業者との信頼関係構築に時間をかけてきた。風車も県内メーカーのものを使う。
風車は部品が1万〜2万点あり、産業振興や雇用への効果も期待できる。発電事業者と地元企業が協力しあえば、資金を地域で循環させることにもつながるはずだ。
産業界の中には過大な期待との声もあるが、今はマイナス面よりプラス面を考える時だ。後発の利点を生かし海外の事例にも学びたい。
社民党の脱原発アクションプログラム http://www5.sdp.or.jp/policy/policy/energy/data/energy2011_02.pdf