滝川薫の未来日記

スイスより、持続可能な未来づくりに関わる出来事を、興味がおもむくままにお伝えしていきます

主要都市が渇望する深層地熱の電熱両用施設

2011-01-20 15:34:25 | 再生可能エネルギー
この10日ほど、1月には珍しく、日中の気温が10度にもなるぽかぽかの天気が続いていました。小鳥たちがさえずりはじめ、庭の暖かい場所では甘い香りの蝋梅やキバナセツブンソウの最初の花が開き、早春の兆しかと思いきや、今日、雪と共に冬の天気が戻ってきました。

あと一ヶ月でスイスは再び国民投票の日を迎えます。国、州、自治体のレベルで様々な投票案件が控えていますが、私が住むベルン州での最大の目玉は、既存のミューレベルグ原発を更新するか否かを巡っての住民投票です。ベルン州では毎日のように、メディアや説明会や討論会、ポスター等により、反対派・賛成派の間で激しい攻防戦が繰り広げられていています。これについては、また後日報告するとしましょう。

今日は、スイスでの深層地熱利用への期待について報告しましょう。


©2010 Stadt St.Gallen


普及している表層地熱の利用

その前に深層ではなく、表層部での地熱の利用について少しだけ。スイスでは表層地熱の利用はこの10年ほどで随分と普及しました。新築住宅では半分以上がヒートポンプ暖房を行っていますが、その半分が地熱ヒートポンプを利用しています。

これは、建物の地下80~300mくらいまでボーリングした穴に、水を循環させて地下の熱を取り、その熱をヒートポンプを用いて温度を上げて、低温の床暖房や給湯用のお湯を作るというシステムです。 あるいは、庭や建物の基礎の下の地下2~3mに部分に、面的にホースを敷いて地熱を利用するシステムもあります。

いづれにしても、一年で地面が自然に回復する量の熱しかとらないのが基本です。これらをソーラー温水器と組み合わせて、夏の間に余壌に収穫した熱を地下に貯めておいて、冬の暖房に使うシステムについても、最近は度々耳にするようになりました。

まだこれからの深層地熱、2つの利用方法

こういったシステムとは別に、近年、スイスの都市たちが喉から手が出るほど欲しがっているように見えるのが、深層地熱の大型設備です。地下からの高温水を利用して、何千世帯もの建物に熱と電力を供給するようなものです。深層地熱については、プロジェクトが進行中のサンクトガレン市による、市民向けのサイトに分かりやすい説明があります。

http://www.geothermie.stadt.sg.ch

それによると深層地熱には、スイスでは主に二つの利用方法があります。 1つは「ハイドロサーマル方式」で、地下岩盤の間に湯の層が存在している場合。2つの地点でボーリングして、湯を地上に汲み出しし、熱交換器で熱を取った後に地下に戻すというもの。100度以上のお湯なら発電にも利用されます。

もう1つの方法は「ペトロサーマル方式」。中央ヨーロッパの場合だと地下4~6kmまでボーリングしたところで、1つ目の穴から高圧水を流して岩盤に間隙を作り、別地点に設けられた二つ目の穴からその水を吸い上げ、水の循環を作ることにより地熱を利用できるようにするものです。


©2010 Stadt St.Gallen

主要都市が競って計画する深層地熱施設

これらの技術は2030年ごろに成熟するといわれています。それでもスイスのほとんどの主要都市で、既に深層地熱施設の計画が持ち上がっています。具体的な計画はジュネーブ、チューリッヒ、バーゼル、サンクトガレン等の8箇所で進み、計画化の検討はベルンやフラウエンフェルド等の町でも始まっています。

そのうちチューリッヒ市では、約17億円をかけて2500mのボーリングが行なわれましたが、十分な温度が存在せず計画は頓挫。ジュネーブでも既に頓挫しています。そしてバーゼルでは2006年に、前述のペトロサーマル方式で岩盤に水を通す工程で震度3.4の地震を起こしてしまい、やはり断念されています。

またサンクトガレン市は昨11月末の住民投票で、深層地熱による地域暖房と発電設備に約136億円を投じることが可決されています。地下4000~5000mで、170度の湯の層に当たれば、市の住宅の半分を地熱で地域暖房できるとか。今年からボーリングが始まりますが、当たらなければ約50億円の損失となります。

南ドイツ、ウンターハーヒングの深層地熱施設

温泉層に恵まれたドイツのバイエルン
南部では、既にいくつものハイドロサーマル式の深層地熱による地域暖房・発電設備が実現されているそうです。その1つであるウンターハーヒング市の深層地熱設備について、友人の記者アニータ・ニーダーホイザーさんがスイスの雑誌「再生可能エネルギー」に書いた記事を読みました。その内容を簡単にまとめると次のとおりです:

「ミュンヘン南部にある人口2.3万人の自治体、ウンターハーヒングでは2009年より深層地熱施設の運転がスタートした。住宅地の中のカラフルな倉庫のように見える建物がそれで、近くの道路よりも静かで、臭いもせず、発電所の建物には見えない。運転は無人で、ミュンヘンの市営エネルギー会社により遠隔操作で行われている。


©Geothermie Unterhaching GmbH&Co KG

ここでは1つ目の穴が地下3400mで122度の湯、2つ目の穴が地下3800mから133度の湯の層に当たった。1つ目の穴の湯から熱を取り、60度に冷えた湯を2つ目の穴から地下に戻す。それにより一年で13000MWhの電気と70000MWHの熱を作っている。つまり、地域暖房への熱利用を中心とした「熱主導型」の施設であり、それにより経済性が取れるのだという。

冬の間は、温水の半分を地域暖房に使い、半分は発電に利用。そして熱需要の少ない夏には温水の15%を地域暖房に用い、残りは発電に利用。ウンターハーヒングの地域暖房網は40kmに及び、毎年2~4MWほど増加を続けているが、その100%をこの深層地熱でまかなっている。ちなみに一般向けの熱価格は、接続費用1500ユーロで、熱利用料金がkWhあたり2.73ユーロ。ジーメンス社が納入したこの施設は技術的にはまだプロットタイプである。」

★参照 : “Strom und Wärme im Verbund“, Anita Niederhäusern, Erneuerbare Energien Nr.5/2010
★下記のサイトから、英語のプロジェクト資料をダウンロードできます。
http://www.geothermie-unterhaching.de/cms/geothermie/web.nsf/gfx/AEEA095E9B1125D2C12576790029FA0C/$file/Projectinfo_BINE_english.pdf


深層地熱は持続可能?

でも、深層地熱は枯れないのでしょうか。スイス地熱連盟のヴィースさんに電話で尋ねてみました。ヴィースさんによると、まだ経験が浅いので計算による理論値しかないが、岩盤から熱を取るペトロサーマル方式では熱を吸収できる面積が限られており、また熱の回復に時間がかかるため、地熱を引き出すスピードのほうが地熱が回復するスピードよりも速いそうです。そうすると岩盤が冷えるので、30年くらいで経済的に施設を運営できる温度が得られなくなると言います。そのフィールドの温度は60~100年くらいかけて自然に回復しますが、継続的に利用するためには、別のフィールドが近くに必要になります。

対してハイドロサーマル方式では、湯の層が広く分散しており、岩盤から熱を受ける表面積が大きいため、熱の回復が早く、より継続的に使うことができるとヴィースさんは言います。実際に、バーゼル市に接するリーヘン市では1994年から地下1400~1600mにある60度の湯層を利用して地域暖房が行なわれていますが、熱源の温度は運転開始当初と比べて全く冷えていないそうです。もちろんこれは、地質や湯の使い方にもよるでしょう。

スイスの場合、省エネと地上の再生可能エネルギーが先では?

この話を聞いて私は、特にペトロサーマル方式の深層地熱については、持続可能な再生可能エネルギーと呼べるのか、と疑問に思いました。スイスの都市部がこぞって深層地熱を求めるのは、排気や騒音も輸送もなく、比較的短期間で、町に大量のエネルギーをコンスタントに供給できる、という性質のためでしょう。しかしその考え方自体が、集中型のエネルギー供給の構造への固執のようにも思われます。

もちろん日本のようにスイスとは比較にならないほど地熱が豊富にある地帯では事情は異なります。
ただスイスの場合、大金をかけて深層地熱という地下資源を利用する前に、地上にある資源をもっと有効活用すべきではないか、と思うのです。その最大のものは、建物の省エネ改修と節電対策です。さらに適した屋根面を太陽熱温水器と太陽光発電設備に最大限に利用する工夫等々も、深層地熱より先ではないでしょうか。

もちろん将来には、あらゆる再生可能エネルギー源のミックスが必要であり、深層地熱もその1部だと言われています。でも深層地熱を利用していくならば持続可能な方法で、例えば既に表層地熱で行われているように、太陽熱温水器(あるいは排熱)との組み合わせにより、夏の間に岩盤や湯層に熱を戻し、熱を保存するような方法も探索すべきではないかと思います。
私にとっては、まだ疑問の多い、スイスにおける深層地熱利用なのでした。


この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 環境税:CO2税還付金で、... | トップ | ベルン州、原発更新を巡る住... »
最新の画像もっと見る

再生可能エネルギー」カテゴリの最新記事