https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20190106-00059237-gendaibiz-bus_all&p=3
肌身離さず携帯トイレを持っておくのは難しい。だが、林氏もコラムで指摘していたように、最近のエレベーター内には「備蓄ボックス」が備えられている。
エレベーターの隅に置かれた、三角柱のようなものを見たことがある人は多いだろう。とくにホテルや百貨店、役所などのエレベーターの中には、高齢者が座るためのイスが設置してある。
実は、これも備蓄ボックスの一種だ。この中には、閉じ込め事故が起きた際の備蓄品が多く格納されている。もちろん、携帯トイレも含まれている。
東京都練馬区役所内のエレベーターに配備されているボックスの例を見てみよう。非常用の飲料のほかには、携帯トイレが2回分、トイレットペーパーが5枚、除菌ティッシュが1袋。
さらに、消臭剤スプレーが1本入っている。これを使用すれば、より清潔に、臭いの心配をすることなく、排泄物を処理することができる。
閉じ込められても、気持ちを落ち着かせて、まずは注意深く四隅を確認する。ボックスがあれば、積極的に利用するようにしよう。
もちろん、エレベーター内に備蓄ボックスがないこともある。そんな時は、「緊急トイレ」をこしらえるしかない。前出の石井氏、加藤氏の提言によれば、方法は以下だ。
①ビニール袋を持っている場合は、何重にも重ね、底に新聞紙やティッシュペーパー、オムツや生理用品などを敷く。ビニール袋がなければ、話し合いのうえ、誰かの鞄で代用する。
②排泄した後は、排泄物の上から、細切れにした新聞紙やティッシュなどを置き、できるだけ水分を飛ばす。
③袋の口をきつく縛る。
こうすれば、臭いがかなり軽減される。
尿漏れや便漏れなど、日常的にトイレ問題を抱えている人もいるだろう。有事の際に備えて、普段から少し多めにオムツや尿漏れパッドを持つようにしておけば、緊急トイレを作る①や②の工程で、排泄物から水分を飛ばすために利用することもできる。
重要なのは、③の工程で、臭いを感じなくなってから、さらに1~2枚、念入りに袋をかぶせておくことだ。
生化学者で、『「香り」の科学』の著書がある平山令明氏が解説する。
「人の嗅覚には習慣性があります。排泄物を入れた袋をそこまできつく縛らずとも、20分ほど経過してしまえば、臭い自体はほとんど感じなくなるでしょう。
問題なのは、排泄物から発生するアンモニアです。臭いを感じなくなっても、これを吸引し続けていれば、体に痺れを感じるなど、体調に悪影響があります。仮に臭いに慣れてしまっても、注意深く袋の口を密閉する必要があります」
さらに、着ていた上着などの大きめの布で、緊急トイレの周囲を覆う工夫をすれば、安心して用を足すことができるうえ、トイレ周辺から発される臭いの拡散を抑えることもできる。
安易に排泄物に香水などを振りかけてしまうと、かえって水分が飛びにくくなってしまうので、注意が必要だ。
「香水を持っている場合、自分の鼻に直接振りかけてしまうとよいでしょう。人間の鼻は、いい香りでも悪い香りでも、強い臭いをかぐと、しばらくは機能が低下します。これを利用して、不快感を低減することもできる」(平山氏)
大きな地震が起きた時、閉じ込め事故が起こるのはエレベーターだけではない。電車や新幹線もまた、長時間脱出できない人が続出するだろう。
今年6月に発生した大阪北部地震の際は、山陽新幹線が緊急停車し、新大阪と岡山の駅間でおよそ5時間にもわたって閉じ込められた。
もちろん、新幹線の車内にはトイレが備えられているため、最悪の事態は免れる。問題は、在来線の電車内で閉じ込められてしまった時だ。
基本的に、電車内には携帯トイレなどの用意はない。エレベーター内と同様、その場で周囲の同意を得て、車内で用を足す必要がある。
'17年12月、上信電鉄で人身事故が発生し、群馬県内の鉄橋上で緊急停車した。停車時間はおよそ1時間30分ほど。この時、消防隊員たちが用意したのは、小さな便器を組み立て式のテントで覆う「災害用簡易トイレ」だった。
事故に対応した、同県の高崎市等広域消防局警防課の担当者が語る。
「長時間に及ぶ立ち往生ということで、指揮隊の判断で用意したものです。この時の事故では、実際に使った乗客はいなかったようです。大きな災害に備えて、同様の簡易トイレは常に用意してあります」
消防隊員が駆けつけてくれるのを待てば、「緊急トイレ」を自作する必要はなくなる。無理な我慢は厳禁だが、近くの車掌に正直に状況を話し、消防隊の到着時間や、備品の用意の有無を確認することも大切だ。
大地震は、いつ襲ってくるかわからない。非常時でも、尿意や便意を感じてしまうことは、お互い様だと思うことがまずは必要だろう。