日本株、「五輪中止」なら買い 外国人投資家の視点
豊島逸夫の金のつぶやき
2021年4月26日 12:00
コロナ禍で、筆者の海外出張は無くなったが、欧米市場関連の情報量は増えている。ニューヨークも日本も米国も在宅勤務が増えたので、SNSなどでの会話の頻度が高くなったからだ。
ネット環境さえ整備された場所であれば、例えば日本の山岳地帯でも、リアルタイムにニューヨーク市場の情報が入ってくる。40年以上にわたるマーケット関連のキャリアで構築された人的ネットワークがあるからだ。逆に、ウォール街に出張したときのことだが、たまたま古いビルの中のレストランで、ネット環境が不安定なために、食事時間中、情報の離れ小島のごとき状況になったこともあった。
昨晩は、恒例の週末Zoom会議に参加した。40人ほどのグループで、ヘッジファンド、年金基金、政府系ファンドなど各分野の専門家たちだ。共通項はスイス銀行出身、あるいは、その後輩や家族など関係者たち。「同じ釜の飯を食べた」仲間という横のつながりゆえ、本音で語り合える。
最近の話題としては、日本株と、日本の機関投資家の米国債購入が注目され始めた。
日本株に関しては、これまで米国株、欧州株、新興国株(含む中国株)の3つのカテゴリーで株が論じられてきたなかで、「日本株」がかれらのレーダースクリーン上になかった。しかし、最近の日本の株価上昇、さらにボラティリティーの高さゆえ、その理由を聞かれる機会が増えた。
昨晩も話題になり様々な意見が交わされたが、結論は「東京五輪中止なら買い」となった。
大阪・東京などの緊急事態宣言が米国の経済テレビでもブレーキング・ニュースとして報道された。Emergencyという単語が使われると、緊迫感が強いニュアンスになる。これまでコロナ感染者・死者が少ない国と思われていたのだが、ワクチン接種の遅れには驚きの声もあがる。
そこで、彼らの素朴な疑問として「オリンピックはどうなる?」との問いが今回も出てきた。
「行動制限でマイナス経済成長、さらに、変異ウイルス侵入リスクを考えれば、東京五輪は開催強行シナリオのほうがリスクであろう」
「世論調査では多くの国民が反対とのことだが、それでは、国民的高揚感も期待できない」
結局、やはりオリンピックが中止なら日本株は買いも、と言う結論になった。
ただし、ヘッジファンド組は、先物で売りから入るもくろみが透ける。
対照的に、年金基金組は、じっくりタイミングを模索して買いを入れるスタンスだ。長期保有が前提ゆえ、膨張した日銀のETF(上場投資信託)買いの出口も意識せざるを得ない。ポスト・クロダも話題になる。その議論の過程で、日銀買いにより日経平均株価は4000円かさ上げされている、との見解も指摘されるのだ。
外為関連では、円に関する関心が薄い。彼らの目はもっぱらユーロに向いている。
ドル金利上昇が大きな要因ゆえ、引き続き、米国債最大保有国の生保や年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の米国債売買状況を逐次チェックしている。
総じて、これまでは「物価が上がらない事例」の代表格で名前が出たジャパンが、株式、債券市場で議論の対象になりつつあることは興味深い。
なお、偶然の成り行きだが、ゴルフの松山英樹選手、テニスの大坂なおみ選手の活躍は、ウォール街でもチャットの話題になっており、結果的に、日本の存在をアピールする機会になっていることも無視できない。
相場は理論だけでは説明できない部分があることを改めて感じさせる事例だ。
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豊島逸夫(としま・いつお)
豊島&アソシエイツ代表。一橋大学経済学部卒(国際経済専攻)。三菱銀行(現・三菱UFJ銀行)入行後、スイス銀行にて国際金融業務に配属され外国為替貴金属ディーラー。チューリヒ、NYでの豊富な相場体験とヘッジファンド・欧米年金などの幅広いネットワークをもとに、独立系の立場から自由に分かりやすく経済市場動向を説く。株式・債券・外為・商品を総合的にカバー。日経マネー「豊島逸夫の世界経済の深層真理」を連載。
豊島逸夫の金のつぶやき
2021年4月26日 12:00
コロナ禍で、筆者の海外出張は無くなったが、欧米市場関連の情報量は増えている。ニューヨークも日本も米国も在宅勤務が増えたので、SNSなどでの会話の頻度が高くなったからだ。
ネット環境さえ整備された場所であれば、例えば日本の山岳地帯でも、リアルタイムにニューヨーク市場の情報が入ってくる。40年以上にわたるマーケット関連のキャリアで構築された人的ネットワークがあるからだ。逆に、ウォール街に出張したときのことだが、たまたま古いビルの中のレストランで、ネット環境が不安定なために、食事時間中、情報の離れ小島のごとき状況になったこともあった。
昨晩は、恒例の週末Zoom会議に参加した。40人ほどのグループで、ヘッジファンド、年金基金、政府系ファンドなど各分野の専門家たちだ。共通項はスイス銀行出身、あるいは、その後輩や家族など関係者たち。「同じ釜の飯を食べた」仲間という横のつながりゆえ、本音で語り合える。
最近の話題としては、日本株と、日本の機関投資家の米国債購入が注目され始めた。
日本株に関しては、これまで米国株、欧州株、新興国株(含む中国株)の3つのカテゴリーで株が論じられてきたなかで、「日本株」がかれらのレーダースクリーン上になかった。しかし、最近の日本の株価上昇、さらにボラティリティーの高さゆえ、その理由を聞かれる機会が増えた。
昨晩も話題になり様々な意見が交わされたが、結論は「東京五輪中止なら買い」となった。
大阪・東京などの緊急事態宣言が米国の経済テレビでもブレーキング・ニュースとして報道された。Emergencyという単語が使われると、緊迫感が強いニュアンスになる。これまでコロナ感染者・死者が少ない国と思われていたのだが、ワクチン接種の遅れには驚きの声もあがる。
そこで、彼らの素朴な疑問として「オリンピックはどうなる?」との問いが今回も出てきた。
「行動制限でマイナス経済成長、さらに、変異ウイルス侵入リスクを考えれば、東京五輪は開催強行シナリオのほうがリスクであろう」
「世論調査では多くの国民が反対とのことだが、それでは、国民的高揚感も期待できない」
結局、やはりオリンピックが中止なら日本株は買いも、と言う結論になった。
ただし、ヘッジファンド組は、先物で売りから入るもくろみが透ける。
対照的に、年金基金組は、じっくりタイミングを模索して買いを入れるスタンスだ。長期保有が前提ゆえ、膨張した日銀のETF(上場投資信託)買いの出口も意識せざるを得ない。ポスト・クロダも話題になる。その議論の過程で、日銀買いにより日経平均株価は4000円かさ上げされている、との見解も指摘されるのだ。
外為関連では、円に関する関心が薄い。彼らの目はもっぱらユーロに向いている。
ドル金利上昇が大きな要因ゆえ、引き続き、米国債最大保有国の生保や年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の米国債売買状況を逐次チェックしている。
総じて、これまでは「物価が上がらない事例」の代表格で名前が出たジャパンが、株式、債券市場で議論の対象になりつつあることは興味深い。
なお、偶然の成り行きだが、ゴルフの松山英樹選手、テニスの大坂なおみ選手の活躍は、ウォール街でもチャットの話題になっており、結果的に、日本の存在をアピールする機会になっていることも無視できない。
相場は理論だけでは説明できない部分があることを改めて感じさせる事例だ。
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豊島逸夫(としま・いつお)
豊島&アソシエイツ代表。一橋大学経済学部卒(国際経済専攻)。三菱銀行(現・三菱UFJ銀行)入行後、スイス銀行にて国際金融業務に配属され外国為替貴金属ディーラー。チューリヒ、NYでの豊富な相場体験とヘッジファンド・欧米年金などの幅広いネットワークをもとに、独立系の立場から自由に分かりやすく経済市場動向を説く。株式・債券・外為・商品を総合的にカバー。日経マネー「豊島逸夫の世界経済の深層真理」を連載。
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