つむじ風

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非常線

2013年08月04日 11時53分15秒 | Review

 松浪和夫/講談社文庫

 主人公は渋谷生活安全課の金谷勇二刑事(警部)、ひょんな事から同僚の鹿島進刑事殺害の容疑者になってしまう。孤立無援の中、接見に来た弁護士の中上喜市を人質にして何とか警察の捜査の手から逃れることに成功する。警察が組織を上げて追ってくる。勿論、弁護士や金谷のフィアンセ鈴木増美は金谷の理解者だが、警察官の中には「同僚殺し」に疑念を抱く者も現れる。本庁捜査一課主任刑事の新山康広、生活安全課麻薬対策係の森 享介、そして管理官の豊川 治だ。

 多分、これから金谷刑事を中心にしてこの理解者達が活躍することになるのだろう。もしかして、事件の根源は「警察内部」に??、そんな予感をまき散らしながら話しは進んでいく(―に違いない)。結論は「外交特権(特別便)を使ったコカインの国内持ち込み」が、今回の事件の背後にある全てだった。しかもこの密売組織の主犯格はあろうことか警察のキャリア組が占める内閣情報調査室(内調)の調査官だったのだ。

 ほとんど、最初から最後まで逃亡の連続活劇である。その緊張感の連続がたまらない。この小説の面白さは、584Pageに及ぶ長編であるにも関わらず、途中弛緩することもなく最後まで引っ張り続けるところにあるのではないだろうか。ただ「いずみと葉子ママ」のところだけは、何の伏線もなく、以降に出番も無い。かなり突飛というか、場違いのような気がする設定だった。

 著者は1965年の福島県生まれ。大学卒業後、銀行に勤務したものの2年ほどで退職。その後、文筆生活に入る。しかし福島の自宅だから食うに困らないのか、とにかく作品の数がやたら少ない。デビュー作以下、
 1992年 エノラゲイ撃墜指令
 1997年 摘出
 1998年 非常線、ということで、20代のデビューでありながら何でもこなす。というより、小説家も得意不得意というか、これを書かせたら真骨頂というものがあるはず。しかし、書いている本人も読者も、とにかく作品が出来てからの話しであって、作品無しには何とも語れない。で、謀略モノ、医療モノ、警察モノという風に落ち着き所なく、まあ「書いてみたけど、どうよ」てなもので作家自身も手探りだったのかもしれない。手応えあってか、その後はどうやら警察モノに落ち着いたようだ。「非常線」はその警察モノの最初の作品である。

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