滝川薫の未来日記

スイスより、持続可能な未来づくりに関わる出来事を、興味がおもむくままにお伝えしていきます

環境税:CO2税還付金で、大企業が中小企業の温暖化対策をサポート

2011-01-07 15:40:47 | 政策

CO2税収を用いた助成金を受けて断熱改修する親戚の家

年明けの週末は、中央スイスの山小屋に親戚が集まり、近況報告に花を咲かせました。特に興味深かったのが、南スイスに住む義母の住宅改修話。築100年は経つと思われる建物に住んでいる彼女は昨年、全ての窓を昔の複層断熱窓から、最新の3層断熱窓に交換しました。そうしたら、以前は暖房しても本当に温かいとは感じられなかった住まいが、格段に快適になったそうです。しかも、国の断熱改修への助成制度を利用して、窓1㎡あたり70フラン(約6千円)の補助金がもらえたとのこと。「二層断熱窓と変わらぬ値段で、最新の3層断熱窓が入れられたのよ」と、嬉しそうに話します。
(※補足までに、窓改修への助成の条件は、ガラスのU値が0.7W/㎡K以下であることです。)

スイスのCO2税の用途と還付、免税の仕組み

このスイスの断熱改修への助成制度の財源となっているのが、2008年より化石燃料(灯油・ガス)に課税されているCO2税です。今年度もCO2の排出量1tあたり36フラン、灯油100ℓあたり9.5フランが課税され、一年の税収は約6億3000万フラン(約536億円)。そのうち2億フランは、上記の建物の断熱改修の助成金に当てられています。 建物の断熱改修は、スイスで最も重要な温暖化対策のひとつだからです。

残りの税収は、家庭には1人あたまいくらで健康保険経由で、企業には老齢遺族年金の対象となる給与額と相関していくらで、というふうに還付されます。今年度のCO2税の還付額は私の健康保険の料金を見てみると、月2.70フラン(約230円)が値引きされています。企業には10万フラン(約850万円)の給与につき131.10フラン(約1.1万円)が還付されます。誰にも一定額が還付されるので、化石燃料の消費量が少ない家庭や企業ほど得をします。

もう1つ、スイスの炭素税で特徴的なのは、企業が政府のパートナーである産業エネルギー機構と協定を結び、拘束力のあるCO2削減・省エネ目標を立てて、それを守っていればCO2税が免除される点です。率先して省エネに取り組む企業ほど得をするというわけです。これまでにスイスの企業によるCO2排出量のおよそ半分については、この削減協定が結ばれています。ただし、目標を達成できなければ企業は罰としてCO2税を遡って支払わなくてはなりません。

大手サービス業による中小企業への連帯、スイス気候基金

こういったスイスのCO2税の導入によって何もしなくても得をするのが、燃料消費量が少ないけれども高給取りな銀行や保険会社といったサービス業の会社です。対して、スイス経済の底力と言われる数多くの中小企業たちは、十分な省エネ対策を行なう資金に乏しいことも多く、そこにはまだ大きな省エネポテンシャルが潜んでいるといわれています。

そこで、スイスの21の大手サービス会社(主に保険と銀行)は、共同でスイス気候基金を設立して、そこに各社のCO2税還付金から納税額を差引いた分を寄付。これを用いて、中小企業の温暖化対策プロジェクトを共同で助成する連帯の仕組みを作りました。基金には、これまでに約800万フラン(約6.8億円)が寄せられ、その額は2012年までに倍増するそうです。

中小企業がスイス気候基金から助成を受けられるプロジェクトは、下記の3分野に限られます。
・ 直接的なCO2削減対策や省エネ対策。1MWhの節電につき10フラン、CO2では1tの削減につき30フラン。
・ 温暖化防止に繋がる革新的な製品や技術の市場導入。
・ 産業エネルギー機構と中小企業が省エネ協定を結ぶためのコストの50%。

スイス気候基金のパートナーである大手保険会社や銀行にとって、中小企業はお客様。その関係を利用して、この助成制度を利用するように中小企業に呼びかけます。例えば、手元にあるチューリッヒ州銀行のパンフレットでは、顧客の中小企業に向けて、産業エネルギー機構と協定を結ぶとエネルギーコーチングボーナスを出しますよ、と勧誘しています。こうして昨年前半までだけでも60の中小企業が、スイス気候基金の助成を受けて産業エネルギー機構と省エネ協定を結んでいます。

環境税、CO2税が還付されるという制度が前提となりますが、CO2排出量の少ない大手サービス会社が中小企業の省エネ化を支える自発的な連帯の仕組みは、日本にとっても参考になりそうです。


スイス気候基金にCO2税還付金を寄付する大手企業21社の一例
アリアンツ・スイス、AXAヴィンタトゥール、ベルン建物保険、チューリッヒ建物保険、スイスライフ、スイス・リー、オルタナティブ・バンク、ライフファイゼン銀行、PricewaterhouseCoopers、マイクロソフト・シュバイツ、バンク・サラセン&CieAG・・等

参照:
www.klimastiftung.ch

短信

 ● ドイツ、太陽光発電が2012年にグリッドパリティ達成の見込み
太陽光発電による発電価格が、市場での電力販売価格と同じ値段にまで下がることをグリッドパリティと呼ぶ。これを達成した時点で、電力消費者は自家発電・消費した方が得することになり、太陽光発電の普及にいっそう拍車がかかると考えられる。ドイツのバーデン・ビュルテンベルグ州立銀行によると、このグリッドパリティ、ドイツの家庭用電力では2012年に、産業では2019年に達成される見込みだという。理由は発電設備の価格低下と一般電力価格の高騰のためである。気候条件の変わらないスイスでのグリッドパリティは、家庭用電力で2018年に達成と業界団体のスイスソーラーは予測している。ドイツよりも6年も遅いのは、スイスの一般電力の価格がドイツよりも安いためである。現在スイスの家庭用電力は平均kWhあたり25ラッペン(約22円)、ソーラー電力は48ラッペン(約41円)。
参照:
www.nein-zu-neuen-akw.ch

● ソーラーボートPlanetSolar号、最速での大西洋横断記録
スイスの冒険家ラファエル・ドムヤンら6人が率いるソーラーボートPlanetSolar号は、世界一周航海の途上にある。9月27日にモナコを出発し、大西洋を横断、マイアミ、カンクーンを経て、12月20日にはコロンビアのカタゲナに到着した。世界初のソーラーエネルギーによる大西洋横断は、2007年にスイスのソーラーボートTransatlantic21が既に果たしており、ギネスブックに載っている。対してPlanetSolarr号は、最短期間でソーラーエネルギーにより大西洋横断。ラ・パルマスからサンマルタンの間の4982kmを26日19時間10分で航海した。
参照: PlanetSolarプレスリリース www.planetsolar.org

● 「ソーラー・再生可能エネルギーによる冷房シンポジウム」、シュトゥッツガルト
2011年2月10日にメッセ・シュトゥッツガルトで、再生可能エネルギーによる冷房をテーマとした第3回国際シンポジウムが開催される。主に太陽熱やバイオマスエネルギーを使った冷房分野での技術開発の最新傾向を紹介する。太陽熱冷房は、日本にとっても目が離せない技術分野の1つだろう。詳しい情報は下記サイトで。
シンポジウムのサイト:
www.cep-expo.de

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