滝川薫の未来日記

スイスより、持続可能な未来づくりに関わる出来事を、興味がおもむくままにお伝えしていきます

景気対策は省エネルギー対策① 

2009-08-06 21:50:10 | 政策

スイスでは、この春あたりから、道路がやたらに走り難くなったと感じていました。例年にない規模で、あちこちで道路工事が一斉に始まったからです。ははあ、これが景気対策というやつか、と苦笑しました。

このようなお決まりの対策と並んで、予算の中では決して華やかな存在ではありませんが、エネルギー対策もスイスの景気対策の大きな柱を成しています。この分野が国内の経済促進に効率良く繋がることが経験から知られており、また経済と気候・環境という大問題に対してダブルの効果を持つからです。

予算が追加されたエネルギー対策は、これまでにも州や国が促進してきたプログラムに含まれるものばかりです。既に促進体制が出来上がっている対策を強化するという形をとることで、速やかに省エネルギーと温暖化ガス削減、そして地域産業の促進に繋がっていくからです。
2009年度はこれまでに景気対策として2回の予算追加が議会に承認されました。2回の景気対策のうち、エネルギー関連の対策は以下の通りです。

● 第一次景気対策では、3.4億スイスフラン(約306億円)が年始に予算に追加されました。
そこから5000万フラン(約45億円)が公益集合住宅公団、建設組合など国や州から補助を受けて建てられる所得者の少ない住人向けの賃貸住宅の省エネ改修に用いられます。これにより、およそ1000世帯分の省エネ改修が助成されます。

例えば、古い躯体をスイスの省エネ建築基準である「ミネルギー」程度にリノベーションする場合、一世帯あたり10万フランの投資ならば、うち45000フランについて、最初の5年を無利子で、次の20年を低利子での融資を受けられるそうです。それにより、家賃を高騰させることなく、省エネ改修を行うことが可能になるという配慮です。(参考文献:スイス経済省プレスリリース)
スイスの公益集合住宅の数は26万世帯だそうですから、第一次景気対策による改修量は小さなものですが、あくまでもこれは、スイスが数年来力を入れて促進してきた省エネ改修キャンペーンの弱点補う対策として捉えるべきものです。

● 第二次景気対策では、3月に7.1億スイスフラン(639億円)の予算が追加されました。

そのうちの6000万フランを(約54億円)占める3つのエネルギー対策補助金は、大反響を呼び、申請開始後僅か10週間で予算が使い尽くされ終了しました。3つの対策とは:

①光発電パネル設置促進に2000万フラン 

スイスでは2008年に、ドイツ型に近い再生可能電力の固定価格買取制度がスタートしました。しかしドイツと異なるのは、各エネルギー源に予算上限が設けられている点で、その予算が光発電に対してだけ低く、予算不足が問題となっていました。光発電については3000件もの事業者が買取申請のウェイティングリストに載っていました。
その1部を今回の景気対策で吸収しようというのです。ですが、景気対策ではあくまでも設備コストに対する補助です。そしてこの補助を受けた人は、今後改善が予測される固定価格買取制度を利用することはできません。(グリーン証書の売買はできます。)
そういう条件の下、1500基の申請があり、うち1000基が実現されました。設置出力は1.3MWp、年間発電量は1300万kWhになります。一部の州でも現在の買取制度であぶれた光発電設置希望者たちを吸収する補助プログラムを実施しています。

②電気蓄熱暖房の再生可能熱源への交換促進に1000万フラン

電気の浪費源として悪名高い電気蓄熱暖房。チューリッヒ市では以前より新設が禁止されてきました。今年より、州が共同で作る建設模範法規にも、電気暖房の新築での利用禁止が取り入れられ、実際に9州では既に禁止、またはその準備中です。
このような背景の下、多くの州は既存の電気暖房を、ヒートポンプや木質バイオマス熱源に交換することを助成してきました。今回の景気対策では、その過程を加速するもので、1600件の応募のうち、1330件での交換が助成されました。あぶれた人は、州の促進プログラムで吸収していきます。
今回の交換で年間約5000世帯分の電力消費量が節約されます。ちなみにキャンペーン中には、空気ヒートポンプへの交換だと3300フラン、地熱または地下水ヒートポンプには8000フラン、木質バイオマスボイラーには7300フランが助成されます。

③排熱または再生可能熱源を用いた地域暖房網プロジェクトに3000万フラン

熱源の80%以上を再生可能エネルギーまたは排熱で供給するタイプのプロジェクトが対象となります。この手のプロジェクトも多く進行中ですから、83ものプロジェクトが申請を行い、うち24プロジェクトが助成を受けました。灯油消費量では年間2万トンの節約につながります。


これら三つの景気対策による経済的な効果の方はというと、現段階ではあくまでも予測ですが、6000万フランの助成で市場に少なくとも3億フランの投資が誘発されるという見込みです。(参考文献:スイスエネルギー庁のプレスリリース)

いづれも部分だけを見ると焼け石に水という感じですが、省エネ対策を加速するきっかけ作りとして有意義です。また、いかに多くのプロジェクトが検討段階にあり、補助を受ける機会さえあれば実現できる状態で待ち構えているかが感じられます。もちろん①については、あくまでも対処療法的な策であり、根本からの解決には現在の再生可能電力への固定価格買取制度の改善を急ぐしかありません。

第二次景気対策では、これらとは別途に1億フランの予算(90億円)により、スイスのエネルギー政策の本命である省エネ改修プログラムの強化が行われていますが、これについては次回にご紹介します。


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