滝川薫の未来日記

スイスより、持続可能な未来づくりに関わる出来事を、興味がおもむくままにお伝えしていきます

工事現場も建物運営もカーボンニュートラルな「環境アリーナ」

2010-12-20 10:44:50 | 建築

 環境技術を体験してもらう常設展示場

チューリヒ市の郊外で大型ショッピングセンターが立ち並ぶシュプライテンバッハ町。
そこに現在、環境技術のための常設展示場「環境アリーナ(Umweltarena)」の建設が進められています。
2012年にオープン予定のこの建物、運営エネルギーを再生可能エネルギーで自給するだけでなく、工事についても「世界発のカーボンニュートラルな大型建設現場」であるといいます。


Quelle:Umweltarena

「環境アリーナ」プロジェクトを立上げ、実現するのは、建設会社シュミード社の社長であるヴァルター・シュミードさん。
スイスの環境パイオニアの中でも、カリスマ的ビジネスマンとして有名な方です。シュミードさんは長年、社の利益の1部を様々な環境事業に投入してきました。その中で開発された、自治体や産業の生ゴミからバイオガスとコンポスト(堆肥)を製造するコンポガス技術はヒット商品となっており、遠くは日本にも技術輸出されています。

そのシュミードさんの最新プロジェクトが「環境アリーナ」。ショッピングセンターを梯子する感覚で、「環境技術を手にとって見られるようにする」ための、展示スペースとインフォメーションセンターです。

太陽熱で冷房、100%ソーラーエネルギーで運営

建物は、スタジアムに幾何学的な形の屋根をかけた形をしています。屋根材は5300㎡の太陽光発電パネルで出来ており、施設の運営に必用とする以上の電力を生産する計画です。 (写真上)

「環境アリーナ」の冷暖房は、ソーラーエネルギーと地熱を併用しています。冷暖房には、コンクリート天井の中に敷設した60kmのチューブに温水・冷水を通して天井に蓄熱・放射させることで、やんわりと快適に冷暖房する「サーモアクティブ建材(TABS)」の手法を採用。この手法では高温の冷水により冷房、低温の温水による暖房ができるのが特徴です。

熱源となるのは、建物の地下を利用した蓄熱体です。建物の下には9kmの地下チューブが敷かれて、その中を不凍液が循環しています。地下から熱交換器を介して取り出した熱を、夏の間にはそのまま冷房に用い、冬の間はヒートポンプ経由で暖房に使います。さらに夏の間の余剰熱は、地下の蓄熱体に送り込んでおいて、冬に使えるようにします。 住宅では実用化されているシステムですが、このように大きな建物ではまだ珍しいものです。

また短時間で素早く冷が必用な時のために、太陽熱温水器の熱で動く吸収式冷媒機も備えられています。具体的には、天気の良い日に太陽熱温水器で作った熱湯を、容量7万ℓの蓄熱タンクに蓄えておきます。そして冷房が必要な時には、この熱から吸収式冷媒で冷水を作り、それをもう1つの7万ℓの蓄熱タンクに蓄えておくのだそうです。このシステムに必用な電力は、太陽光発電パネルが作ります。(下図参照)

下記リンクから7万ℓのタンク施工の様子がヴィデオが見られます。

http://www.umweltarena.ch/de/erdkollektoren_und_speichertanks_content---1--1076.html


Quelle: Umweltarena

カーボンニュートラルな建設現場

建設現場では、可能な限り環境に負荷が小さく、CO2を排出しない方法を選んだといいます。例えば、地下駐車場を建設するために採掘した砂利を近くのコンクリート工場に運び、生コンクリートを作らせた後、同じトラックで現場に戻して基礎の建材として使うことで、トラックの空輸送を節約しています。

建設に必要な電力には、電力会社から水力とバイオマス電力を購入。現場小屋には太陽光発電パネルが設置されています。また、シュミット社の建設重機には、燃料としてバイオガス・天然ガスが用いられ、一部のトラックには食料廃油やバイオディーゼルが利用されています。

そして最後に残るCO2排出量をオフセット団体に依頼して相殺する、という方法で、建設活動をカーボンニュートラル化。ただ建材の生産・輸送に必要なエネルギー消費量の相殺についてはどう計算されているのかは、今のところ示されていません。

展示はエネルギー、衣食住、余暇、経営、サービスまで

「環境アリーナ」には一万㎡の展示面積に、生活全般に関わる環境技術やサービスが展示される予定です。その範囲は、持続可能を切り口とした家電や熱源、発電設備、建設、余暇、経営、電気や燃料、衣類に食糧、リサイクリングから自動車、情報にまで及びます。その他、環境に優しい自動車や自転車を試乗できるスペースや、イベントや会議場のスペースも提供します。

質の高い展示のために、展示品の選択においては、エネルギー庁やエネルギー産業クラスター、専門団体による中立のアドバイスを受けているそうです。また展示品のエコロジー的な品質を消費者に明確に提示して、オープンに比較できるようにするとか。「何となくエコ」ではなく、「実力派エコ」の展示を期待するところです。

環境アリーナはチューリッヒの、いやヨーロッパの新名所となるのでしょうか。また実際の運営においては、どのように上記のような展示の質を保ってゆき、また施設として生き延びることができるのでしょうか。消費者や国内外の企業の反響はいかに。2012年のオープンが楽しみです。

参照:
www.umweltarena.ch



短信


アールガウ州政府も放射性廃棄物の最終処分地にノー
スイスの原発銀座と呼べるアールガウ州は、放射性廃棄物の最終処分場の候補地になっている。だが同州政府は先週、もう核の負担は十分に受けたとして最終処分場を拒否した。同じく候補地であるニッドヴァルデン・オヴァルデン州政府も最終処分地を拒否。
スイスでは6つの候補地域が6州にまたがる。そのうち、これまでに4州の政府が処分地を拒否。州境にまたがる候補地のうち片方の州が拒否した地域を数えると、全候補地が地元政府に拒否されたことになる。
この問題に関して全く矛盾しているのは、チューリッヒ州やニッドヴァルデンの州政府は処分地を拒否しながらも、今後の原子力発電所との契約更新(原子力発電の電気を今後も使い続けること)には賛成である点。ゴミは出すが、処分は他所で、というわけである。

● エネルギー庁~太陽熱温水器で住宅の熱需要の半分を担える
エネルギー庁の委託により、フリブール州とチューリッヒ市における太陽熱温水器のポテンシャル調査が行なわれた。調査の対象となったのは田園地帯であるフリブール州の1000棟の住宅と都市部であるチューリッヒ市の210棟の住宅。ポテンシャル調査では、従来型建築(8ℓ建築)と省エネ型建築(3ℓ建築)、そして従来型蓄熱タンクと改良型蓄熱タンクの4つのバリエーションが検討された。計算においては、屋根の方位による収穫量の差異も考慮されている。
それによると8ℓ建築で改良型蓄熱タンクを使う、あるいは3ℓ建築で従来型の蓄熱タンクを使う場合、地方の住宅では半分(48%)、そして都市部の住宅8棟に1棟(12%)が、熱需要(暖房と給湯)の70%以上を太陽熱で供給することができるという。また地方では省エネ型住宅ならば50%以上が、熱需要をほぼ太陽熱温水器だけで担えるという。
参照:エネルギー庁プレスリリース

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