滝川薫の未来日記

スイスより、持続可能な未来づくりに関わる出来事を、興味がおもむくままにお伝えしていきます

エネルギー自立と地域通貨

2012-10-29 21:51:23 | その他

●エネルギーの秋

紅葉も盛りを過ぎたなと思っていたら、冬時間と共に本当に冬が訪れました。初雪です。
9月末から〆切・視察・視察準備に忙殺され、あっという間に10月末となりました。この10月はお天気には恵まれませんでしたが、とても充実した、楽しい視察セミナーになりました。参加者の皆様ありがとうございました。

さて10月のスイスは「エネルギーの秋」と呼んでもいいほど、関連の会議やイベント、出版物が多い季節です。ハイライトは恒例のスイスエネルギー大賞で、19日には最先端のプラスエネルギー建築たちが表彰されました(それについては次回に報告します)。

また家庭の郵便受けには、ベルン地方紙の共同増刊新聞「再生可能エネルギー」が届きましたし、エネルギー庁からは持ち家世帯にエネルギー・シュバイツの「持ち家主のための増刊号」が届きました。それらの中では、新しい脱原発・脱化石政策である「エネルギー戦略2050」の内容や、その具体的対策、先進地域や省エネ改修の模範的方法、家電の選び方などが、分かりやすく説明されています。

さらに、スイスで二番目に大きな小売りチェーン店のコープ生協の週間新聞も省エネ特集でした。10月27日は国のエナジーデイで、節電型家電への買い替えキャンペーンが国の主導で全国的に張られていたためです。

●村上敦さんの新著「kWh=¥(キロワットアワー・イズ・マネー)」

話は変わりますが、今日は地域通貨とエネルギー自立地域の話です。本「100%再生可能へ!欧州のエネルギー地域」の共著者である村上敦さんが、先日、単行本「kWh=¥(キロワットアワーイズマネー)~エネルギーが地域通貨になる日」(いしずえ出版)を出版されました。



人口減少により存続が危ぶまれる日本の地方自治体が、近い将来にも基礎機能を維持し続けるために、エネルギー自立によりお金を地域で循環させたり、コンパクトなまちづくりを行っていくことの重要さがとても分かりやすく語られており、お勧めです!

地域経済の活性化を目指す本であるため、この本はアマゾンではなく、地元の本屋さんで注文して頂くというコンセプトだそうです。購入方法は下記から見られます。
http://www.ishizue-books.co.jp/


●エネルギー自立地域と地域通貨


再生可能エネルギーや省エネに投資することで、エネルギー資源にではなく、地域の人にお金が循環するようになる。それが、欧州中部の農村部でエネルギー自立を国民的運動に発展した一番の理由です。そういう意味で、村上さんの本の副題も「エネルギーが地域通貨になる日」となっているのだと思います。

ここ数か月、農村地帯にあるいろいろなエネルギー自立自治体を訪れる機会がありましたが、多くの自治体で(エネルギー面だけでなく)本物の地域通貨も発行していたのが印象的でした。 例えば、オーストリア・フォーアールベルク州の灯油のない村を目指すランゲンエッグ村(既に87%を達成)では、村で地域通貨「タレント」を発行しています。この村は州都のブレゲンツからバスで山を登ること40分ほど、標高700~800mにある人口1000人強の山村です。

提供 Bild Quelle: Gemeinde Langenegg、パノラマ

ランゲンエッグの「タレント」は地元の組合銀行と郵便局で注文したり、毎月定額を購入したり、またこの銀行を通してユーロに再換金することができます。 ただし、購入する時は5%得する(100ユーロで105タレントが買える)のに、再換金する時には10%損します(100タレントで95ユーロしか戻ってこない)。換金せずに、村のお店や職人さんへの支払いに使った方が得する仕組みなのです。

村の行政の方の話によると、このランゲンエッグ村の1タレントは、村の内部で一年で平均3回は支払手段として使われているそうです。村で発行されているタレント額は年1700万円分に及ぶそうですから、それが3回使われる(循環する)ということは、村の中で年5100万円の売り上げが生じたことになります。人口1000人余りの村にとっては大きな額です。
 

ランゲンエッグ村が地域通貨タレントを導入したきっかけは、村の最後のスーパーが閉店されるにあたり、村が自らスーパーを建設したことだそうです。貸し店舗ですが、村の意向で品揃えも昔のスーパーよりずっと多様で、大抵の食品と日用品なら村スーパーで賄えます。しかし作ったからには、住民に村スーパーで買い物してもらわねば困るので、タレントを導入したのだといいます。村では住民のVereine(協会、サークル活動)に補助金を出していますが、補助金もタレントで支払われています。


提供 Bild Quelle: Gemeinde Langenegg、パッシブハウス基準の村スーパー

このように、村では「近場で生活に必要なサービスを供給できる」村づくりに力を入れてきました。近場での生活サービスとは、村の商店に限らず、基礎医療、学校、銀行、郵便、そして公共交通、再生可能エネルギーなどが含まれます。そのためにも村では地域開発計画を作り、中心地を高密度化し、離れた場所への新築を禁止しています。そして近場の町へのバスを一部助成して一時間に2本運行し、歩道と自転車道を整備、2台目の車が要らない、中心部なら歩いて用の済ませられるような村づくりを実施しています。

そしてエネルギー自立農村ではもうお馴染みの話ですが、このランゲンエッグ村でも地元の木を用いた高度な省エネ建築作りを実践しています。例えば中心部にあるモダンなデザインの木造幼稚園は、有害物質を一切使わずに、無垢のモミ材で作られた暖かな空間が特徴的です。施主である自治体は、木材を村の農家から直接購入しました。先述した村のスーパーも同様の性能の木造建築です。自治体は建設でも運営でも、地域のお金が地域外に流出しないような、建て方を徹底して選んでいるわけです。こういった未来ある村づくりのための取組を、ランゲンエッグでは昔から村人と行政の成るテーマごとのチームが中心となって、住民参加によって実行してきました。

エネルギー自立の村たちは、省エネ・再生可能エネルギーだけでなく、幅広い意味で地域の資源とお金の循環を創出することにより、未来にも村人の生活の質を維持する道を見出しているのです。

ランゲンエッグ村のサイト www.langenegg.at


ニュース

●スイス:2050年までにエネルギー消費量-50%が目標
9月末にスイス内閣はエネルギー戦略2050に関する諸法律改訂案と第一対策パッケージ案を、関連業界への聞き取りに送り出した。エネルギー戦略2050は脱原発と脱化石を同時に目指す総合的なエネルギー政策のロードマップである。目標となるビジョンは2050年までの一人頭の最終エネルギー消費量を50%減らすこと。エネルギー関連のCO2排出量についても一人頭1~1.5t(現在5t)と野心的だ。最重要の対策分野は建物の省エネ改修である。詳細は後日報告する。より詳しい資料は下記リンクから見ることができる。
リンク(エネルギー庁):http://www.bfe.admin.ch/themen/00526/00527/index.html?lang=de

●スイス:ビール市とグレンヒェン市が共同で風車パーク開発
ビール市とグレンヒェン市は州境を挟むが隣同士の町だ。両町は、それぞれの都市インフラ公社(市営エネルギー企業)を通じて、それぞれの町の近くの敷地で10MWと12MWのウィンドパークプロジェクトを計画中である。2か所のプロジェクトではあるが、距離が近く、同時に進行しているため、両市ではプロジェクトの開発から建設、運営までを共同で行うことにより、プロジェクトの経済効率を高めることを目指す。例えば風車の共同購入などだ。スイスの多くの都市公社が周辺外国の風車パークへの投資に熱心であるのに対し、この二つの小さな町ではあくまでも地域のお金を地域に投資することにこだわる。

●スイス:ジュネーブのメッセ屋上にスイス最大の太陽光発電
ジュネーブ市の都市インフラ公社SIGでは、ジュネーブ市にあるメッセ会場Palexpo(株)屋上に、スイスで最大の屋根置き型太陽光発電を設置した。出力は4.2MWで、1350世帯分の電力を発電する。SIGの投資額は1500万フラン(約14億円)。kWhあたりの発電価格は33ラッペンとなっている。同設備はメッセ会場が一年で消費する電力の30%を生産することになる。施工にあたっては、メッセ会場の屋根を強化する必要があった。ジュネーブ都市インフラ公社は、原子力電力の混ざらない電気のみを住民に販売しており、再生可能電力の増産に熱心に取り組んできた。
出典:Palexpo AG、SIGプレスリリース

●スイス:ケーニッツ町のソーラー屋根台帳、都市部でも19%の潜在性
首都ベルンに接する町、ケーニッツの環境・公営事業部では、自治体内の全ての建物の屋根を対象としたソーラーエネルギーの利用ポテンシャルを示すGIS地図「ソーラー屋根台帳」をインターネットで公開した。このサイトでは、住民の誰もが関心のある建物の屋根の利用ポテンシャルを知ることが出来る。調査の結果、ケーニッツ町での太陽光発電の「現実的ポテンシャル」は年40GWh。町の電力消費量の19%に相当する。ケーニッツでは、自治体のエネルギー戦略2010~2035の中で、2035年までに電力需要の80%を再生可能エネルギーで担っていくことを目標に定めている。ソーラー屋根台帳は下記のサイトから見られる。
リンク:http://intralis3.iz-region-bern.ch/weboffice/synserver?project=Solarpot
出典:ケーニッツ町プレスリリース

●スイス:閣僚、森林内の風車設営は基本的に可能
スイス内閣は「森林内および森林牧草地上における風力設備の設営の簡易化」報告書を承認し、森林地帯内への風力設備の建設は基本的に可能であることを認めた。内閣は現行の法的基礎では森林内の風車設置は許されており、森林関連法の改訂は必要のないと結論付けた。この報告書は伐採条件、および風車設置のための州の伐採許可過程そして、伐採面積の代替について解説している。新しいスイスのエネルギー戦略2050では、2050年までに年4TWhの電力を風力で生産することを目指す。そのための適正地は部分的に森林地帯とも重なっている。
出典:連邦エネルギー庁プレスリリース

●ドイツ:カッセル「100%再生可能エネルギー地域」会議
9月末にカッセルで、ドイツ環境省後援による「第四回100%再生可能エネルギー地域会議」が開催され、800人が集まった。参加者は自治体関係者やデベロッパー、コンサル、市民、エンジニア等。地域のエネルギー自立について具体的かつ多面的に議論が繰り広げられた。今年は、都市部のエネルギー自立、ツーリズム、都市計画、交通といったテーマが取り上げられていたのが新しい。また、コングレスの枠内で、新たに4地域が「100%再生可能エネルギー地域」に、10地域が「スターター地域」に表彰された。新しいカテゴリーとして、フランクフルトをはじめとする2都市が「100%アーバン地域」に表彰された。現在ドイツには74の「100%再生可能エネルギー地域」、56の「スターター地域」があり、計132地域には1970万人が住んでいる。
リンク: www.100-ee-kongress.de

 ●ドイツ:フランクフルトでR水素の天然ガス管注入開始へ
2050年までに100%再生可能エネルギーを目指すフランクフルト市に、風力と太陽光発電からの電気で作った水素を地域の天然ガス網に注入するデモンストレーション設備がMainova㈱により設置された。設備は2013年に運転開始の予定。Mainova㈱によると設備は毎時60㎥の水素を生産し、毎時3000㎥の水素を混合させた天然ガスをフランクフルトのガス網に供給する。
出典:www.energynet.de/2012/09/26/pilotanlage-zur-energiespeicherung-im-kommunalen-gasnetz-in-frankfurt-am-main/#more-7842

 


 

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