先月まで5年間、漫画の制作スタジオでスタッフとして働いていました。
経理事務として入社し、作業マニュアルの作成、仕上げの手伝い、作画データの管理をしていました。
作品の内容については書けませんが、漫画の現場でどんな作業が行われているのか、書き記しておきたいと思います。
私のいた現場は、ネームはアナログ制作で、それをスキャナで取り込んで、以降の作業をデジタル化していました。
まずは、全体的な作業の流れを確認してみます。
【漫画制作の全体の作業の流れ】
①ネームの作成
漫画家がストーリーを考えてネームを作成します。
ネームは簡略化された絵でストーリーの進行や構成を確認するために作られます。段階を踏んでストーリー、演出、コマ割り、台詞が決まっていきます。
出版社の編集者との打ち合わせにもネームが使われています。
②デジタル化
ネームをスキャナで取り込んで、パソコン上でデジタル作業をするための準備をします。
コマ割りもパソコン上で作業して、各コマにネームを割り付けます。
③作画作業
ネームの絵はかなりラフに描かれていますので、下書きや清書が行われます。
下書きは、どこに何を描くかを決めたり、スタッフへの作業指示として描かれることもあります。
各コマの絵を清書して完成させていきますが、デジタル作業では背景、人物、書き文字を別に描いて重ねます。
④仕上作業
清書が終わった絵の線のはみ出しを修正したり、トーンの貼り付けなどを行います。
絵を重ね合わせているので、マスキングをしたり正しく重ね合わせが見えるように補正をします。
⑤入稿作業
漫画の作業をしたデータを入稿用のデータに出力します。
デジタルデータはメールで送信して、入稿が完了します。
ざっと全体の流れを確認しました。
作業は漫画家とスタッフの連携作業になっています。
その中でスタッフに任される作業がいくつかあります。
【スタッフの作業】
①作画作業
漫画家が下書きをしたものをスタッフが清書をする場合、逆にスタッフが下書きをして漫画家が清書をする場合があります。
例えば、人物のポーズを漫画家が下書きとして描き、スタッフが服を清書したり、また、背景や小物をスタッフが描いて、漫画家が演出を加えてコラージュしたりということがあります。
作画スタッフは、アナログとデジタルの両方の作業があると思っていいでしょう。
デジタル作業の現場では、原稿用紙に直接絵を描くことはありませんが、絵の構成要素を別々に描いて組み合わせることができるので、作画スタッフは背景だけ、小物だけを描くことがあります。
漫画家が描いた線をなぞって清書の線で描き直すということもあります。
②仕上作業
作画ができないスタッフでも、仕上げならできるということがあります。
ゴミ取り:スキャンしたときに埃や汚れが画面に表示されるので、それらをクリーンナップします。
素材の貼付:パーツで分けられた絵は、素材として残されているので、使い回しができます。それらを貼り合わせます。
作画の補正:線のはみ出しを直します。絵の重ね合わせの修正やマスキングをします。
ベタ入れとトーン:影の部分にベタやトーンを入れたり、服装や背景にトーンを入れます。
③3Dモデルの製作
漫画の小物や背景を3Dモデルで作成したり、構図に合わせて配置する作業があります。
小物や背景を3Dモデルで用意するメリットはかなり大きく、角度を自由に変更できるので、同じ場面でも背景を描き直さずに構図を変更することができます。
3Dモデルの作成に時間がかかったり、レンダリングで綺麗に漫画用の線が表現できないことがあるので、下書きとして簡便に利用することもあります。
④管理作業
デジタル作業では、誰がどの作業をしているのか、また作業とデータを段階的に管理する必要があります。
素材管理:デジタル作業では過去に作成した絵のパーツを素材として残して置くことで、何度でも使い回しが可能です。素材を整理して、検索しやすくしておくのも重要な作業です。
スタッフの管理:スタッフが増えると事務的な作業も増えます。
作業マニュアル:スタッフの作業の知識や質を揃えるため、また作業の流れを把握するためにもマニュアルは重要です。
このほか、私のいたスタジオでは、昼食と夕食を作ってくれる調理スタッフがいました。
私自身は上記の仕上作業の簡便なところと、管理作業をしながら、経理と人事の業務をしていました。
デジタル作業の中でも3Dモデルは特殊だと思いますが、非常に便利な機能でありながら、時間も手間もかかる作業であり、締め切りのある連載作品だとコストが折り合わない部分でもあります。
漫画専用の3Dデータもありますので、データの製作は行わず、データを購入してレイアウトする作業になるかもしれません。
管理作業は専任スタッフを置くよりも、誰かが兼任するケースが多いのではないかと思います。
アニメの現場もスタッフの作業が細かく分かれていますが、漫画の場合、製作期間が短いためあまり役割分担が多くありません。
それでも、作画だけがスタッフの仕事ではないため、特にデジタル作業の現場であれば経験のない人が参加することも可能だと思います。