滝川薫の未来日記

スイスより、持続可能な未来づくりに関わる出来事を、興味がおもむくままにお伝えしていきます

工場建築:省エネ+PVでCO2フリーの生産プロセスへ

2012-12-23 15:07:32 | 建築

スイスでは毎年のことながら、クリスマス休暇の直前には、多くの人が家族や友人の訪問を喜ぶというよりも、ストレスいっぱいで喘いでいるように見えます。そんな人々の様子と比べて全くちぐはぐなのが最近のお天気で、今日など12度にもなりとても年末とは思えない温かさです。

さて、今日は(やっと)2012年度のスイスソーラー大賞について報告します。今年も10月中旬に、人物・建物・設備の3部門30プロジェクトが、先進的なソーラーエネルギー利用例として、スイスソーラー機関により表彰されました。

建物分野では、新築や改修によるプラスエネルギー建築の表彰が、珍しくなくなりました。表彰された建築部門の16棟の建物のうち、11がプラスエネルギー建築で、106~634%の電熱自給率を示しています。基本は、ミネルギーやミネルギー・Pの省エネ性能の躯体に、太陽光発電と再生可能熱源を組み合わせた建物です。新築戸建てだけでなく、改修物件や小規模な集合住宅から産業建築まで見られるようになってきました。

恒例のスター建築家ノーマン・フォスター卿による「ノーマンフォスターソラーアワード」は、このブログでも紹介した展示場建築の「環境アリーナ」が受賞。電熱の自給率は203%です。クリーン技術の展示場だけあって、技術的な見所は一杯です。高断熱の躯体に加えて、太陽熱冷房、地下水によるフリークーリング、大型蓄熱タンク、地中蓄熱体と地中熱ヒートポンプ、レストランの生ゴミを利用する小型バイオガス・・・等々。屋根面は、スイスで最大の建材一体型の太陽光発電パネルの利用例(760kW)となっています。
http://www.umweltarena.ch/

今回興味深く思ったのは、工場建築での受賞例が増えてきていることです。省エネ対策と太陽光発電の組み合わせにより、中小規模の産業や工業の建築では、電熱の分野で高度な自給率を達成している企業たちがトップランナーを形成しています。この分野でも、スイスソーラー大賞のプロジェクト選定の特徴は、単に設置量の多さだけでなく、省エネ対策と建築への綺麗な収まりを重視しているところです。

特に木工や製材、木造関連の工場の受賞が目立ちます。木産業は大屋根があり、木屑が生じるという点から太陽光、木質バイオマスを利用した電熱自給には最適の条件を備えているのでしょう。今日は、受賞例の中からそういった工場建築を3つ紹介します。

 ●大賞:シェーツ村の木造会社レンクリの新工場

ルツェルン州にある木造会社のレンクリは、省エネ・高層・持続可能な建物づくりのパイオニアです。工場で木造の壁パネルを作り、それを現場で組み立てる構法を採っています。今回受賞したのは同社の新しい工場建築。建物の省エネ性能については、断熱材は壁が18cm(U値0.22W/m2K)、屋根が27センチ(U値0.16W/m2K)、窓が三層断熱ガラス(U値0.98W/m2K、日射透過率58%)となっています。暖房熱需要は9.2kWh/m2年、電力消費は16.7kWh/m2年、生産用機械の電力消費が34.5kWh/m2年です。

この工場建築では、建材として太陽光発電を使っているのですが、東向きと西向きの屋根にそれぞれ137.5kWずつを、南向き屋根に23.1kW、南ファザードに4.9kWを設置しています。合計した年間の生産量は28万5441kWhで、工場と事務所等での電力消費量30万kWhの95%を生産している計算になります。足りない5%の分は、敷地内にある小水力発電でまかなっています。この消費量には、生産用機械が消費する17万2000kWhも含まれます。また、工場や事務所の熱供給は、端材を燃やすチップボイラーで行っています。


写真:Renggli AG / www.renggli-haus.ch

●大賞:シュテーグ村の断熱ガラス工場、ショルガラス社

ヴァリス州に建てられた、ショルガラス社の新しい工場建築も、今年のソーラー大賞に輝きました。高度な断熱ガラスのメーカですから、自社工場の窓ももちろん3層断熱窓です。窓U値は0.80で、日射透過率は55%のものを使っています。外壁の断熱材は16~20㎝(U値0.16~0.18)、屋根は24~37センチ(0.10~0.15)、床は20㎝(U値0.16)と、経済性優先の工場建築とはいえ、優秀な断熱性能です。熱源には空気ヒートポンプを利用。建設時のCO2排出量の削減にも取り組み、建材の輸送を貨物鉄道で行うことにより、トラック輸送を380台分減らしたそうです。

新しい工場の緑化された屋上には、2580㎡の太陽光発電(383kW)が設置され、年50万kWhを生産しています。ガラス生産に必要なエネルギー量73万7500kWhの68%を、太陽光発電で生産している計算になります。大型消費産業での自給努力が高く評価されています。写真は下記リンクから見ることができます。

http://www.solaragentur.ch/dokumente//G-12-09-24%20Klein-Solarpreispublikation%202012-DEF_Schollglas_kleinste.pdf

●副賞:サンモリッツの木工工場マローツ社の改修

アルプスの高級リゾート地サンモリッツにあるマローツ木造会社は、築1968年の事務所・工場・住宅建築を断熱改修することによって、熱のエネルギー消費量を73.6万kWから31.2万kWに42%削減しました。その上で、建物の屋根面に太陽熱温水器44㎡を設置して、給湯需要の62%を生産(3万kWh)。残りの暖房・給湯熱は、建物内で生じる木屑を燃やすチップボイラーで供給しています。電気については、屋根とファザードに設置した太陽光発電63.8kWが年8万kWhを生産し、建物内の電力需要の7割を供給しています。 サンモリッツの豊富な日射量を活用し、デザイン的にもおさまりが綺麗な省エネ・ソーラーエネルギー改修の好事例です。写真は下記のリンクから見られます。

http://www.solaragentur.ch/dokumente//G-12-09-24%20Klein-Solarpreispublikation%202012-DEF_Malloth_kleinste.pdf


次回は、ソーラー大賞の設備・人物部門で受賞した工場を紹介したいと思います。年末までに更新したいという気持ちはありますが、出来なかった場合のために、この場でご挨拶しておきます。 2012年に日本や欧州でお世話になった皆さん、そして読者の皆さん、どうもありがとうございました!! 2013年も日本のエネルギーシフトのために、各々の地域から、一人一人が出来ることを実現していきましょう!


ニュース

●スイス:フリブール州農家が運営する森林材ペレット工場
スイスではペレット製造には製材所で生じるおが粉が原料として用いられるのが通常だ。しかし、林業で生じる端材や残材からペレットを作る方法もある。その際、原料を乾燥させるエネルギーの種類が製品の環境性を左右する。フリブール州農家のオスカー・シュヌービュリ氏は、排熱を用いておが粉を乾燥させる製法により、エネルギー消費量の少ない森林ペレット製造手法を開発、高品質なペレットを生産してきた。
今年、新たにこの手法を用いて、4人の農家が共同出資してペレット製造を始めた。工場では、隣接するバイオガス発電設備の排熱を用いて、ペレット原料となるチップを乾燥させている。また、ペレット工場の屋根は太陽光発電パネルで覆われているが、その背面通気層で温まった空気も、チップの乾燥に利用する。こうして乾燥したチップを粉にし、接着剤や水を一切用いずペレット化する。最大で年1万トンを生産できる予定だ。農家たちはBestPelletWarme株式会社を設立し、同社の主要株主になっている。残りの株は地域のエネルギー会社であるGroupeEGreenwattAGが保有する。
出典:www.hier-ist-energie.ch

 ●スイス:下水処理場が地域のエネルギーパークに
スイスの規模の大きな下水処理場では、汚泥消化ガスを利用した電熱併給が普及している。東スイスにある5万㎡を有するモルゲンタール下水処理場では、汚泥消化ガスとバイオマス熱源の組み合わせにより、地域の熱供給センターを建設するプロジェクトが開始した。下水処理場から10㎞の熱供給網を伸ばし、アルボン、シュタイナッハ周辺の建物に熱供給が行われていく予定だ。
汚泥消化ガスをサポートする熱源となるのは、隣接する建物取壊し会社で分別された木廃材を燃料とした2.4MWのチップボイラー。ボイラーと熱供給網への出資は、バーゼル地方のエネルギー会社であるEBM社がコントラクティングで行う。冬の厳寒時のピーク用には灯油ボイラーがサポートする。
このエネルギーセンターでは、汚泥消化ガスによる電熱併給、処理後水からの排熱利用(ヒートポンプ)、木チップボイラー、ピーク時用の灯油ボイラーの4熱源を組み合わせて熱供給が行われていく。この他、下水流の高低差を利用した小水力や太陽光発電も行われている。
出典:プレスリリースEBM

 ●スイス:サンクトガレン都市公社がバイオガス販売開始
スイスでは、数多くの自治体所有の都市公社が、地域の総合的なインフラ供給を行っている。その中には熱、電気、ガス等も含まれる。サンクトガレン市の都市公社は、2013年よりガス販売においても再生可能エネルギーの割合を高める方針だ。顧客は、生ゴミ堆肥化施設で生じるバイオガスを購入することが出来るようになる。
具体的には、2013年からガス顧客は、バイオガス割合の異なる4種類の商品を選ぶことが出来る。全ての顧客に自動的に供給されるスタンダード商品は、天然ガスに「5%バイオガス」を混ぜた商品で、値段はこれまでの天然ガスと同様。「20%バイオガス」の商品はkWhあり1.4ラッペンの上乗せ価格で購入できる。「100%バイオガス」の商品はkWhあたり8.1ラッペンが上乗せされる。対してバイオガスの入らない天然ガスを注文する顧客は、別途注文しなければならない。
出典:サンクトガレン市プレスリリース

 ●スイス:エネルギーパイオニア、ガッサー社長が3MW風車を建設
東スイスのエネルギー・パイオニアとして有名な建材会社社長のヨシアス・ガッサーさん。このガッサーさんが中心となり、ハルデンシュタイン村に、スイス最大規模の風車の建設が始まった。モデルは内陸向けに開発されたVestas社のV112 で、ローターの直径は112m、出力は3MW。このモデルは弱い風でも効率的に発電することができ、毎秒10mの風速で既に最大出力に達する。予想発電量は年4.5GWhで1300世帯分に相当する。2013年3月には試運転が開始する予定。
出典:スイスエオル・ニュースレター Suisse Eole

 ●スイス:エネルギー都市の数が300に、人口の半分が住む
先進的で総合的なエネルギー政策を実施する自治体を認証する「エネルギー都市制度」。現在スイスの人口の半分がそのような自治体に住む。今回第300のエネルギー都市となったのは、チューリッヒ州にある人口1.7万人の町レーゲンスドルフ。同町は、以前より自治体のエネルギー計画を策定し、着実に実施してきた。今後は、居住地の高密度化、建物の省エネ改修、そして交通緩和と自転車・徒歩交通の促進にいっそう力を入れていく予定だ。レーゲンスドルフは周辺自治体とエネルギー地域「Furttal」を構成し、地域単位でのエネルギー自立の方向にも歩みを進めている。
出典:エネルギー都市ニュースレター www.energiestadt.ch

 ●スイス:フリブール州住民が電気暖房交換義務にNo
脱原発を実施する上で欠かせないのが、冬の電力浪費源になっている電気暖房の交換だ。スイスでは州の管轄になっており、州のエネルギー法の改訂によりこれを禁止したり、交換を義務付けたりすることが出来る。今後、多くの州では10年以内に電気暖房を環境に優しい熱源により交換することが義務付けられていく。
しかし、その先駆けとなったフリブール州では、新しいエネルギー法が住民投票において僅差で否決された。原因は電気暖房交換義務について猛反対する建物所有者たちのキャンペーン。同州には6000棟の建物で電気暖房が使われている。同州は来年度、エネルギー法案を再度見直す。脱原発のための重要項目が州別に決議されるという点、それが住民投票で覆されうるという点がスイスの制度では難しいところである。

●ドイツ:ヘッセン州でエネルギー未来法可決
ヘッセン州議会は昨11月20日にエネルギー未来法を可決した。同州が目指すエネルギーシフトを進める法的なツールとなる。法に定められた目標は2050年までに熱と電気の最終エネルギーの100%を再生可能エネルギーで賄うこと。そのために毎年建物の2.5~3%を省エネ改修していくことを定めている。州は模範として、州が所有する建物を2017年までに1.6億ユーロかけて省エネ改修していく。また、地域計画の中で州域の2%を風力優先値として指定する。州としてのモットーは「義務でなく自発性」ということで、「情報提供・アドバイス・助成」対策が中心となる。
出典:ヘッセン州プレスリリース www.hessen.de

 ●ドイツ:再エネで化石エネ輸入を60億ユーロ削減
2011年ドイツは、再生可能エネルギーの生産により、化石エネルギーの輸入代金を60億ユーロ削減できた。環境省が助成した再生可能エネルギーのコスト対効果の調査により分かった。同年にドイツが化石エネルギー輸入に支払った額は、812億ユーロに上る。再生可能エネルギーの生産量が増えるほど、化石エネルギーの輸入代金として国外に流出する富が減る。
出典:ドイツ再生可能エネルギー機関www.unendlich-viel-energie.de

●ドイツ:エネルギー組合設立ブーム、1週間3件
住民によるエネルギー組合の設立が、ドイツでブームになっている。住民が組合を作り、住民出資で再生可能エネルギーの発電設備や熱供給施設を建設、運営するものだ。9割は太陽光発電設備の運営に関わる。ドイツでは今年、毎週3件のペースでエネルギー組合が誕生しており、合計600のエネルギー組合がある。過去3年間でその数は4倍に増えた。ドイツ組合ライフアイゼン連盟らの調査によると、過去数年に設立された500のエネルギー組合には、8万人の市民が組合員として参加、彼らにより8億ユーロが再生可能エネルギーに投資された。
出典:ドイツ再生可能エネルギー機関 www.unendlich-viel-energie.de

 ●ドイツ:農家からの再生可能エネルギーへの出資
ドイツの再生可能エネルギーによる発電容量の11%は農家の所有だ。ドイツの農家連盟によると、農家の再生可能エネルギーへの出資額は過去3年間で160億 ユーロに及ぶ。農村部での出資を支えるのは農業年金銀行で、2012年の上半期だけでも同銀行は、再生可能エネルギーに8.5億ユーロの新規融資を行っている。これは同銀行の総融資額の3割を占める。
出典:ドイツ再生可能エネルギー機関 www.unendlich-viel-energie.de

 ●ドイツ:5人に一人が太陽光発電に投資する意志
ドイツでは今年の10月末までに6.8GWの太陽光発電が設置された。LGエレクトロニックスが依頼した市場調査の結果によると、電気代が17%上がり、kWhあたり30ユーロセントになったことを受けて、市民の3分1が省エネ機器の購入を考えている。また、高騰し続ける電気代から解放されるために、ドイツ人の5人に1人が太陽光発電への投資を考えている。LGエレクトロニックスでは電気代の高騰は、再生可能電力の買い取り制度が原因ではなく、化石エネルギーの高騰が主な原因だと分析している。ドイツでは、設置出力4kWの太陽光発電設備の価格は2006年以来65%下がり、現在7000ユーロとなっている。20%を自家消費すると、年600ユーロの儲けが出て、約10年でコストが回収できる。
出典:LG Electronicsプレスリリース、EE-News

●最近の掲載誌
ビオシティ2012年53号 欧州中部のビオホテル探訪 「シュタイナー農場から生まれたエコホテルとコミュニティ」
http://www.bookend.co.jp/biocity/index.html

Webronza 2012年12月11日 「欧州ドイツ語圏で盛り上がる、地域のエネルギー自立運動」
http://webronza.asahi.com/global/2012121100001.html


Schweizer Energiestiftung „Energie&Umwelt“ 2012年第4号 (ドイツ語)
„Stromsparen in Japan – eine einzigartige Erfolgsgeschichite“
http://www.energiestiftung.ch/files/textdateien/aktuell/magazine/2012_4_eu.pdf

 

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