桜乃記-さくらのき-

九州に住む、しがない若手サラリーマンが書きつらねた現代の随筆。
日本名刺研究会(会員数2名)の代表でもあります。

ふと空を見上げた日

2009-08-28 | 生き方
体育館からの帰り道、慶太はバイクをすっ飛ばしながら、ふと空を見上げた。

キラッ


明るい星空に、一条の光が差した。

流れ星だった。

「星も俺のことを祝福してくれたんだな。」
慶太は満足感と達成感で胸がいっぱいだった。



「今日俺は、プロボクサーになったんだ。」

この日の行われたプロテスト実技試験。

試験官の見ている前で、受験者同士3分×2ラウンドのスパーリングを行う。

その大半の時間、慶太はぼこぼこに殴られていた。
でも立ち続けた。
反撃のパンチもヒットさせた。

鮮血にまみれながらも勝ち取った、プロの称号。
学生生活における夢を、この日やっと叶えたのだった。



翌日、親友の正也にプロテストの合格と、昨日の流れ星のことを話した。

「なんか運命的だよな、プロになった日に流れ星なんてさ」

すると、友人の正也は言った。

「確かにそうだね、夢を叶えた日に流れ星って、運命だよ。
 だけどそれだけじゃない。

 流れ星って、実はけっこう頻繁に流れてんだ。
 
 慶太は試験を受ける日まで、過酷な練習を積んできただろ?
 そんなきつい毎日だったから下ばかり向いてて、
 たとえ流れ星が輝きを放っていても、気づかなかった。

 でも昨日やっと合格して、晴れ晴れした気持ちを持ったから
 空を見上げれるようになったんだ。

 大きな試練を乗り越えたからこそ、
 今まで見えなかった、新たな世界が見えてきた。
 そういうことじゃないかな。」



その夜、慶太は街が一望できる山にバイクで一人登った。
空が一番近い場所。

「痛ツッ!」
春風に吹かれて、プロテストで被弾した目の上の傷口が痛む。
しかし慶太にとっては、そんな痛みですら、むしろ誇らしかった。
 


一週間後、プロ初戦に向けてつらく厳しい練習がまた、始まる。


    
  終わり

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