https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20190621-00000015-sasahi-soci 略
首相が指摘したのは、2017年に英アバディーン大学が深海で行った研究結果だ。深さ1万メートルを超える太平洋のマリアナ海溝とケルマデック海溝で採取したヨコエビの体内から、発がん性のある化学物質PCBが1グラム当たり最高で905ナノグラム検出された。汚染された川に生息する生物から見つかる50倍ともいわれる量だ。
PCBは変質しづらい特徴を持つことから、かつて「夢の油」として広く工業製品に使われた。だが、強い毒性があることがわかり、1970年代には世界中で使用が禁止された。一度、環境中に漏れ出したものは分解せず、いまでも海洋中に存在している。 略
「年間に世界中の海へ流れ出すプラごみは最大で1300万トン近くあり、大きさが5ミリ以下のものをMPと呼びます。ペットボトルやレジ袋などが紫外線で劣化して砕けたものや、洗顔料や歯磨き粉に入っているマイクロビーズと呼ばれる小さな粒などがあります。海に広がったものは現実的に回収できません。しかも半永久的に分解しないため、海のごみとしてたまり続けることになります」略
「九州大学の磯辺篤彦教授らが日本海を中心に調査したところ、海水1立方メートル当たり3.7個が見つかりました。北太平洋の16倍、世界の海の平均と比べても27倍多い数です。海流の影響でアジア諸国から流れてくるものが多い。このほか、日本の南方やハワイ北東の太平洋上にも、同じ理由から集まりやすいと言われています」
18年に受け入れを禁止するまで、世界のプラごみの半数をリサイクル資源として輸入していたのが中国。次がマレーシアということも関連がありそうだ。
国内でも、多くのMPが発生している。年間のプラごみ約900万トンの全てを、リサイクル、もしくは焼却・埋め立て処分しているにもかかわらずだ。
東京理科大学理工学部の二瓶泰雄教授(土木工学)らが15年から国内29河川36地点を調査したところ、すべての河川から見つかった。
最も多かったのは千葉県の手賀沼に注ぐ大堀川で1立方メートル当たり13.58個。次に鶴見川(9.69個、神奈川)、利根川(8.68個、埼玉)、緑川(8.25個、熊本)と続く。首都圏を流れる荒川(4.6個、埼玉)や江戸川(3.41個、千葉)でも多かった。
二瓶氏は「採取場所が少ないので、多く見つかった河川のMP汚染が大きいとは一概に言えない」と断りながらこう説明する。
「たくさん見つかった場所は市街地が多く、人口密度とMPの流出量に関連性があることがデータとして明らかになりました。日常生活で使うプラスチック製品がMP化し、川へ流れ込んでいるのです」
川に流れるごみというとポイ捨てを連想してしまうが、それだけではないという。
「家の外に放置されたバケツや洗濯バサミが紫外線で劣化して細かく砕ける。あるいはごみ収集場所の散乱防止ネットをカラスが剥がし、散らかったプラごみがMP化することもあります。こうしたものが雨水とともに側溝に入り、川へたどり着く。いったん、川へ入れば、沈まない限りは流れに乗って海や湖へ運ばれます」
実際、川のごみにはプラスチック製品が多い。
国土交通省の委託を受けて荒川のごみ拾いを続けるNPO法人の「荒川クリーンエイド・フォーラム」。ここが昨年回収した27万個の散乱ごみを分類したところ、数が多かった上から10種類のうち、七つがプラスチック製品だった。ペットボトル、食品のポリ袋、プラ容器、発泡スチロールなどが上位を占める。略
昨年10月、オーストリア環境庁とウィーン医科大学が日本人や英国人など8カ国の成人男女の大便を調べた。すると、全員の便から検出されたのだ。平均すると10グラム当たり20個のプラスチック片。大きさは0.05ミリから0.5ミリだった。略
「洗濯の際に出る服の化学繊維やスポンジくずなどがそうです。ほとんどは下水処理されますが、一部漏れるものがある。都内の下水処理場の放流水を調べたところ、1日当たり10億個程度のMPが多摩川に放流されていました。さらに都内23区に多い合流式下水道では、雨が降ると、排水が下水処理場に運ばれずに川や海に放流される場合があります。現行の下水処理システムでは、完全には取り除けないのです」
国内の魚からもすでに見つかっている。高田氏が15年に東京湾のカタクチイワシの消化器官を調べたところ、約8割から検出されたのだ。
「全部で64匹を調べると、49匹から見つかりました。1匹当たり平均で2~3個、最大で15個です。大きさ1ミリ以下のポリエチレンやポリプロピレンの破片が80%以上を占め、マイクロビーズや化学繊維もありました」
高田氏らが翌年に女川湾(宮城県)、東京湾、大阪湾、琵琶湖(滋賀県)など6カ所にエリアを広げて調査をしたところ、さらに驚く結果が出た。全ての地点の魚から見つかったのだ。全197匹中、マイワシ、カタクチイワシ、マアジ、イシダイ、ワカサギ、スズキの74匹から計140個が検出された。略
「世界の21の地域で作られた39のブランド塩のうち、36種類から見つかりました。1キロ当たり506個の量です。最も多く含まれていたのは海塩。次いで湖塩、岩塩の順です。毎日10グラムずつ塩分をとるとすると、年間で2千個近いMPを体内に取り込む計算になります」略
「100種類以上の有害化学物質が含まれています。ペットボトルのふたに添加剤として使われるノニルフェノールは環境ホルモンの一種で、乳がん細胞の異常増殖を引き起こすことが知られている。また、成人男子の精子数が減少傾向にある原因の一つとして、プラスチックの添加剤に由来する環境ホルモンが疑われています」
さらに、海洋中に漂う有害化学物質がMPに付着することで、リスクが倍増する。
「海水には、低濃度のPCBや農薬に使われるDDTなどが含まれている場合があります。これらは油に溶けやすい性質のため、石油からできたプラスチックにどんどん吸着して濃縮します。こうなるとMPは汚染物質の運び屋です。生物が体内にプラスチックを取り込むと消化液に有害な化学物質が溶け出し、肝臓や脂肪にたまり続けます。メダカに汚染されたプラスチックを食べさせたところ、肝臓に腫瘍(しゅよう)ができたとの報告もあります」略