滝川薫の未来日記

スイスより、持続可能な未来づくりに関わる出来事を、興味がおもむくままにお伝えしていきます

ベルン市の新しいゴミ&エネルギーセンター

2010-12-27 20:18:06 | 再生可能エネルギー

スイスはイヴから雪が降り出して、気温は低いけれども、お日様が輝くクリスマスとなりました。

クリスマスのプレゼントの中で、嬉しいのは何といっても手作りの
ものです。大家のおばあちゃんから頂いた10種類くらいの生地の異なる手作りクッキーと祝日用のパン。家の前の大きなクルミの木から収穫したナッツ。イタリアに近い南スイスに住む親戚が育てて作った乾燥トマトにブドウジャム。そして友人の作ったシナモンの入ったロウソクなど。いづれも年末の一時を、ゆったりとした気持ちで過ごさせてくれるものたちです。

私たちからのプレゼントは手作りではありませんでしたが(涙)、こちらで親しくしている方々には2010年にドイツでヒットしたドキュメンタリー映画「第4の革命~エナジーオートノミー」のDVDをプレゼントしました。100%再生可能なエネルギー供給による文明改革をテーマとした映画ですが、この分野の技術や政策は変化が早いもの。内容が古びないうちに英語・日本語版が出て欲しい!!と願っています。

 ベルン市のゴミ焼却場はエネルギーセンター

さて、今日もまた最近気になっている工事現場の話です。スイスの首都であるベルン市西部の高速道路のすぐ側で、2009年から巨大な建設現場が進行中です。「フォルストハウス・ウェスト」と名づけられたこの施設は、ベルン市の新しいゴミ処理&エネルギー複合施設として注目されています。


Quelle : Forsthaus West, ewb

そのメインの機能は新しいゴミ焼却場。スイスのゴミ焼却場には排熱利用が義務付けられていますので、ここでも地域暖房と発電が行なわれます。最新の技術により、新しいゴミ焼却場からのエネルギー獲得量は、既存のゴミ焼却場の倍に増えるそうです。

さらに「フォルストハウス・ウェスト」では、ゴミ焼却と木質バイオマスのチップボイラー、そしてガスコンバインドサイクル設備を組み合わせて、発電・地域暖房を行なうコンセプトになっています。施設全体では、年380GWhの電気と250GWhの熱、75GWhの蒸気が生産される予定です。それにより、ベルン市内の450棟の建物(大学や病院、中央駅も含む)に、地域暖房網による熱供給が行われます。

全施設の建設コストは5億フラン(約425億円)。直接民主制のスイスでは自治体の大型プロジェクトの予算は住民投票で決定されます。ベルン市民は2008年に「フォルストハウス・ウェスト」の予算を88%の賛成票で可決。この頃からベルン市の住民には、100%再生可能な電力供給という未来への意思が固まってきていたようです。


2039年までに100%再生可能な電力供給、のための一歩

先月末に人口12.3万人のベルン市民は、2039年までに100%再生可能エネルギーで電力供給するという市政府のプランを住民投票で認証しました。建設中の「フォルストハウス・ウェスト」は、そのための第一ステップでもあります。

スイスの町は市営のエネルギー・水道会社を所有するのが普通で、それが市の政策を反映した熱・電気・ガス供給や、水道・下水道の運営、あるいはゴミ焼却までを行なっています。ベルン市の場合は、市営の電気水道ベルン社(EWB)を持っています。

EWB社のこれまでの電力供給の内容は、約40%が再生可能エネルギーとゴミ、約60%原子力でした。これを100%再生可能に転換するためにEWBは、一方では新しい原発には資金参加せず、今ある既存原発との契約を更新しないことで原発電力をフェードアウトさせ、他方では2039年までに再生可能な電力の生産量を年11~16GWh(2000~2900世帯分)増産。2030年までの投資額は、4億7000万スイスフラン(約4000億円)という計画です。

現在計画されているEWB社の電源のポートフォリオは、河川水力、小型水力、既存の揚水発電の出力拡大、バイオマス、陸上風力、太陽光発電、深層地熱のミックス。風力については、今年ドイツのウィンドパークの、8000世帯分の電力を生産する設備に投資しています。また節電に関してEBW社では収益の10%をエコフォンドに入れて省エネ対策に用いたり、今年からは電力消費量を1年で10%減らす顧客には、kWhあたりの電気料金が15%安くなるというユニークな取組みも実施しています。

木質バイオとガスとゴミという組合わせ

まずゴミ焼却場では年11万トンのゴミから蒸気を作り、電気と地域暖房熱・蒸気を作ります。発電量は年38GWh。ゴミ・チップ・ガスから生じる蒸気の一部は、下水処理場と洗濯工場に供給します。下水処理場では、この熱を汚泥の嫌気性発酵処理に利用します。発酵処理で生じる汚泥消化ガスを燃料として、ベルン市では今日既に30台の市バスが運転されていますが、ゴミ焼却場からの熱供給により、燃料利用できる汚泥消化ガスの量がさらに増える見込みです。

次に木質バイオマスのチップボイラー。これも同様に蒸気を作り発電し、熱は地域暖房に回します。熱需要の少ない夏の間はチップボイラーのスイッチを切っておきます。熱の生産量は145GWh、電気は33GWh。電気は、固定価格買取制度を利用して売電。年11.2万トンというチップの納入ロジスティックを担当するのは、EWB社から委託を受けた専門業者。25km圏内からの低質材(間伐材、廃材、端材)チップを一日トラック25台(!)分も納入するそうです。

三つ目の要素はガスコンバインドサイクル発電設備。これは2032年までの過渡期設備として位置づけられていて、その後は再生可能電源で代替していく計画だといいます。もちろん排熱は地域暖房に利用します。面白いのは、熱需要の大きな冬の間は熱生産が主要になるように運転し、熱需要の少ない夏の間は発電量が多くなるように運転するという点。ガスとチップのボイラーは、熱需要のピークカット、設備故障時のバックアップとしての機能も担っています。

しかし、このガス設備の発電量は年270GWh。上記のチップやゴミの設備と比べると桁外れに多いので拍子抜けします。「フォルストハウス・ウェスト」によりベルン市のCO2排出量が増えるのでは?と疑問を抱きますが、総合的にはEWB社のCO2排出量はこの施設により年5.7万トン減るのだそうです。というのも、この施設により同社は、CO2排出量の大きな輸入電力を購入しなくて済むのと、多くの建物の灯油暖房を排熱利用の地域暖房によって代替できるためだ、と発表しています。

ベルン市の新しいゴミ&エネルギーセンターは2012年にオープンです。同年にオープンする環境アリーナと並んで、是非皆さんと訪ねてみたい施設です。その頃にはベルン市営エネルギー会社の「100%再生可能戦略」もさらに明確になっていることでしょう。

参照:
www.ewb.ch



短信

●2010年度、ペレット熱価格はガスと灯油よりも継続的に安い
スイスでのペレット価格を比較する中立のサイトPelletpreis.chによると、10月末のペレットの熱生産価格(ラッペン/kWh)は、灯油よりも9.6%安く、天然ガスよりも16.5%安い。2010年1月から継続的にペレットによる熱生産価格は、ガスと灯油のそれを下回り続けている。10月末のペレットの熱生産価格はkWhあたり8.04ラッペン(約6.8円)。灯油は8.81ラッペン(約7.5円)。ガスは9.37ラッペン(約8円)である。
出典:
www.pelletspreis.ch

●製薬会社ファイザーのフライブルグ工場は90%再生可能エネルギーで運営
 製薬会社ファイザー社のフライブルグ工場(ドイツ)が、バーデン・ビュルテンベルグ州から環境賞産業部門を授賞した。総合的な環境対策マスタープランに基いた200対策の蓄積が授賞に繋がったという。エネルギー消費量の90%に再生可能エネルギーを利用しているほか、製品の生産における環境性とエネルギー効率の向上、職員の意識向上活動や環境教育などにも取り組む。2009年にはヨーロッパ最大のペレット暖房を導入。それにより蒸気を作り、工場とラボの必用な冷房熱を作る。ペレットには地域で生産された、環境基準を満たすものを使っている。このペレット設備だけでも50万ユーロのコスト削減に繋がったそうだ。電力には100%再生可能な水力を購入。これらにより年1.2万トンのCO2削減を達成。 工場の増改築にあたっては、建物を高密度化し、緑地を増やした。平均以上の断熱性能を与え、日中光利用や、日射遮蔽も十分に考慮。オフィスの冷暖房には地熱を利用。エネルギー・マネジメントの中心として、エネルギーと資源の流れを月間報告書にまとめている。
参照:ファイザー社プレスリリース
www.pfizer.de

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