滝川薫の未来日記

スイスより、持続可能な未来づくりに関わる出来事を、興味がおもむくままにお伝えしていきます

断熱改修ブーム、1年で3万件の助成申請

2011-05-11 10:36:09 | 建築

スイスは春だというのに雨が降らず、初夏のような天気が続き、歴史的な旱魃と言われています。農作物や水力発電への影響が心配です。温暖化の影響としてスイスでは今後も雨量の減少が予想されるため、農業の方法も適応させていかねばならない、と国営ラジオのニュースではコメントされていました。

フクシマ、リビア内戦、異常気象と続くこの春。温暖化防止も、脱原発も、脱化石も、待ったなしのところまで来ていることを、スイスでも多くの人が感じています。

今日で東日本大震災から2ヶ月。改めて被災地の皆様にお見舞い申し上げます。スイスの人々も皆さんのことを忘れていません。首都ベルンでは木曜日にフクシマ被災者を悼むデモ行進が行なわれます。また先日はスイスでも、日本の浜岡原発の運転停止、原子力推進政策見直しというニュースが流れました。長年、停止運動に取り組まれてきた市民の方々に感謝です。

短期間に大量の原発が運転停止するという状況に追い込まれた日本には、今こそ明確な持続可能なエネルギー政策の目標を打ち出し、火力は過渡期技術と位置づけ、省エネと再生可能エネルギーの増産に全力を注いで欲しいものです。

●2010年度、3万件の断熱改修を助成
スイスでは近年、断熱改修ブームがいっそう熱しています。断熱改修への助成金を申請した物件の数は、2010年度だけで3万件。助成額は2億4400万フラン(約227億円)に上ります。国と州は1.2~1.6万件程度の申請を予測していましたが、実際の反響はその倍です。

建物の断熱改修は、スイスのエネルギー政策の要です。家庭では暖房がエネルギー消費の72%、給湯が12.4%も占めています。そのためスイスでは、灯油に課したCO2税収の一部を用いて、2010年から省エネ改修助成の10ヵ年プログラムを昨年スタートしました。それまでも断熱改修の助成は継続されてきましたが、それをいっそう強化したのです。

助成金は多ければ良いのではなく、いかに少ない助成金で大きな省エネ効果を引き出すかがポイントです。省エネ改修プログラムでも、限られた予算でより多くの省エネ効果を得られるよう、助成金額の見直しが4月1日より実施されました。特に断熱三層窓は技術発展が早く、価格がどんどん下がっています。それに合わせて、窓一㎡への助成金が70フランから40フランに下げられました。

現在の断熱改修プログラムの助成額は、壁や屋根がU値0.2W/m2K以下(断熱材18cm程度)
の断熱強化には一㎡40フラン(約3700円)、窓交換にはガラスU値0.7以下(断熱三層窓)で一㎡40フランとなります。

財源は、国が灯油へのCO2税収の1部を用いて
1億3300万フラン(約124億円)を、躯体の断熱改修に出しています。これとは別に、再生可能熱源への交換の助成には、国がCO2税収から6700万フラン(約62億円)を、州が8000万~1億フラン(約74~93億円)を出資しています。

省エネ改修の費用は所得税課税額から控除できるため、総合すると省エネ改修費用の3割程度が直接・間接的に助成される仕組みです。

★ 省エネ改修効果の簡単なシュミレーションツール
断熱改修や熱源交換のメリットを施主に分かりやすく伝えるために、改修効果を簡単に計算できるウェブサイトも作られています。
例えば、http://www.egokiefer.ch/evalo/では、郵便番号を入力し、およその家の構造や仕様を選んだ上で、ファザード、窓、屋根、ドアの断熱強化や熱源交換を選択していくと、省エネ効果やコストが表示されます。具体的には、改修前と改修後の建物のエネルギー証明書のクラス付け(A~G)、電力需要量、CO2排出量、騒音防止、およその投資額、補助金額を計算してくれます。

対して、太陽熱温水器の効果を簡単にシュミレーションできるのがこちらのページ。 http://www.swissolar.ch/de/solardach-rechner/
スイスソーラー産業連盟とWWFが共同で開発したツールです。郵便番号を入力し、5つの簡単な質問に答え、「計算する」をクリックすると、自分の家でどれくらいの温水を太陽熱で供給でき、それによる灯油やガス、電気、CO2の節約量が分かります。さらに、助成金と税控除分を引いたスタンダード設備の価格を計算してくれます。また、地域ごとの建設許可の必要性の有無、地域のソーラー専門家のリストも表示されるなど、とても親切なツールになっています。


●3カ国7都市が共同で2000W社会への戦略発表
5月6日には、スイスとドイツ、オーストリアが国境を接するボーデン湖地方の7都市が、「2000W社会」を実現するための地域戦略を発表する会見を開いたので聞きにいきました。7都市とは、ドイツ、コンスタンツ地方のジンゲン、ラドルフツェッレン、コンスタンツ、ユーバーリンゲン、フリードリッヒスハーフェン。オーストリア、フォーアールベルグ州のフェルドキルヒ。スイス、シャフハウゼン州のシャフハウゼン市です。

 いづれも人口3~8万人程度の小さな町で、これまでも個別に体系的なエネルギー政策を実施していました。ただ、人口密度が高く、産業活動が盛んな都市部だけで、2000W社会やエネルギー自立を達成するのは難しいものです。田舎と都市を合わせた広域コンセプトにより、地域全体として2000W社会を実現し、魅力的な地域を作ろうではないかという主旨です。

2000W社会とは、エネルギー消費量を3分2減らして、残りの75%以上を再生可能エネルギー源でまかなう社会ビジョンです。CO2排出量は1人頭で1年1t以下となります。現在の西ヨーロッパの平均的な一次エネルギー消費量を出力に換算すると、1人頭6000Wになります。それを世界平均の2000Wに減らすことを目指します。一次エネルギー消費量の大きな石炭発電や原子力発電では、2000W社会を達成することはできません。

さて、上記の7都市の環境・エネルギー局の代表者たちは1年半に渡り、ボーデン湖地帯の2000W社会化について調査してきました。それによると、同地方では再生可能エネルギー源により、今の総エネルギー消費量の50%近くが担えます(熱・電気・交通を含む)。つまり、ここでも50%の省エネによって、はじめて2000W社会が可能になります。この目標は、フォーアールベルグ州やコンスタンツ地方では2050年までに可能だそうです。

調査では、2000W社会を達成するために地域間協力できる45の対策セットを定義。うち11対策を短期的に実施することを決めました。7都市の協働により、例えば、市営エネルギー会社が一緒に地熱発電所や風力パークを実現したり、地域のバイオマス資源利用戦略を作るというようなことが可能になります。 

また自治体の重要な役割のひとつが市民啓蒙ですが、市民レベルで「もっと何が必要か」ではなく、「何が要らないか」を議論していくことの重要性が何度も言及されていました。そして自治体による市民コミュニケーションのあり方を変えていくこと。kWhだけでない、もっと感情に訴えるコミュニケーションが必要だといいます。

7都市の市長や自治体のエネルギー執行委員たちの誰もが、非常にポジティブかつ現実的に、エネルギー自立や2000W社会に組んでいることが印象的でした。2000W社会は可能であるだけでなく、チャンスであり、必用。それなくしては、地域の持続可能な経済はありえないというわけです。

 
 7都市の市長や自治体のエネルギー執行委員たち


今週のFukushima効果

★スイスの原子力村批判
スイスでも、政治・役所・産業・学会が癒着した「原子力村」の実態への批判が高まっている。連邦核安全監視委員(Ensi)の執行委員長が、原発を運営する電力会社の子会社で役職を得ていたため、中立性を問われ一次辞職。さらに、原発を運営する電力会社が出資するチューリヒ工科大学の原子力物理学教授が、連邦核安全監視委員の査察委員となっていることも批判されている。

★スイスの全原発に安全上の問題
連邦核安全監視委員は、スイスにある原発の地震と洪水に対する安全性検査を行なった結果、4箇所5基の全ての原発に安全上の問題があると発表。特に高齢原発のベッツナウ(2基)とミューレベルグ原発では、原子炉や使用済み燃料プールの冷却機能に関する不完全さが指摘されている。今後スイスの原発運営者は、6月末までに1万年に一度の洪水に耐えうる証明、8月末までに問題点の解決策の提示、2012年の3月末までに地震とダム決壊の同時発生に耐えうる証明を提出しなくてはならない。

★ミューレベルグ原発、早期廃炉の可能性
首都ベルンから西15kmに位置するベルン州電力のミューレベルグ原発については、安全基準を満たすための工事費用が高額に上るため、経済性の観点から早期廃炉になる可能性が出てきた。以前より安全性が疑われていた同原発の運転停止を求める市民たちは、4月5日よりベルン州電力本社前の芝生でデモキャンプを続けている。

★日本も新規ガス発電は電熱併用コンセプトを
来欧された日本人の方から、日本で既存の火力発電の敷地に新しいガス発電設備を設置する計画がどんどん進められているという話を聞いた。そのような立地では熱利用は無理ということ。しかしガス発電設備は、無駄な設備投資を避け、CO2排出量をむやみに増やさないためにも、電熱併用できる立地に作って欲しい
。もともと大量の熱を消費する工場地帯や、町の中心部の地域暖房の熱源として電気も生産するような計画。そのような立地ならば、将来的に木質バイオマス熱源に切り替えて行っても、ガス設備をバックアップとして利用することもできるのではないか。

★スイス在住の方へお知らせ5月22日Menschenstrom
スイスでは、毎年恒例の脱原発を求めるデモ行進「Menschenstrom」が5月22日に実施されます。長距離コース10kmは、Siggental-Würenlingenから出発します。短距離コース3kmは、Döttingenからの出発です。ゴール地点では演説やコンサートがあります。昨年は5000人が参加しましたが、今年はフクシマの影響で参加人数がもっと多くなると思います。当日は、専用の電車とバスが多数出ていますので、詳しいプログラムは下記をご覧下さい。
http://www.menschenstrom.ch/dp/



ニュース

●オーストリア、パッシブハウスが新築の25%
オーストリアのパッシブハウス振興会(IGPassivhaus)によると、現在オーストリアには1.5万世帯、1万棟以上のパッシブハウス建築があり、新築の25%がパッシブハウス技術により建設されている。さらに現在5000世帯のパッシブハウスが建設中だ。その中でも最大のものが、ウィーン近郊のコルノイブルグに建設中の裁判所センターで、床面積は2.6万㎡に及び、州と地域、国の裁判所が入る。

●ドイツ、16階建てマンションをパッシブハウス改修
ドイツのフライブルグ市、ウィンターガルテン地区にある16階建てのマンションが、1.5年に渡る工事を経て、パッシブハウス基準を満たすレベルに省エネ改修された。同プロジェクトはフラウエンホーファー・ソーラーエネルギーシステム研究所の支援を受け、暖房・給湯・換気・照明・家電への一次エネルギー消費量を40%減らした。同機関は4月21日の竣工式の後も、2年間に渡りこの建物の実際のエネルギー消費量を測定していく。
改修後の暖房熱需要量は20kWh/m2年となり、以前より80%減った。熱供給はガスコージェネの地域暖房により行なわれている。主な対策は下記の通り:バルコニーの室内化、熱橋の解消、ファザード断熱、窓交換、熱交換式の換気設備、大きな窓による日射獲得、外付けブラインドによる日射遮蔽、24kWの太陽光発電設備、家電消費量の低減

●スイス、2010年の電力消費量、4%増加
スイスのエネルギー庁は、2010年度スイスの電力消費量が前年度比で4%増加し、59.8TWhであったと発表。2010年度に電力消費量が増えてしまった原因は、前年比で2.6%の経済成長、約0.9%の人口増加、そして特に寒冷だった冬が暖房温度日を12.7%増やしたことにあるという。エネルギー消費量の分析からは、電力消費の10%が暖房用途に使われている。

●電力消費量減るバーゼル・シュタット州
国全体で電力消費量が上がる他方で、脱原発政策を30年来実施してきたバーゼル・シュタット州では、2010年度、3.1%の経済成長したにも関わらず電力消費量が-1.1%減った。バーゼル・シュタット州によると、同州では長年に渡り電気暖房を禁止してきたため、寒冷な冬が電気消費量に影響を与えなかったのも一因だ。また、同州で導入されている節電税も電力消費量の低減に貢献しているという。kWhあたり3~6ラッペンが課税され、税収は家庭と企業に還付される。

● スイス、ガソリンへのCO2税導入なるか
スイスの交通分野はCO2排出量が90年比で12%も増えている問題分野。これまで、業界が自主的にガソリン1ℓあたり1.5ラッペンの気候料金を上乗せし、それを国内外での排出権の購入に当ててきた。
しかし、より大きな省エネ効果が必要となる今日、CO2法改訂において、上院ではガソリンに1ℓあたり28ラッペン(約26円)のCO2税を課すことを可決した。CO2税の目的は、高い税額によりガソリンを節約させることで、税収は国民に還付される。
しかし下院はこれに猛反対。CO2税ではなく、ガソリン1ℓあたり5ラッペン(約4.7円)の気候料金値上げを推進している。気候料金は払戻されず、省エネ対策の助成に用いられる仕組み。

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