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伊東良徳の超乱読読書日記

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魂の痕

2023-05-24 23:12:16 | 小説
 日本支配下の済州島で日本軍と朝鮮総督府にすり寄って私腹を肥やそうとする地主の家に嫁いだ李春玉が、姑にこき使われ、10歳の夫と姑に疎まれ、婚家を出て大阪に渡り、踏みつけられながら生き抜いて行く姿を描いた小説。
 日本人たちに土地を奪われ、生きる術を奪われて、それでありながら生活のために日本に渡らざるを得なかった済州島の人々の姿を描くことは、在日韓国・朝鮮人2世である作者のルーツを示すものと考えられます。抑圧と屈従、暴力と被虐の描写が続くこの作品を読み続けるのは、正直、辛く憂鬱でしたが、作者のこの問題にかける気持ちを思うと投げ出せないというところで読み切れたという感じです。
 非道な日本人にも増して、同胞を裏切った韓国人たち、そして韓国人の中での男性の女性に対する差別と暴力への告発が中心的なテーマになっているように思えます。
 巻末に、「本書は『本の時間』(毎日新聞社)2010年7月号から2013年3月号に掲載された『魂の流れゆく果て』(未完)を全面改稿のうえ、加筆したものです。」と記載されています。1990年代から2000年代にかけて多数の作品を生み出した作者は、2012年以降この作品を除いて出版がなく、この作品の後、今のところ出版がないようです。この作品がいったん未完のままに打ち切られた事情、その後7年を経て改稿して出版された事情は、私にはわかりませんが、作者の苦しみとこの作品の重みを示しているのだろうと思います。


梁石日 河出書房新社 2020年1月30日発行
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