隅の老人のミステリー読書雑感

ミステリーの読後感や、関連のドラマ・映画など。

1388.名残り火

2013年09月09日 | サスペンス
名残り火
読 了 日 2013/08/21
著  者 藤原伊織
出 版 社 文藝春秋
形  態 文庫
ページ数 458
発 行 日 2010/06/10
I S B N 978-4-16-179501-5

 

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ブタイトルに「てのひらの闇Ⅱ」とあるが、 残念ながら僕は前に読んだ「てのひらの闇」の内容をまったく覚えていない。記録をたどると、2006年の12月に「てのひらの闇」を読んでおり、 きっかけはドラマを見たことだった。
ドラマは一部キャスティングの年齢差に違和感を感じるところもあったが、総体的には主人公を演じた舘ひろし氏のキャラクターがマッチして、よく出来ていた。
僕は著者の作品が好きだった。と過去形で書かなければならない状況を悲しく思う。どちらかと言えば寡作だった著者が残した作品はそれほど多くはない。 刊行されているものでまだ読んでないものは、2-3冊のはずだ。
氏の作品を読むのは本書で8冊目だが、本当はもっともっと増えていくはずだった。2007年に59歳という若さで癌のためこの世を去った、当人にしてもまだまだ傑作を残すことが出来たはずだと、心残りだったのではないか。ファンとしても残念でならない。
それでも何冊かは未読の作品があるので、順次図書館でも利用することにしたい。

 

 

前作の「てのひらの闇」の内容をすっかり忘れているので、本書のスタートが幾分唐突と言う感じで読み始める。しばらく読み進むうちに、GMSとかCVS、あるいはフェイス、ラインエクステンションなどと言う単語が飛び出して、勢い物語に引き込まれる。
現役のサラリーマン時代に引き戻されたような感じだ。僕の居た流通業界では日常交わされる会話で、常にそうした単語が飛び交っていたからだ。もう大昔の話だが、一時期アメリカがくしゃみをすれば日本が風邪を引く、などという比喩が用いられた。流通の業態が次々と日本に上陸したり、アレンジされた店舗が国中を駆け巡ると言う状態が、その後まもなく来たのだから、流通業界にとっては単なる比喩とはいえないかもしれない。
日本のGMS(本国アメリカの業態とは若干異なるが)と言われるイトーヨーカドーがCVS・7イレブンやCFS・デニーズと提携し、全国展開を図ったのをはじめとして、アメリカでチェーン展開をしていた業態が次々と日本中に広まっていったのだ。

 

 

は読書の途中で、時折作家の博識さに驚くことがある。やはり一つの物語を紡ぎだすためには、それ相応の取材や、資料調べをするのだろうが、作家諸氏のすごいところはそうして得た知識をストーリーに組み立ててしまうところだ。あたかもその道のエキスパートであるがごとく。
それが僕の知っている業界などに関するストーリーであれば尚更のことなのだ。作中オーバーストアに触れる記述が少しあるが、僕が盛んにチェーンストアに関する知識を習得していた頃は、そんな状態が来るとは思ってもいなかったので、時代の変化と大いなる流れを感じる。

本書も、前作「てのひらの闇」で活躍した主人公・堀江雅之が、そのままスライドして、もう少し過激さを増しながら?一層の活躍を見せる。一応サラリーマンではあったが、出身が特殊な世界であるため、時折暴力的な対応を取ることがあって、それはそれでカタルシスを感じさせるところで、その辺も此の作品の魅力の一つだ。
今回はかつて同じ職場で競い合った親友とも言える、エリート社員・柿島隆志が何者かに暴力で殺害されると言う事件が発端となる。
堀江企画として各種調査を生業としている彼は、鋭い勘と、執拗な調査で事件の真相を追い求める。そんな彼に、物心両面から手を貸す人物が二人。一人は前の職場のときからの、着かず離れずの関係が続く若い女性・大原。彼女は今でも堀江を課長と呼んでいる。
そしてもう一人は食品会社・サンショーフーズの社長三上照和だ。以前堀江が名の通った業界誌に書いていたコラムを読んだ三上社長が堀江の調査や、業界に精通しているところに惚れ込んだと言う形だった。面白い小説には、いろいろと要素があるものだが、その他には行きつけのスナックバーや、ドゥカティを乗り回す女性店主のナミちゃんとか、舞台装置は整っているのだ。

僕は途中で、若しかしたら未亡人の菜穂子は、何か事件への関わりがあるのでは?などと柄にもなく推理したのだが、それではまるでチャンドラー氏の「さらば愛しき女よ」になってしまうではないか、と考えを改める。
親友が何故殺されなければならなかったのか?ただただその思いだけで、真相を探り続ける堀江のストイックなかっこよさは、フィリップ・マーロウの上を行く?
だが、これが著者の遺作とは悲しいではないか。

 

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