つむじ風

世の中のこと、あれこれ。
見たこと、聞いたこと、思ったこと。

深川恋物語

2013年08月13日 11時45分50秒 | Review

 宇江佐真理/集英社文庫

 著者の作品を読むのは「幻の声-髪結い伊三次捕物余話」に次いで2回目。「江戸の風景、人情、風俗」の描写が良くて他の作品を読んでみたいと思っていた。その典型のような作品が「深川恋物語」だろうか。この文庫には六つの短編が収録されている。いずれも甲乙付けがたく面白い。あとは個人的な好みの問題かと思う。何故、函館生まれの著者が函館を語るならともかく、こうも江戸に詳しいのか。というより、どうして「江戸の風景、人情、風俗」の描写がこうも上手いのか不思議な気がする。とは言っても、それは小説の中の話しであって、そう思わせるところが「上手い」訳で、本当の江戸文化とは異なるのかもしれないが、それはそれである。江戸モノを書く作家は本当にあまた居る訳だが、そんな中でも傑出しているのではないであろうか。
 あまりにも理解しがたい表現は控えて、できるだけ優しく、しかし内容を損なうことなく情景を作り上げるところはまさに「現代的」だと思う。

 当方の女房も函館出身で、「宇江佐真理」という函館出身の作家が居ると紹介した。プロフィールを見て、彼女の兄姉は著者と同年代、同じ市内で生活していたことを知る。多少なりともプロフィールで紹介されている以外のこともあるようだ。前段の「幻の声」を読んで、やはり「江戸の風景、人情、風俗」の描写が気に入って、「深川恋物語」を探してきたのは彼女である。彼女もかなりの本好きで、ランダムにいろいろな作家を読んでいるが、「宇江佐真理」は読んだことが無かったらしい。そして「深川恋物語」を一気読み。今までTVドラマで涙を流すことはあっても、本を読んで涙が出ることはなかったとのことだが、この「深川恋物語」を読んで涙が出たというのである(感情移入も甚だしいが)。

 かく言う私も一気読み。しかしたかが作り話で「涙する」なんて、そんなことは有り得ないが、それでも六つ目の作品の「狐拳」ではさすがにちょっと来た。「はッ、はッ、はッ。よッ、よッ、よッ」。母娘が心おきなく皆の前で「狐拳」を競う情景が鮮やかに甦ってしまったのだ。

コメント
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