滝川薫の未来日記

スイスより、持続可能な未来づくりに関わる出来事を、興味がおもむくままにお伝えしていきます

「足るを知る」と「ゼロ成長で失業なし」の模索が始まる?

2011-01-01 14:15:27 | その他

あけましておめでとうございます!!
昨年は、ローカルかつ細かなエネルギーの話題にお付き合い下さり、どうもありがとうございました。

さて、今年最初のブログは、スイスのエネルギー業界で良く聞くようになった言葉「スフィツェンツ(独Suffizienz-英Suffciency)」についてです。「十分にある」という意味の言葉ですが、最近は「足るを知る」という意味で使われています。そこには暮らしのあり方における「足るを知る」と、その先のもっと大きな経済システム自体の「足るを知る」への転換の両方が含まれます。

この3年ほど前からエネルギー関連のシンポジウムに行くと、必ずといっていいほどこの「Suffizienz(足るを知る)」について話されるようになりました。それまで、持続可能なエネルギー利用といえば、Effizienz(効率を上げること、省エネすること)とErneuerbare(再生可能エネルギー)の双子という理解でした。しかし、これだけでは持続可能な社会を達成できないことが認識され、Suffizienz(足るを知ること)が加わったのです。

この「足るを知る」は、「諦める」とはまた違うニュアンスで使われているようです。基本的にスイスの場合、我慢はしないで、生活の質を下げない・あるいは上がる方法で省エネするというのが、これまでの主流でした。それが「足るを知る」によって、ある程度の生活レベルをキープしながら、それ以上(の成長)はいらないね、というニュアンスが加わったように思われます。

こういった流れの背景には、様々な問題があります。世界的な経済や環境の危機を経ても、成長を前提とする経済原理の上に進行し続ける社会。広がる国内の経済格差。ピークオイルの到達。そして、省エネ性能が上がっても、機器の台数や住面積が増えて、省エネ効果が相殺されるリバウンドの現実。同様に公共交通を充実させるほどに、移動距離も増える問題。建設活動による土地消費増加への危機感・・等々。

スイスのエネルギー庁のシナリオによると、オフィシャルな社会ビジョンである2000W社会(CO2排出量が1人頭年1トンの社会)を実現するには、技術改革だけでなく、社会・生活の改革が欠かせないといいます。とはいえ、「足るを知る」こそ自発的に促すのは難しいもの。エネルギー庁の副長官は、市民啓蒙に頼ったエネルギー施策に効果はないことは90年代の経験から分かっている、と明言しています。一番効果があったのは、法律による消費量規制と石油価格の高騰でした。行政により「足るを知る」を促すとは、エネルギー消費と環境汚染に対する税額を上げ、同時に環境負荷の少ない世帯が得するような仕組みを、今よりももっと徹底して社会に浸透させることなのかもしれません。

先週にはベルン州の大手新聞「Der Bund」と「BernerZeitung」の両誌に、「デクロワッサンスDécroissance~成長強制からの開放のための論点と情報」という30ページの冊子が織込まれていました。「デクロワッサンス」というのはフランス発祥の「脱成長」運動で、スイスではフランス語圏を中心に広がってきたのが、ようやくドイツ語圏にも到着したということ。この冊子は、バーゼルシュタット州の新聞が配布したのが読者に大変好評で、制作会社に多くの寄付金が寄せられたため、ベルン州にも配布される運びになったそうです。

ページをめくっていくと「失業者のないゼロ成長は可能」とか、「成長の論点に反論する」といったタイトルの記事が掲載されています。前書きには、スイスの場合、成長は既に解決策ではなく、成長の強制自体が問題なのだ、とあります。スイスの著名な科学ジャーナリストのUrs.P.Gascheも寄稿していました。彼はこの秋に共著で「成長狂を止めよ~転換に向けた弁論」を発表して話題になりました。

随分と前から今の経済のシステムが継続するわけがないと誰もが思いながら、それに代わる経済システムのビジョンが明確に描けないでいる今日。デクロワッサンス運動は、一般市民の間での議論の活性化に一石を投じそうです。

スイスでは、2011年から3度目の10ヵ年エネルギー行動計画がスタートします。中央ヨーロッパの自治体たちのエネルギー自立運動からも目が離せません。新年も長持ちする日本づくりに役立つような発信を続けて行きますので、読者の皆様のご活動にお役頂ければ幸いです!


短信

● 持続可能な魚しか売らないことを選んだスイス生協
世界中で過剰漁業が進行する中、持続可能な漁業からの魚を求める消費者が増えてきている。生協コープ社は同社の環境パートナーであるWWFが発行する問題のない魚のリストを魚貝類の販売に反映させている。コープ社は、WWFがリストの中で「推薦しない」と格付けした魚については販売を中止。「難点あり」とする魚種については、安売りせず、別の漁場や漁法からの納入路線を探す。コープで販売されている天然魚の38%がMSC認証を受けている。MSC認証は持続可能な漁業による天然魚を認証するマークだ。また養殖魚については、売上げの30% がオーガニック飼育基準の認証を得ている。
参照:www.coop.ch


● 「2回目のクリスマス」キャンペーン
毎年、12月24日から1月8日まで、スイスでは「2回目のクリスマス」というキャンペーンが実施される。クリスマスプレゼントの中から要らない新品の衣料や食糧、乾物を箱詰めし、郵便局に持っていくと無料で赤十字に届けてもらえる。ボランティアにより仕分けがなされ、国内および東欧の貧困世帯に分配される。昨年度は7.2万個の小包、453トンがこうして集まった。うち250トンは国内で分配された。今年で14回目を迎えるこのキャンペーンは、赤十字とスイスの国営ラジオ・テレビ会社、郵便局が共同で実施している。
参照:https://www.2xweihnachten.ch/

 ● ベルリンの旧空港施設でグリーンファッションの見本市
2011年1月20~22日にかけてベルリンで、エコファッションウィーク・ベルリンが開催される。20~21日は業界関係者のみ。22日は一般人も入場可能だ。開催されるのは閉鎖された旧テンペルホフ空港の建物。現在は文化・イベント施設として再利用されているそうだ。特に興味深いのは303haという広大な緑地を、市民に自然公園「テンペルホーファーパーク」として解放している点。この冬には歩くスキーも楽しまれているという。
参照:www.thekey.to(英語)

この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« ベルン市の新しいゴミ&エネ... | トップ | 環境税:CO2税還付金で、... »
最新の画像もっと見る

その他」カテゴリの最新記事