(レイバーネット から)
*岐阜で最初の取材のときに撮影した写真。真冬。寮の中で、夕食のテーブルを囲む中国人実習生。暖房器具のない部屋のなかでは、食事のときでもダウンジャケットを着込んだままだった。
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物置小屋と見紛うような「寮」だった。隙間風が入り込み、吐く息は白く濁った。「寒くて寝られないから」と、熱湯で満たしたペットボトルを抱いて、中国人の実習生たちはベッドに入る。みんな悲しい目をしていた。憤りと後悔と苦しみに満ちた表情で、実習生たちは言った。「私たち、人間じゃないみたいでしょ」。私はそれを否定する言葉を持たず、暗く沈んだ気持ちのまま、無言で頷くしかなかった。
岐阜県の山中で、初めて外国人研修生・実習生の取材をしたときの光景を忘れることができない。時給わずか300円の労働者を目にして、私は無力感にとらわれた。
一記者として私にできるのは「記録」することだけだ。
これをきっかけに私は日本各地をまわり、研修生・実習生の言葉に耳を傾けた。送り出し国である中国へも何度となく足を運び、研修制度を金儲けの道具として操る「当局」とも対峙した。
取材の過程で、私の興味は日本で働く外国人全般に広がる。日系ブラジル人の集住地域を訪ね、さらに、ブラジルへ飛んだ。日本人もまた「移民」として苦闘した歴史を持つことを身体と記憶に焼き付けたかった。
その「全記録」が、このほど刊行した『ルポ 差別と貧困の外国人労働者』(光文社新書)である。
その評価は読者のみなさまに委ねたい。
本書は「ペン」ではなく、「足」で書いた。そう思っている。私には誇るべきロジックはないが、足腰の強さにだけは自信がある。
だから、ロードムービーを観るような感覚で、本書を紐解いていただいても構わない。
普段、姿を見ることのできない「隣人」の実相だけでも、知っていただけたら幸いだ。
安田浩一(ジャーナリスト)
『ルポ 差別と貧困の外国人労働者』(光文社新書)