一本のえんぴつをてにしていろいろ考えてみた。たしかねだんは五円のHBである。しんが太くなると、小刀でけずられ、そのたびに短くなっていき、やがてはこの世の中から消えていく。しかしその間にえんぴつは、たくさんの文字をノートにつづり、数字の計算をし、画用紙に下絵をかき、これを使う人のために骨身惜しまず働いている。一ことも不平を言ったりしない。「もうぼくはうんと働いたから、休みたいものだ。」といったのをきいたこともない。もくもくとして働き、自分のつとめを果すと、文句もいわずに、この世の中から消えていく。考えてみると、わたくしたちの生き方も、このえんぴつのようでありたいものだ。いっしょうけんめい勉強し、しっかり体をきたえて、自分の一ばん得意とする道をとおして、世のため、人のために力一ぱい働き、つとめが終ったら静かにこの世の中から消えていくというふうに……。
鎌形小学校「昭和31年度卒業文集」1957年