滝川薫の未来日記

スイスより、持続可能な未来づくりに関わる出来事を、興味がおもむくままにお伝えしていきます

ファザード材に進出する太陽光発電~コストを回収できる建材として

2014-10-04 08:27:13 | 建築

●ようやく終わった家探し

この夏から原稿の締め切りとエネルギー・環境視察が交互に連続したため、ブログ更新に記録的な間が空いてしまいました・・・。気が付けば早くも10月。厳しい冬が訪れる前の、太陽の温もりが有り難い季節になりました。

 

その間、プライベートでも様々な転機が訪れました。夫の庭園設計アトリエの移転に伴い、この年末に14年間住んだベルン州を離れ、東スイスのシャフハウゼン州に引っ越すことになりました。新しい地域でのスタートが楽しみである半面、見慣れたアルプスの景色や首都ベルン周辺での生活が名残惜しくも感じられます。

 

引っ越しにより、ミューレベルク原発の10㎞圏内での暮らしは終えられますが、東スイスの新居は(遠いとはいえ)4基の原発の風下地域。集落のある小高い山の上からは、天気の良い日には、50㎞は離れたゲスゲン原発とライプシュタット原発の冷却塔からの雲が見えます。北スイスに住んでいる限りは、原発のリスクからは大きくは離れることはできないことを身に染みて感じます。何しろ、原発の50㎞圏で線引きを行うと、スイスは人口の6割が入ってしまうのですから。

 

●家探しの中で出会った様々なエネルギー性能の建物たち

新居探しは、何年も前から行っていたことでした。しかし、スイスでは人口が毎年1%のペースで増えており、なかなか住宅難です。そのような中、私達が望むエコロジー性やコミュニティ、そして自然環境や十分な広さの庭・畑といった条件を満たし、かつ経済的にも現実的な物件というのが、とにかく見つかりませんでした。詳しくチェックした住宅数は戸建てや賃貸100軒以上、実際にはスイス全国で30軒は見に行きました。

 

戦後の中古戸建ても多く見ましたが、省エネルギー改修の費用を考慮すると(将来的に省エネ改修が義務化されるということもあり得ますし)、新築並のコストがかかるようなものばかりです。中には電気暖房が付いた中古戸建てもありました。これらは、脱原発対策の一環として15年以内の交換が今後義務化されますから、一見リーズナブルでも、間もなく熱源の全面交換の費用がかかる建物ということになります。

 

しかしそんな中でも、様々な再生可能エネルギーを使っていたり、パッシブハウスレベルの省エネ性能を持ちながらも、良心的な価格の戸建てや賃貸集合住宅にも、少なからず出会ったことも事実です(これまた、それ以外の条件が合わなかったので残念ながら選べませんでしたが・・)。

 

●知人夫妻が建設したリーズナブルなミネルギー・P・エコの賃貸集合住宅

引っ越し先が決まった後に出会った事例になりますが、先々週には、スイスのパッシブハウス協会の事務局を務めている知人夫妻が経営する不動産会社が建設したミネルギー・P・エコの賃貸マンションが竣工したので、入居前に見せて頂きました。チューリヒから電車で40分ほどの町の駅近くの集合住宅地です。木造4階建て、健康な室内空気と、明るく広々とした空間が素敵な快適住宅ですが、一般住宅と変わらない賃貸価格で驚きました。

 

視察で見学するスイスのミネルギー・P・エコ建築は、都市部の建設組合式住宅以外は、高所得者向けの建物が多かったこともあり、一般市民や若い人でも手の届く賃貸の集合住宅市場に進出してきているのは嬉しいことです。当たり前のように屋根には太陽光発電がついており、熱源には地中熱ヒートポンプが使われていました。

 

出所:Immowerft GmbH/www.immowerft.ch
 

ちなみにこの集合住宅の賃貸価格は、最上階の大きなテラスのついた135㎡の4.5室住居で月2200スイスフラン。居間には蓄熱式薪ストーブが付いています(追加の暖房熱は必要ないため雰囲気用だそうですが)。それよりも小さな96㎡の3.5室住居では月1600スイスフランです。ミネルギーでない新築の賃貸住宅とそう変わらない価格帯です。これらの住宅には、最高の省エネ性能の洗濯機、電磁調理台、食洗機、換気(暖房)が付いています。また、階段室に機械・洗濯室、地下には物置室が付いています。通常の賃貸住宅と異なり、換気・給湯・暖房費は住民が個人で払いますが、「年」で200スイスフラン程度ということで、パッシブハウス(ミネルギー・P)の大きな恩恵を感じるところです。

 

●ミネルギー・P改修されたローマンスホルン町中の賃貸マンション

今年の冬には、東スイスのボーデン湖岸にあるローマンスホルン市の中心街・駅近くの、ミネルギー・P(パッシブハウス)基準に改修されたプラスエネルギー集合住宅が貸しに出されている広告を見ました。太陽光発電パネルをファサード材として使った特徴的な外観で、昨年のスイスソーラー大賞を受けた建物であることがすぐに分かりました。賃貸価格は92㎡の湖の見えるバルコニー付の住宅で月1690スイスフラン、付帯費用(暖房・給湯費用を含む)が100スイスフランと、性能の高さにも関わらず、これまた一般の賃貸住宅と同程度の良心的な価格です。

 

出所:www.solaragentur.ch/Eco Renova AG

 

建物は、1962年に建てられた6世帯集合住宅・店舗建築を2011~12年に総改修・増築し、22世帯の住宅の入る集合住宅に改修したものです。外壁を30㎝程度の断熱材でくるみ、エネルギー効率の高い設備に交換することにより、床面積が増えたのにも関わらず、エネルギー消費量は70%減ったそうです。それに加えて、南・西ファザードとバルコニーには53kWの太陽光発電を仕上げ建材として利用、屋根には26.3kWの太陽光発電と69㎡の太陽熱温水器を設置しています。ちなみに太陽熱温水器からの温水は、高さ7m、容量6万リットルの蓄熱タンクに貯められます。

 

市内の集合住宅の改修であっても、徹底した省エネとファザードのエネルギー生産への利用によって、建物内での消費量(電気・熱)よりも多くのエネルギーを生産するプラスエネルギー建築になっています。施主は不動産会社EcoRenovaで、高度な省エネ・プラスエネルギー改修に特化した会社です。

 

 

●じわじわと増える、ファサード材としての太陽光発電利用

現在スイスの電力生産に占める太陽光発電の割合はまだ1%ですが、ほぼ屋根置き型のみになっています。屋根にとても綺麗なおさまるような施工はかなり普及しています。ですが、近年ではパネル価格が安くなったこともあり、まだパイオニアの領域ではあるものの、上記の事例のようにミネルギー・P建築のファザードに建材として太陽光発電が上手く取り込まれた建築の数がじわじわと増えてきています。他の建材とは異なり、太陽光発電はエネルギーを生産し、短い間で「生産エネルギーとコストを回収できる建材」です。

今日10月3日に発表された、2014年のスイスソーラーエネルギー大賞でもそういった傾向が顕著です。ファザード一体型の太陽光発電を用いた、プラスエネルギー・省エネ建築の受賞事例を、下記のリンクから見ることができます。

http://www.solaragentur.ch/medien

 

ファザード材一体型の利用例と言えば、最近では南ドイツのソーラーコンプレックス社のビルの改修例が思い出されます。9月に総改修後のお披露目会が行われたばかりです。この改修では、中心街にある60年代に建てられたビルでパッシブハウスレベルへの断熱・気密強化を行い、外壁材として東・南・西のファザードに、そして屋上に計90kWの太陽光発電を設置しています。改修では断熱強化、断熱三層窓、機械換気設備、熱橋改修、高効率オフィス機器やポンプへの交換等を行っています。

 
写真:www.solarcomplex.de

ドイツでは(スイスよりも顕著に)太陽光発電の設置コストが安くなり、また電気代が高いことから、太陽光発電の電気を売電せずに、直接消費するタイプの設備が増えてきています。ここでも、作った電気はオフィス内で使い、足りない分はバイオガスのミニ・コージェネ(発電出力5kW、熱出力15kW)で自給、排熱は暖房・給湯に利用しています。そのために5万リットルの蓄熱タンクをこの建物でも地下室に置いていました。

  

とりとめのないブログとなりましたが、最後に、ベルン州の湖水地方で建設現場を見たソーラー温室の写真を貼り付けます。温室の屋根の一部に、日射をを透過するタイプの太陽光発電を用い、日よけにもなっています。温室メーカGysiのサイトを見ますと、こういった太陽光発電を屋根の一部につけて日よけとしても活用した温室は、今日ではそんなに珍しいものではなくなってきているとのことです。

日本では野立ての太陽光発電設備が多いですが、建物一体型や駐車場などの場所の二重利用による太陽光発電もいっそう進むことを期待しています!

 

 

参加者募集

●「MIT-SSS視察セミナー2月1日~7日」

2015年2月1~7日に、MIT社とSSS社の共同主催により、オーストリア西部と黒い森地方、フライブルクにて、森林、木造建築、省エネ、バイオマスエネルギーをテーマとした視察セミナーを開催します。参加者を募集中ですので、興味のある方は、プログラムと詳細を下記リンクよりご覧下さい。

http://www.mit-energy-vision.com/fileadmin/content/MIT-japanisch/Seminar/MIT_SSS_Seminar201502F.pdf

 

 

記事掲載

 

●ビオシティ60号「生命福祉コミュニティ宣言!:福祉の見えるまちづくり 

まちづくりと環境の総合専門誌である「ビオシティ」の創刊20周年+60回記念号が10月8日に販売されます。特集テーマは「福祉の見えるまちづくり」ですが、私は「オーストリア西部の山村地域に見るコンパクトな村づくり」を寄稿しました。アクティブな住民と自治体の取り組みに寄る、コンパクトでエネルギー自立型の村づくりにより、人口1000人規模でも老若男女にとって暮らしやすい、魅力的な村々が育っている様子を伝えています。

http://bookend.co.jp/?p=296

 

●フクシマニュース8月号、9月号

スイスのエネルギーをテーマとした環境団体であるスイスエネルギー財団の月間ニュースレターの一環として、日本における福島第一原発事故のその後の影響について、ドイツ語でニュース報告しています。

8月号:

http://www.energiestiftung.ch/aktuell/archive/2014/08/20/fukushima-news-august-2014.html

9月号:

http://www.energiestiftung.ch/aktuell/archive/2014/09/23/fukushima-news-september-2014.html

 

 

●新エネルギー新聞 5号、6号、7号、9

農林社の発行する再生可能エネルギーをテーマとした業界新聞「新エネルギー新聞」(隔週発行)に、欧州ドイツ語圏のニュースと写真を毎月1ページ程度の文量で寄稿しています。6号では、ドイツの再生可能エネルギー法改訂について紹介しています。下記リンクから購読を申し込むことができます。

http://www.newenergy-news.com/

 

●ソーラーコンプレックス社ニュースレター第3号(翻訳)

ドイツの市民エネルギー企業ソーラーコンプレックス社のニュースレターの翻訳版の作成をMIT Energy Visionではサポートしています。下記より、9月号ニュースレターを読むことができます。

http://48787.seu1.cleverreach.com/m/5989726/

 

 

ニュース

 

●スイスの老舗市民エネルギー協同組合ADEV

ドイツだけでなく、スイスでも市民エネルギー協同組合は昔からあり、その数は近年増えてきている。中でもバーゼル近郊に拠点を置くADEVは、老舗の市民エネルギー協同組合で360人の組合員を持ち、9人の職員が働く。20年前の買取制度のない時代から、主に国内での風力、太陽光、小水力の発電設備を、市民出資により実現してきた。これらの設備からのグリーン電力証書の販売も行ってきた。今年の夏には、チューリヒ州立学校の屋根に600㎡の太陽光発電を設置し、24世帯分の電力を発電する。ADEVが州立学校から屋根を賃借して建設した。ADEVでは、これまでにADEVでは10MWの太陽光発電設備を実現している。その中には2013年に高速道路の騒音防止トンネルの屋根に設置された興味深い設備もある。

参照:http://www.adev.ch/de/

 

●ルツェルン州のソーラー屋根台帳

2014年の春からルツェルン州では、州域の建物の屋根のソーラーエネルギー利用(太陽光、太陽熱)の適性や収穫量、CO2削減量および灯油節約量などを調べることができる「ソーラー屋根台帳」を公表している。適した建物の所有者の連絡先を州から教えてもらうこともできる点が、事業者にとっては興味深い。下記リンクからこのソーラー屋根台帳を見られる。スイスではここ数年、多くの自治体でソーラー屋根台帳が実施されるようになった。

リンク:http://www.geo.lu.ch/map/solarpotential/

 

 

●スイスのエネルギー村アルトビューロン

ルツェルン州のアルトビューロン村は、(南ドイツと比べると太陽光発電普及の遅れた)スイスでは太陽光発電がかなり普及している方の村になる。現在、人口991人の村の産業も合わせた年間電力消費量の32%を太陽光発電で生産している。人口一人頭では1.6kWの設置量だ。もちろん屋根置きのみである。特に熱心に設置を進めてきたのが村の2人の企業家たち。木造会社と建設会社の社長2人である。それぞれの企業の屋根に1700㎡と5300㎡のパネルを設置した。さらに村長と村政府も積極的で、公共建築のすべての屋根に太陽光発電を設置。その予算は住民投票により住民から許可された。加えて多くの農家や一般住宅、地元銀行の設置した太陽光発電がある。その他、アルトビューロン村では、地域の森からのチップを用いた地域暖房や省エネ対策も行われている。

出典:Erneuerbare Energien Juni 2014
写真:www.altbueron.ch
 

●スイス:再生可能な熱エネルギーが17.6%

スイスの連邦エネルギー庁が発表した2013年の再生可能エネルギー統計によると、2013年には熱消費に占める再生可能エネルギーの割合が17.6%になった。内訳の中で一番大きいのがバイオマス、その次に環境熱(温度差エネルギー)、そしてゴミの再生可能エネルギー分(ゴミ焼却排熱の半分)が続く。再生可能な熱エネルギーの割合は、1999年以来倍増した。熱分野はスイスのエネルギー需要の半分を占める分野であるため、この分野の大幅な省エネと再生可能エネルギー化は非常に重視されている。

対して電力分野では、2013年の生産量に占める水力の割合が56.6%、新エネが3.4%であった。総最終エネルギー消費量に占める再生可能エネルギーの割合は21.1%で、微増している。

参照:エネルギー庁再生可能エネルギー統計、Allianz Atomausstieg

 

スイスの原発、廃炉時期はまだ不明

スイスの環境団体からの連邦核監督局への批判が高まっている。9月1日にはベッツナウ原発一号炉が運転開始45年を迎え、世界で一番古い現役原発の記録を更新し続けている。8月には、ミューレベルク原発の定期検査でシュラウドに新たなヒビが見つかったが、そのことについては再稼働後になって報道された。また7月にはライプシュタット原発で、格納容器に6年前から6つもの穴が開いていたことが分かった。消火器の設置の際に職人が間違って格納容器に穴をあけてしまったのが原因だそうだが、連邦核監督局は6年間も気が付かなかった。

この夏、エネルギー戦略2050関連の諸法案改訂について、国民議会のエネルギー部会での審議がようやく終了した。基本的に長期運転を可能にする法案になっており、廃炉年が現時点では明確でないのが問題だ。2019年の運転終了が決まっているミューレベルク原発以外については、原発運営会社は50年、60年の長期運転を狙っている。エネルギー戦略2050の諸法案は、次の冬に国民議会で決議される。

参照:Allianz Atomausstieg他

 

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