伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年に続き2023年も目標達成!

行動経済学の処方箋 働き方から日常生活の悩みまで

2023-05-05 23:03:37 | 人文・社会科学系
 世間の人が考えている経済学、特に合理的意思決定を想定し前提とする伝統的経済学に対し、それとは異なる意思決定をしてしまう現実的な人間像を取り入れた「行動経済学」が日常の困りごとや社会問題の解決に役立つということをアピールする本。
 人々に問題行動を是正させようとするとき、問題行動をしている人を公表して是正を求めることは逆効果で、そうすると問題行動をとっている人が他にも悪いことをしている人がいるのだと認識してしまう、それよりもほとんどの人は規則を守っていることを示すメッセージの方が効果的だ(10~12ページ)というのは、そのとおりだと思います。もっとも、その著者が推奨する方法は、特に同調圧力の極めて強い日本社会では有効性が高いのですが、今ではそういうやり方をすることに批判の目が向けられてきているとも思うのですが。
 新型コロナ感染拡大防止対策でも、自分の命を守ることができるという利己的メッセージよりもまわりの人の命を守ることができるという利他的メッセージの方が有効、その理由には多くの人はある程度の利他性を持ち他人の命が助かるなら喜んでそうしたいと思っているということのみならず、利他的メッセージを周知することで周囲の人がこういう行動をとらない人を社会規範から外れているとみなすことを本人が予想すればその損失を考慮して社会規範に従うようになるということがある(53~54ページ)というのも、同調圧力の利用で、専門家会議で行動経済学の立場から発言してきた著者はそういう手法に長け、愛用しているということかなと思います。
 列に並ぶべき場所を指示するのに、「この場所に並んでください」という掲示をしても誰も読まないだろう、矢印や足跡を描くのが有効(37ページ)、喫煙所以外での喫煙は条例違反だという看板を多く設置してもまったく効果がなかったが地面に喫煙所までの矢印を描いたら喫煙所で喫煙する人の比率が顕著に上がった(83ページ)というあたりに行動経済学者の人間に対する見方がよく表れています。それが事実だと言われれば、情けない思いを持ちますが、そういう感傷はきっと「無知」だと評価されるのでしょうね。
 オンライン会議では全員が共通の画面に集中するので、アイディアの創出に関わるようなさまざまな刺激が不足しブレーンストーミングには不向きだが、出てきたアイディアから優れたものを選択するというような集中力が必要な会議では優れている(126~130ページ)というのですが、オンライン会議の参加者が画面に集中しているという認識自体、私にはとても疑問です。


大竹文雄 中公新書 2022年11月25日発行
 
コメント
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