滝川薫の未来日記

スイスより、持続可能な未来づくりに関わる出来事を、興味がおもむくままにお伝えしていきます

シャフハウゼン州立博物館で最終処分場についての展示

2014-04-01 10:05:29 | その他

スイスにも、通常より2~4週間早く、春が訪れました。ベルン近くでも野生のフラミンゴの飛来が観察されるなど、温暖化が確実に動植物に影響を与えています。3月末の暖かな日曜日に、私たちは北東スイスのシャフハウゼン市にある州立博物館を訪れました。郷土の自然と文化をテーマとしたこの博物館で、昨年末より3月末まで開催されていた、放射性廃棄物の最終処分場に関する特別展示「長時間、最終処分場(Langzeit und Endlager)」が、知人の間でとても評判になっていたからです。学芸員によるガイド付き見学会には、大人や子供が40人くらい集まっていました。

スイスでは、放射性廃棄物の最終処分・地層処分というテーマについて論じられる時、科学技術的な視点に偏ることが多いのですが、この展示は人類の文化史、自然史という視点から展開されていました。地層処分の意味する時間の長さを、地域史を介して訪問者に具体的に説明したり、あるいは体で感じさせるような展示方法が、上手く出来ていました。

3階にある展示会場に到る階段ホールの壁には、2億5千万年の地層が描かれ、階段一段が500万年を物語ります。現代に到達した後、展示はまず原子力の歴史を紹介します。19~20世紀前半の原子力の初期研究に始まり、核実験、商用原発、原子力推進活動と反対運動、電力需給の発展、数々の事故といった内容です。特に福島第一原発事故については大きなスペースを割き、1日目、2日目、3日目、4日目、5日目、そしてスイス内閣の脱原発決断の報道の日を、別々のi-padで示していました。



その後、スイスで現在考えられている150年間の地層処分の基本計画が説明されます。スイスでは原発を運営する電力大手と国が共同で運営する組合Nagraが、放射性廃棄物の最終処分に責任を持っています。70年代から処分用地を探していますが未に決まっていません。上記の計画では、用地決定・建設の後、2050~65年までに地下に廃棄物を移送、その後50年間に渡り観察、2112年から2117年が閉じ込めるという計画になっています。そして全てが上手く行けば、2118年にNagraは処分場の長期監視の責任を、スイス連邦へ移譲(!)するんだそうです。

 そこで、100~150年という時間軸がどれくらい経済的、政治的、技術的な変化を伴うものか展示は示します。当時の自動車技術を振り返り、またヨーロッパ大陸の国境の変化や国の統治形態の変化など具体的に振り返ります。そもそも、2118年もNagraが存在しているのでしょうか?私は、スイスの大手電力自体が、少なくとも今のような形では存在しないと思います。長期間の保存には、「永続する組織」が必要で、それは過去を振り返るといかに難しいことかを展示は示していました。

さらに、この地域に人類が住み始めた15000年前からの人類の文化史を、旧石器時代、鉄器時代、エジプトやローマの高度な文化、アメリカの発見、宗教改革から資本主義に至るまでざっと振り返ります。また、コンクリートやガラス、金属等、様々な素材の経年変化も示し、私達の素材に関する経験・証拠が、歴史的には1万年くらいしかないことを伝えます。



展示の一番の見せ場は、建物の幅を一杯に使った50mの長いトンネルのような通路です。スイスの法律では、高レベルの放射性廃棄物は100万年安全に貯蔵しなければならないことになっています。100万年という時間を50mに縮小し、右側が過去、左側が未来を示します。ショックなのは、この地域の人類の文化的な歴史については、はじめの75㎝(1.5万年分)で終わってしまうことです。ネアンデルタール人の絶滅も1.5mくらいの地点です。その後は、骨や石器など、小さな展示物がありますが、人類の歴史に関わる展示物は50万年のところで途切れてしまうのです。その奥の展示キャビンには氷河期などを示す図が収められているだけです。対して、未来のキャビンには、放射性物質の線量の低減を示すグラフが収められています。中には100万年経ってもほとんど線量が減らない物質もあるのに驚きました。


最後は、コミュニケーションというテーマで締めくくります。国の原子力法では、最終処分地は継続的に、すなわち1万年くらいの間に渡り、それと分かるようにマーキングしないといけないことになっています。展示では多くの古文書が、いかに偶然と幸運により生き延びたのか、また解読が可能になったのか、あるいは言語というものが僅か数百年の間にいかに変わるのかということが示されています。どうやって1万年後の人に誤解されないように放射性廃棄物であることを伝えるのか、どうやってマーキングのための構造物を盗まれず、壊れないように建設するのか、世界中の奇天烈な案を交えながら難題をつきつけます。

展示の中では最後まで、どう解決すべきかという答えは出されていません。ただこの展示を見た人ならば誰もが、未来の世代に対してのつけをこれ以上増やさないために、今すぐにでも放射性廃棄物を増やすことは止めるべきだと思うでしょう。このような展示が、人口8万人の小さなシャフハウゼン州で実現されたのは、州南部に中・弱レベルの廃棄物の、そして州境のすぐ側に高レベル放射性廃棄物の最終処分候補地の一つがあるからです。地元住民と州政府は、非常に強く反対しています。



ニュース

●スイス:高齢原発、ベルギーで運転停止、スイスでは動き続ける
Sonntagszeitung誌によると、先週、ベルギーで原発を運転するElektrabel社は、原子炉圧力容器の素材に関する安全性試験の「予想外」の結果を受けて、自発的に2基の高齢原発Doel3とTihange2 を即時運転停止させた。試験結果は非公表となっているが、よほどの危険性を示す内容であったことが伺われる。これらの原発と同様のメーカの圧力容器が、スイスの高齢原発ミューレベルクでも用いられている。また、運転開始から45年が経つベッツナウ原発一号機の経年劣化問題をSonntagszeitungは指摘する。原発専門家であるシュテファン・フュグリスター氏がグリーンピーススイスの依頼を受けて行った調査によると、ベッツナウ原発(一号・二号)で過去10年間に起こった故障や欠陥71軒の半分以上に経年問題が関わっている。経年劣化や技術的の老化、設計上の欠陥などである。ベルギーで実施されたのと同様の安全性試験はベッツナウ原発にも求められているが、3年の実施猶予期間が与えられている。ドイツ環境省の核技術設備安全課代表であったディーター・マイヤー氏は、調査書「スイスの高齢原発のリスク」の中で「高齢化による変化は往々にして見えない場所で起こり、いつ事故に繋がるかを予期することは全く不可能」と述べている。ドイツでは同様モデルの原発は、安全上の理由から既に運転が終了されている。

参照:Sonntagszeitung、GreenpeaceSchweizプレスリリース
ダウンロードリンク:サマリー「スイスの高齢原発のリスク」http://www.energiestiftung.ch/files/ses_kurzfassung-studie_altreaktoren.pdf

 
●スイス:ベルン州でミューレベルクを止めようキャンペーン開始
ベルン州では5月18日にミューレベルク原発の即時運転終了を求める住民イニシアチブの投票が行われる。投票キャンペーンが下記のサイトから始まった。自分の宣言を入れた写真をアップロードすることができる。www.muehleberg-stilllegen.ch
5月18日には、St.Gallen州とSolothurn州でもエネルギー政策関連の重要な住民投票が行われる。St.Gallen州では「エネルギーヴェンデ~St.Gallenは出来る!」の住民案と政府対案。Solothurn州では州憲法にエネルギーヴェンデの推進についての項目を入れる変更についての投票である。
参照:Swisssolar Newsletter
 

●スイス:フラウエンフェルト市で下水熱による低温地域暖房
未利用エネルギーの一つである下水熱の利用は、スイスでは比較的に長い歴史があり、全国の300箇所で様々な方法で利用されている。トゥールガウ州の州都のフラウエンフェルト中心街では、現在、下水熱による地域冷暖房の配管工事が進行中だ。下水処理場で処理した後の「処理後水」の排熱を利用するため、媒熱管内には低温水が流される。それを熱源として、各建物に設置した分散型のヒートポンプで必要とされる利用温度に上げる。この地域暖房を運営するのは、「フラウエンフェルト熱株式会社」。同市の都市公社と隣町のヴィンタトゥール市の都市公社、そして地域の下水連合が共同出資した会社である。熱の販売はコントラクティング(エスコ事業)で行われ、「フラウエンフェルト熱株式会社」が媒熱管や熱交換機、ヒートポンプを設置し、熱消費に応じて建物持主から料金を回収する。今年の夏には竣工する第一工期では中心街に3.5㎞の地域暖房網が敷かれる。2016・17年に予定されている第二工期では町のスポーツ施設が接続される予定だ。
参照:www.waerme-frauenfeld.ch

 
●スイス:チューリッヒ都市公社EWZがイランツ町に木質バイオ地域暖房・ORC発電
チューリッヒ市の都市公社EWZは、山地グラウビュンデン州イランツ町との協力の下、3月から同町に地域暖房網の工事を開始した。病院や庁舎を含む中心街の大手消費者45棟に今年秋から30年契約で熱を供給する。熱源は木質バイオマスの廃材(70%)と森林材(30%)。それにピーク時、非常時用の石油ボイラー5MWが併設される。チップボイラーの大きさは2.5MWで、発電用のORCモジュールの出力は350kWと小型である。熱の生産量は年7000MWh、エコ電力の発電量は1.8GWh(360世帯分)を予定する。年間計算では熱の8割が再生可能エネルギーとなる。地域暖房網のトラスの長さは4㎞。このほか、チューリッヒ市都市公社では、グラウビュンデン州の4か所の村や町で地域暖房網を計画している。中でもKloster町の地域暖房は、トンネル排水熱と木質バイオマスを組み合わせた面白いコンセプトで、2015年に実現される予定だ。
参照:EWZ社プレスリリース

 
●スイス:国鉄SBB、2025年までに100%再生可能エネルギーに
スイス国鉄で使われている鉄道用の電力は、今日、80%が水力であり、ヨーロッパの中でもクリーンな鉄道会社である。同社では国のエネルギー戦略2050を受けて、2025年までに100%再生可能エネルギーに転換することを決定した。その際に省エネに力を入れる。同社では2008年より省エネプログラムを実施し、今後も企業全般でのエネルギーマネジメントにより、省エネ効果を高めて行く予定。目標は2010年比で2025年までに、仕事量あたりのエネルギー消費量を20%減らすことである。再生可能エネルギー源の増産については、現在様々なオプションを試験中である。
参照:SBBプレスリリース

 
●スイス:2013年には370万㎡が省エネ改修
国の省エネ改修助成プログラムの統計によると、2013年には同助成を受けて370万㎡の表面積、1.1万棟の建物が省エネ改修を実施した。助成額は合計1億3000万スイスフランになる。とはいえ省エネ改修率はまだ1%程度。省エネ改修の内訳は、窓が35万㎡、屋根が160万㎡、ファサードが130万㎡。助成金の財源となっている化石熱源へのCO2課徴金額は2014年から60スイスフランに値上げされ、それにより十分な財源が確保されている。
出典:Das Gebäudeprogrammニュースレター

 
●ドイツ:juwi社と都市公社のウィンドパーク、3万世帯に供給
ヘッセン州の元都市公社EVO社(現在は民営化)と再生可能エネルギーのディベロッパーjuwi社のジョイントベンチャーにより、間もなくラインラント・プファルツ州フンガースベルク山地に新しいウィンドパークが竣工する。Vestas V112 タイプの風車10基から成るパークの総出力は30MW。非常に風況の優れた内陸立地で、年3万世帯分の電力を生産する予定だ。630人の従業員を抱える地域密着のエネルギー供給会社EVO社は2015年までに2億ユーロを再生可能な熱と電力の設備に投資することを目標とし、これまでに1.7億ユーロの投資をjuwi社をパートナーとして行ってきた。風車に関しては38基を実現し、22万人分の電力を生産している。フンガースベルク山地のウィンドパークの実現にあたっては、地域住民が地元銀行の一種の定期預金を介してウィンドパークに出資できるようにした。7月5日にはヘッセン州とラインラント・プファルツ州の経済エネルギー大臣の参加の下、ウィンドパークお披露目の住民祭りが開催される。
参照:juwi社プレスリリース

 
●ドイツ:お勧めの映画「エネルギーヴェンデと生きる~その2」
ドイツのテレビジャーナリストであるフランク・ファレンスキ氏は、「エネルギーヴェンデ潰し」の情報キャンペーンが張られる中、エネルギーヴェンデについてのより公正な理解を促すために、昨年、インターネット上で映画「エネルギーヴェンデと生きる(その1)」を無料公開した。その後、ドイツのエネルギーヴェンデを巡る状況が刻々と変化する中、映画も更新され、「エネルギーヴェンデと生きる~その2」が新たに無料でインターネット公開されている。映画の所々で現れる、数字の比較が印象的だ。
リンク:Leben mit der Energiewende 2
http://www.youtube.com/watch?v=7FskMLVQFbY

 

写真

●ドイツ:3月22日にデモ「エネルギーヴェンデを救おう!」に3万人参加

ドイツでは新政府がこの夏ごろまでに予定している再生可能エネルギー法の改訂により、再生可能エネルギー源からの電力の分散型の増産に強いブレーキがかかることが懸念されている。3月22日には分散型の市民の手によるエネルギーヴェンデを守るために、ドイツの7都市でデモが行われ、3万人ほどが集まった。写真はマインツ市とヴィースバーデン市でのデモの様子。石炭火力勢力のルネサンスへの反対の声が大きく聞かれた。「原発いらない、石炭いらない、私達が欲しいのはエコ電力!」とのスローガンが繰り返された。5月10日に次のエネルギーヴェンデ・デモがベルリンで実施される予定だ。
http://energiewende-demo.de/start/anreise/


マインツ市の劇場前広場でエネルギーヴェンデ・デモに集まる人々


「市民エネルギーヴェンデ」と書かれた棺を連立政府の政治家たちが担う演出


「エネルギーヴェンデを今!」と書かれた長さ40mの横断幕


「新しい露天掘り作るな!エネルギーヴェンデは脱石炭だ


マインツからヴィースバーデンへの行進、ライン川を渡る橋は人の山


「太陽と風力をNOW」、ドイツの将来の二つの主要電源




「これはあなたが払うよりも多くの費用がかかります。隠されたコストのない再生可能エネルギー」



脱原発・脱石炭を求める市民たち「エネルギーヴェンデを炭化させるな!」


「100%再生可能エネルギー」、ヴィースバーデン市でのデモ、4500人ほどが集まった


ヴィースバーデン市、ヘッセン州議会前での分散型でスピーディなエネルギーヴェンデを求める市民の集会


この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 「メルケル首相への手紙」(... | トップ | 締め切り間近! ドイツ・スイ... »
最新の画像もっと見る

その他」カテゴリの最新記事