あなたは泣き寝入りをしていませんか―。働く人が自分で解決できない問題に、一緒に取り組んでくれる労働組合がある。個人でも加入できる「コミュニティー労組」には日々、突然の解雇や給与カットなどの労働問題に救いを求める人たちが相談に訪れており、組合員数の増加は止まる気配がない。背景には、非正規労働者の増加や会社に組合がないなど労働環境の悪化があり、企業内組合があるにもかかわらず加入したケースも出ている。取材した3事例を中心に、コミュティー労組の活動を紹介する。

■就業規則なし、「定年退職」迫られ…

 「コミュニティー労組に相談していなかったら、とっくに退職させられていた」。札幌の販売業の女性(64)は5年前のできごとを今でも思い出す。

 女性は60歳の誕生日直前、社長が勤務中に突然やってきて、「60歳になったら定年退職なので辞めてもらう」と告げられた。60歳で定年退職というのは初耳で、就業規則を見せられたこともなかった。職場近くの飲食店に連れて行かれ、二人きりで数時間。退職を迫る社長に次第に耐えられなくなり、「辞めます」と返事をしてしまった。

 帰宅後、冷静になって考えると、介護が必要な母親との2人の生活は週6日のパートで支えている。生活はどうなってしまうのかと不安になり、インターネットで相談できる場所がないかを調べた。

 最終的にたどり着いた東京の組合から「札幌に信頼できるコミュニティー労組がある」と紹介された。労組幹部が「就業規則がないのに定年だというのはおかしい」と団体交渉に持ち込み、半年かけて雇用の継続を勝ち取ってくれた。

 女性は「個人で入れる組合があるとは知らないで生きてきた。自分一人では働き続けることはできなかった」と感謝する。

■教育費名目で毎月天引き、返還を!

 札幌のコールセンターで働く青山泰希(たいき)さん(29)は、東京で美容師として働いていた時と現在の職場で2度、コミュニティー労組に助けてもらった。

 青山さんは札幌の美容専門学校を卒業した2007年春、首都圏の美容室グループに就職。就業規則には労働時間が「午前9時から午後7時まで」と書かれていた。実際は店への集合が午前7時半。帰宅が午後9時半。1日14時間労働が常態化しており、週1日休めればいい方だった。

 また、毎月の手取り14万~15万円の中から「教育費」名目で、月1万5千円が天引きされていた。当時は「修業中だから仕方がない」という気持ちが強く、疑問にも思わなかった。

 しかし、月に300時間を超える労働で身体に異変を来たし、札幌の実家で2カ月間休養。職場にいったん復帰したが、体調が万全ではなく、店長から「少し休んだ方がいい」と事実上の退職勧告を受けた。

 08年2月に再び札幌の実家へ戻ると、知人から「教育費名目の天引きはおかしい」と言われ、目が覚めた。この知人を通して同年夏、札幌地区労連ローカルユニオン「結」に加入。結の木村俊二書記長の助言で東京の労働基準監督署に働きかけた結果、天引き分の約20万円を会社側から取り返すことができた。

 09年末から非正規で働き始めたコールセンターは週5日勤務で、1日8時間労働。順調だったが、11年の東日本大震災後に風向きが変わった。何の指示もないまま自宅待機が続き、出勤しても「営業成績が悪い」と時給を下げられた。

 再び「結」に相談。団体交渉に臨むこととなり、駆け付けた親会社の副社長らを追及した。その結果、会社側は休業補償として、待機期間中の賃金の6割を支払うことを約束した。青山さんは「あの時、あらためて労組の力を実感した」と振り返る。

■年収カット、社内労組には相手にされず

 千人以上の組合員がいる社内労組がある企業にいながら、個人的にコミュニティー労組に加入せざる得なかった人もいる。道内の流通大手に勤めていた60代男性は6年前、人事部長に呼ばれ、「人事評価の見直し」という名目で《1》管理職から一般職への降格《2》約120万円の年収カット―を言い渡された。

 最初は会社の労組の委員長に相談した。しかし、返答は「120万円下がる人もいれば、150万円上がる人もいる。人事制度の結果」。経営者のような態度に腹が立った。

 男性は、管理職が加入できる札幌地域労組の支部の一つ、札幌管理職ユニオンに加入。同ユニオンの鈴木一書記長(当時)が内容証明郵便を送り、団体交渉を求めると、会社側は弁護士を通して賃金カットの全面撤回を回答。その後の団交を通し、賃金の現状維持と、男性に不利益な扱いをしないことを確認した。

 当時、自身も含めた管理職4人が同条件の要求を会社側から示され、1人が退職、残り2人が会社側の要求をのんだ。男性は「会社の言い分を受け入れていたら大変だった。戦う勇気を労組からもらった」と話す。

 

 札幌のコミュニティー労組には、「結」や札幌地域労組のほか、北海道ウイメンズ・ユニオン、札幌パートユニオンなどがある。2005年に結成された「結」は組合員数が当初の約20人から、リーマンショックなどを経て約500人にまで増加した。

 01年に全道組織となったウイメンズ・ユニオンも60人ほどで推移していたが、3年ほど前から組合員が増え始め、現在は約75人が加入。同ユニオンの大野朋子執行委員長は「近年は一つの問題を解決しても同じ人が別の相談に来るため、脱退する人が少なくなった」と説明する。

 労働問題に詳しい北海学園大の川村雅則教授は「既存の組合は非正規やパートの人たちを受け入れていないのが問題」と強調。労働問題に巻き込まれないためにも「学生時代からワークルールや労組の役割について学ぶことが大切」と訴えている。(高橋毅)

■個人で加入できる主なコミュニティー労組

 札幌地域労組 011・756・7790、札幌地区労連ローカルユニオン「結」 011・815・4700、北海道ウイメンズ・ユニオン 011・221・2180、札幌パートユニオン 011・210・1200

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