万城目 学/集英社文庫
2013年12月20日初版。「しゅららぼん」は、「あれ」が人間に与えた二つの音、つまり日出家のゲップの音と棗家のオナラの音だというから、人を小馬鹿にしている。いや、狂信的な事を持ち出さないだけマシか。「あれ」とは何だ「あれ」とは。私が思うに「あれ」は昔から古い沼、湖にお住まいになっておられる「竜神様」に違いない。バンカラのホルモー、漱石張りの鹿男、そしてファンタジックなマドレーヌ婦人、ここに来てアニメチックな「しゅららぼん」ときたもんだ。
琵琶湖といい、八郎潟といい「湖の民」というものに何か特別な思いがあるのか、何か気に入った民話、伝承でも参考にしたのだろうか。しかし、竹生島への湖水分割はモーゼの出エジプト記そのままだったな、などと思いながら読んでしまった。
著者の作品に殺人事とホラー、ゾンビは登場しない。常にそこらにおわすはずの八百万の神々を念頭にした、極めて日本的な創造の世界である。バンパイヤ、ドラキュラと違って、馴染み深く違和感なく受け入れられる。そればかりか、懐かしくさえ思えてしまうから不思議だ。582pに及ぶ壮大で馬鹿々々しくもファンタジックな物語だった。
ちょっと気になることは、著者の作品が当初に比較して、視覚、聴覚、幻覚的な面で徐々に過激になってきてはいないだろうか。いらぬ心配とは思うのだけれども。
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