隅の老人のミステリー読書雑感

ミステリーの読後感や、関連のドラマ・映画など。

1461.切り裂きジャックの告白

2014年05月14日 | サスペンス
切り裂きジャックの告白
読 了 日 2014/04/21
著  者 中山七里
出 版 社 角川書店
形  態 単行本
ページ数 334
発 行 日 2013/04/13
I S B N 978-4-04-110440-8

 

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くほどのスピードで話題作、問題作を発表し続ける著者のエネルギーはどこから出てくるのだろう?と、そのバイタリティあふれる執筆活動にただただ畏敬の念を覚えるばかりだ。
この人の作品はとにかく全部を読んでみたいと思わせる最右翼の作家なのだが、アメリカのハリウッド映画-ここ何年かの彼の国で製作される映画のサスペンス、アクションシーンに留まることを知らぬエフェクト効果を盛り込むように、我が国の小説世界にも影響を与えているのか、ダイナミックなストーリーを展開させる内容が多くなっているような気がする。
そうしたことから、ちょっとやそっとで驚かなくなっている視聴者や読者を「アッ!」と言わせるような映画やドラマ、そして小説を生み出そうとするクリエイターの苦心も思いやられる。
しかし一方では、かなり前に台頭してきた“日常の謎派”と呼ばれるミステリーが多くの読者の支持を得ていることも見逃せない。もちろん僕もそうした物語も好きで、いくつかのシリーズの新作を待ちわびて、読んではいる。

 

 

最近はテレビドラマ化や映画化の影響が大で、本の売れ行きが大きく左右されるということもあって、作者の方も映像化を狙ってキャラクター造形や、ストーリー構成を考えるのだろうと思うが、作家へのインタビューを見ていると、中には絶対に映像化が無理なストーリー構成を考えて書くという作者もいるようだ。
そういえば、秦建日子氏の女性刑事・雪平夏見を主人公とした「推理小説」も、そんな映像化不可能を狙って書いたものだったらしいが、逆にテレビ局はドラマ化により、ドラマ・原作双方をヒットさせた。 読者の楽しみ方も千差万別で、読書の楽しみ方も一つではないから、僕はあまり興味はないのだが、ライト・ノベルと言われる読み物も一方では売れ行きを伸ばしているらしい。

そんな中で著者の作品世界は、いずれも予断を許さない結末を迎えて、読者の予想を覆す何層にも張り巡らされた伏線とともに、仕掛けを施しており、次はどんな世界を見せてくれるのかという期待を持たせるのだ。
僕はこの著者を評して、職人作家だという見方をするが、もちろんそれは褒め言葉であって、出版各社のベテラン編集者の依頼に、どんな形であろうとそれに報いる成果を形にできるという意味である。
本書はタイトルが示すように、昔イギリスで起きた未解決事件、娼婦連続殺人の犯人を称する切り裂きジャック(Jack the Ripper)をタイトルに使っていることから、それに似た猟奇殺人が描かれることが想像でき、読んでみると内容もその通りなのだが、根底には臓器移植という社会問題が流れており、単なるサイコサスペンスに終わらせていない。

 

 

編では前に読んだ短編集で活躍する警視庁捜査一課の刑事・犬養隼人を登場させており、この刑事が登場するストーリーがシリーズの形を作り続けるのか、期待が持てるところだ。
ひも状のもので絞殺されたうえ、すべての内臓を持ち去られるという、前代未聞の猟奇殺人が続く中、被害者のつながりも、臓器を持ち去るという犯人の目的も判明せず、警察の捜査は混迷を極める。古にイギリスはロンドンで起こった切り裂きジャック事件の模倣犯かとも思われる事件は、見事なほどの解剖手腕から、医師か病院関係者かとも思われたが、全くの手掛かりが残されていない。
臓器を持ち去るところから、臓器売買も考えられたが、それらしい闇の動きも全く見えない。
少し前に似たようなシチュエーションのストーリーを読んだばかりだが、この作者のストーリーは前述のごとく、一筋縄ではいかないところが特徴で、毎回異なる世界を描いて僕を夢中にさせる。

 

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