https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20180225-00006107-bunshun-life
週7回以上お風呂に浸かる習慣があるグループは、そうでないグループに比べて、自立度が1.85倍も高いという数値が出ました。つまり、毎日の入浴習慣がある人は、要介護になりにくいのです。略
浴槽浴が心身に与える効果は大きく分けて3つあり、「温熱作用」、「静水圧作用」、そして「浮力」です。
このなかで最も重要なのは、「温熱作用」です。温かいお湯に浸かることによって、まずは体の表面が温められます。次に皮膚の下まで熱が伝わり、血管の拡張が起こることで、血液の流れがよくなります。人間の細胞は、体の隅々まで張り巡らされた血管を流れる血液によって、酸素や栄養分を受け取り、二酸化炭素などの老廃物を回収してもらいます。血液の巡りがよくなるということは、いわば、体にとって一番大事なライフラインが強化されるということ。新陳代謝の活発化、免疫力、体力の向上が期待できるのです。
また、体が温まることで筋肉や関節の緊張が和らぎ、肩こりや腰痛、筋肉痛が緩和されるという効果もあります。
「温熱作用」に加え、「静水圧作用」も血液の循環に働きかけます。お湯のなかに浸かると、人間の体には水圧がかかります。この水圧は意外と侮れないもので、肩までお湯に浸かった状態で腹囲を測ってみると、空気中に比べて数センチ縮んでいることもあるほどです。この水圧が皮膚の血管にかかってくることで、血液が心臓に押し戻されることになります。また、お湯に浸かっている間に水圧で押さえつけられていた血管は、湯船から出た瞬間に開放され、血液が一気に流れ出す。この一連の働きが、血液の巡りをよくすることにつながります。
最後の「浮力」は、主に精神面に効果をもたらします。お湯に肩まで浸かった場合、その人の体重は浮力によって10分の1になるという計算です。体が軽くなることにより、大きなリラックス効果があるのです。
以上を踏まえたうえで、健康長寿のための「正しい入浴法」とは具体的にどのようなものなのか。
お湯が体に悪影響を及ぼす温度
ポイントは次の3つです。
(1)お湯の温度は38~40℃
(2)肩まで浸かる全身浴
(3)入浴時間は10分間
まず、お湯の温度についてです。実はこの温度は、わずかな差でも、体に与える影響が正反対と言っていいほど違ってくるのです。その境となるのは42℃。お湯の温度がこれよりも高くなると、体に悪影響を及ぼします。
人間の体には自律神経という神経があり、循環器、消化器、呼吸器など、生命を保つための体の働きを自律的に調整してくれています。自律神経には、体を興奮させる「交感神経」と、逆にリラックスさせる「副交感神経」の2種類があります。
42℃以上の熱いお湯に入ると、交感神経が刺激され、体は一種の戦闘状態に突入してしまいます。血圧が上がり、脈は速くなり、逆に胃腸など内臓の働きは弱まってしまうのです。
お湯の温度を設定するときは、42℃よりも少しぬるめで、かつ体温よりも高い、38~40℃の範囲に設定してください。そうすることで体も温まりますし、副交感神経の働きで十分体を癒すことができます。
高齢者は熱さに対する感覚が鈍くなってきて、熱いお湯を好みがちですが、自分の感覚に頼らず、あくまでこの設定温度を守ってください。
「どうしてもぬるく感じてしまい、満足できない」という人は、最初に40℃のお湯に入り、追い焚き機能を使って徐々に温度を上げ、体を熱さに慣らしてください。ただし、温度の上限、42℃は変わりません。
次に、お湯の量ですが、浴槽にたっぷりとお湯を張って肩まで浸かる全身浴を推奨します。昨今はダイエット目的の「半身浴ブーム」がありましたが、専門家の立場から見るとあまり効果がありません。ダイエットならむしろ、全身浴のほうが一気にカロリーを消費できます。
全身浴の利点は、湯量が多いために、「温熱作用」と「静水圧作用」が働きやすいということです。全身がお湯に浸かるので体がよく温まり、水圧が高いので血液の巡りもよくなる。このため、肩凝りや頭痛には、半身浴よりも全身浴のほうが効果があると言われています。半身浴よりも下半身により大きな水圧がかかるため、足のむくみにも効果的です。
全身浴での入浴時間は、10分間がおすすめです。基本的に、40℃前後のお湯に10分ほど浸かることで、体温は約0.5~1℃上昇します。その上昇だけで、十分に「温熱作用」は見込めるのです。そして、いったん上昇した体温は、1~2時間程度はそのまま持続するので、無理にお湯に浸かって体を温め続ける必要はありません。汗が出はじめたら、体が十分温まったというサインです。
入浴時間の10分は延べ時間なので、最初に5分間入って、途中であがって体を洗い、また5分間入って出るという行程でも構いません。
ただし、心臓や肺に疾患がある人は例外です。お湯の熱や水圧が負担になるので全身浴は避けて、2、30分程度の半身浴にしてください。お湯の量が少ないぶん、体が温まるのには時間がかかるからです。略
ヒートショックに要注意
厚生労働省の研究班の調査(平成25年度)では、入浴中の事故死の数は、年間で約1万9000人。交通事故で亡くなられる方は年間4000人前後なので、それと比べてもかなりの数であることが分かります。
また、全体の死亡者数の9割を65歳以上の高齢者が占めており、事故の半数が、12月から2月にかけての冬季に集中しているのです。
亡くなられた方の症状で多いのは、脳卒中や心臓発作(心筋梗塞、不整脈など)です。これらは、「ヒートショック」によって引き起こされることが多い。ヒートショックとは、外部の温度差によって引き起こされる血圧の急激な変化のことを言います。
入浴時の行動で例を挙げて説明していきましょう。お風呂に入る前に、冷たい脱衣所で服を脱いで裸になります。そうすると、体が寒さに驚いて交感神経が刺激され、血圧が急上昇するのです。次に、寒さに耐え切れず、すぐに熱いお湯にドボンと浸かるとします。湯船に入った際、今度は体が熱さに驚き、先ほどと同じように再び血圧の上昇が起こります。
この一連の行動で、血圧が40ほど一気に上がるという研究データもあります。血圧の変化によって、高齢者の弱くなった血管や心臓に大きな負担がかかり、脳卒中や心臓発作を引き起こすことになるのです。
ヒートショックを防ぐためには、入浴の過程における温度差を少なくしていかなくてはなりません。
まず、脱衣所に暖房器具を置き、空間を温めます。リビングとの温度差は、5℃以内であるのが望ましいでしょう。例えば、リビングの温度が23℃なら、脱衣所を18℃以上にします。脱衣所を、可能であれば20℃前後の温度に保つことで、血圧の急上昇は防げます。
同様に、浴室も温めることが重要です。最近では暖房機能がついていることも多いですが、全てのお宅に備わっているわけではありません。暖房機能がない場合の方法としては、湯船にお湯を張る際に、蓋を全て開けて室内に湯気を立てることです。蒸気が充満し、サウナのような効果で浴室が温まります。
徐々に体をお湯の温度に慣らしていくという意味で、入浴前のかけ湯も大きなポイントです。体の中心部である心臓辺りに一気にお湯をかける人がいますが、それではすぐに湯船に浸かってしまうのと同じです。手足の先、体の中心部、頭の順番で、少しずつかけ湯をしていきましょう。手桶で10杯ほどが目安です。シャワーの場合もすぐに終えるのではなく、ある程度の時間をとってください。
入浴のタイミングにも注意してください。午前中は心筋梗塞や脳卒中が起こることが多い時間帯です。高齢者の方だと、朝風呂は避けたほうがいいでしょう。
入浴前後で最低でも500mlは水分補給を
熱中症・脱水症で意識がなくなり、お風呂で溺死するケースも多々あります。頭がぼんやりしてきたり、眠気を感じたら、一度湯船から出るようにしてください。
熱中症・脱水症予防には、入浴前後における十分な水分補給も必要です。温度や季節にもよりますが、お風呂で汗をかくことで体内から失われる水分量は、およそ800mlにもなるという研究データもあります。入浴前後で、最低でも合計500mlは水分補給をしておくのが理想です。r