隅の老人のミステリー読書雑感

ミステリーの読後感や、関連のドラマ・映画など。

0973.銀行 男たちのサバイバル

2009年03月29日 | 企業
銀行 男たちのサバイバル
読了日 2009/06/01
著 者 山田智彦
出版社 文藝春秋
形 態 文庫
ページ数 333
発行日 2000/03/10
ISBN 4-16-721106-8

 

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993年に単行本として発刊されたこの作品は、翌1994年1月に早くもNHKドラマとして、土曜ドラマ枠で3回に分けて放送された。それもそのはずで、作品はそのドラマの原作として書かれたようだ。
バブル崩壊後の厳しい現状を踏まえた状況と雰囲気の中で、生き残りを掛けた男たちの戦いを余すことなく伝えた意欲作といえるドラマだった。僕はタイトルクレジットで作者の名前を知り、原作を読んでみたいと思ったが、知らぬ間に月日は経って、6年が過ぎた。書店で見かけた文庫を買ったは良いが、なんとそれから9年が過ぎようとしている。もう、何度も同じようなことを書いてきたが、何年も読まずに積ん読にするのは僕の悪い癖だ。
だが、バブル崩壊後と同様のあるいはそれ以上の不況の時を迎えた今、本書を読むのも時宜を得たといえるのかもしれない。

 

 

ドラマの方は幸いにして、ビデオ録画してあったものを1~2年前にDVD化しており、数回見直しているから、本を読むのが遅くなったのはそのせいもある。今回本書を読み終わって、ドラマとは違う迫力を感じて、リタイア以前の企業競争の厳しさの中にいたことを思い起こした。
大方のところドラマは原作をトレースしているのだが、結末部分に僅かながら設定の相違があるものの、映像から受ける緊張感以上のものを感じ取れた。50代を目前に控えた同期入行の3人の男たちの銀行における仕事ぶりを通して、それぞれの個性的な人物像が的確に描写されていく。
本店総合企画部長・石倉克己、名古屋支店長・長谷部敏正、業務推進部長・松岡紀一郎の3人のほか、横浜支店長の西巻良平、調査部長の宮田隆男らが三洋銀行へ同期に入行した精鋭たちである。

 

 

面下で合併の実現に向けた準備が進められる中、副頭取の成瀬は合併反対の意を頭取に表明して、それまで次期頭取の第一候補と目されていた立場を一転して下落させる。
銀行ミステリといえば、この後1998年に「果つる底なき」で、江戸川乱歩賞を受賞してデビューした池井戸潤氏が、山田氏同様銀行員の経歴を活かした多くの作品を発表している。僕はいくつかの理由から、池井戸氏の作品に惹かれて読み継いでいるが、山田氏のこの作品は、舞台こそ銀行にとっているものの多くの企業に共通する人間関係や、業務のあり方などが克明に描かれており、ミステリーとしても評価できる結末を持った企業小説という感じを抱いている。
未曾有の不況の今、再びこの作品の価値を感じて感慨深いものがある。

 

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