伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年に続き2023年も目標達成!

この世の喜びよ

2023-05-03 01:05:12 | 小説
 夫は単身赴任し2人の娘が大きくなり寂しく思いつつスーパーの2階の衣料品フロア中の喪服売り場に勤める穂賀が、年上の同僚加納、隣のゲームセンター店員23歳男の多田、メダルゲームの常連のおじいさんらと少し距離を置きつつ語らう中で、スーパー内をさまよいフードコートの常連となっている幼い弟の世話に疲れた中3の少女と交流する中編の表題作に、ハウスメーカーのモデルハウスに1人で宿泊した妊婦芝川が、担当者とやりとりしながら自己の境遇を憂う短編「マイホーム」、友人同士のおじさんたちのキャンプに連れてこられた子どもたちが交歓する短編「キャンプ」を合わせて出版した作品集。
 穂賀の視点で語られているはずだけど、そして穂賀の名前を記述してまわりからは「穂賀さん」と呼ばせている(名前を隠しているわけでもない)のに、穂賀を「あなた」と言い続け、穂賀の発言は地の文にする文体は、斬新というのか少し不思議感があります。
 娘が大きくなった後にひとまわりくらい若い少女に関心と愛着を持ち、娘との経験から少女を理解し、同時に理解できない扱いにくさも感じ、その間合いの取り方に戸惑いと喜びを感じる、そういった穂賀の感情の動きが読みどころかなと思いました。


井戸川射子 講談社 2022年11月8日発行
2022年度下期芥川賞受賞作
コメント
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