すらりとした長身
端正な顔立ち
パリオリンピックの代表選考会
女子200メートル決勝
第4レーンに大橋悠依の姿はあった
彼女は東京五輪の個人メドレー200・400mの金メダリストである
しかし、この選考会で女王は窮地に立たされていた
400mは4位で代表を逃した
10才程も若い力に屈したのだ
「200で代表になれなければ多分やめる」
偽りのない本音だろう
もはや彼女に後はなかった
このレースに全てをかけた気迫に
持ち前の美しさを加えた泳ぎ
背泳ぎ、バタフライ、平泳ぎをこなし、トップに立った
残り50メートル、自由形の勝負
大橋は若手の追随を許さなかった
体半分のリードを保ち、逃げ切った
しかし、これでオリンピックの切符が手に入った訳ではない
設定タイムを上回らない限り、代表落選となるのだ
大橋は電光掲示板を見上げた
少しして彼女は安堵の混じった笑顔を見せた
記録は設定タイムを大きく上回っていた
東京五輪で金メダリストになり、モチベーションの維持に苦しんだ
しかし、まだひとつだけ手に入れていないものがあった
東京はコロナ渦で無観客だった
次のオリンピックでは満員の観衆の前で泳げるのだ
彼女は喝采を浴びるためにパリへ行く
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