伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年に続き2023年も目標達成!

デッサ・ローズ

2023-05-13 22:23:04 | 小説
 奴隷市場へ連行される道中で反乱を起こして逃亡して捕まり妊娠中であったために出産まで生かされ、白人男性の作家ネヘミアの聞き取りを受けていた黒人女性デッサ・ローズが、仲間の手により奪還されて逃走し、農場主の夫が帰ってこない妻の白人女性ルースの下で仲間たちと過ごしつつ、ルースを忌み嫌い侮蔑しながら、奴隷制のない地への旅立ちに向けて白人たちから金を騙し取る計画を実行して行くという小説。
 黒人奴隷の受ける虐待を描くとともに、白人からは十把一絡げに扱われる黒人たちのそれぞれの個性、人柄、感情、欲望を描き出して、一人ひとりにステレオタイプやきれいごとに収まらない人生と意志、希望があることをアピールしています。
 そういった感情のある現実の人間を描いているということなのでしょうけれども、仲間に奪還されて自由の身になったデッサが、例えば「地下鉄道」のように自分が別の黒人奴隷を解放しようと活動したりそのような意志を持つわけでもなく(後に白人から金を騙し取るために仲間を奴隷として売ったフリをする場面でも、その仲間が逃げ損ねても自分が助けに行くことはないと考え)、自分が滞在する農場の白人女性ルースを、ルースから何か酷い仕打ちを受けたということはなく食物も部屋も与えられ産んだばかりの自分の子に授乳までしてもらいながら、憎み、嫉妬し、侮辱し続ける、自分は黒人だというだけで見下されることに反発しながら相手が白人女性だということで毛嫌いするという姿勢には、どうしても共感できませんでした。白人に感謝したら " Uncle Tom's Cabin " になってしまうという意識があるのかも知れませんが、それはあまりに硬直した姿勢に思えます。おまえは虐げられた者の苦しみを理解できていない、といわれればそれまでですけど。
 この設定とストーリー展開からは読んでいて知りたくなる奴隷隊での反乱の詳細やデッサの奪還の詳細は結局語られないことも、デッサの感情と姿勢に共感できないことと並んで、不満に思えました。


原題:Dessa Rose
シャーリー・アン・ウィリアムズ 訳:藤平育子
作品社 2023年2月15日発行(原書は1986年)
コメント (2)
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