平成15年4月、都立学校に主幹制度が導入された。
主幹とは『担当する校務に関する事項について、副校長を補佐するとともに、教諭等を指導・監督する』職種である。わかりやすくいえば、副校長と教諭の中間に位置する職階である。別称、教諭のリーダーともいわれている。
選考の時期は、通常7月から9月らしいが、導入当初は平成14年11月下旬から12月上旬に試験が行われたようだ。
教職員組合はこの制度の導入に反対したものの、阻止するにいたらなかった。こうした経緯もあって、教諭の主幹に対する印象は概ねよくない。
まさに、その導入期、私までが主幹制度に巻き込まれることになるとは思わなかった。
「昨日は主幹試験でしたね」
子供の通院で休暇を取った翌日、出勤するなり同僚の若僧が意味ありげな顔で話しかけてきた。
主幹試験? ああ、今問題になっている新しい制度のことだっけ。
当時、教職員組合に加入していなかった私は、主幹制度にはまったくの無関心だった。もちろん、自分がなろうとは思わなかったし、出世の足がかりとして希望する人がいれば、勝手にすればいいのだと考えていた。
そのときは、何でこんなことを言われるのかと不思議に感じたが、面倒だったので適当な返事をして聞き流した。
どうも、これがそもそもの始まりだったらしい。その後も他の同僚から、誰もいない場所で「主幹試験を受けたの?」と小声で尋ねられることがあった。
「とんでもない。受けていませんよ」
「でも、ある筋の情報だと、うちから受けたのはNさん、Tさん、そしてあと女性が一人いるんですってよ」
試験当日に休暇を取ったのは、その二人と私だけだという。ということは、その情報が間違っているわけだが、世間はそうはとらない。
私が非組合員だということも災いした。NさんもTさんも組合に入っていなかったから、同類と見られたのだろう。
2月、次年度の人事が発表されたとき私はこの情報を呪った。
「N先生とT先生が主幹試験に合格されました」
校長の言葉と同時に、多くの視線が私に集まるのを感じた。私と目を合わせないようにしながら、ある者は哀れみの、またある者は見下すような表情を浮かべていた。
その瞬間、やっと自分が置かれている状況が理解できた。
受けていないのに、落ちたと思われているんだ!!!!
体中の血液が、脳天めがけて一気に遡ってくる感じがした。はらわただけでなく、脳味噌まで煮えくり返りそうだった。体温が急上昇し、とても平常心ではいられない……。
しかし、どう説明しても言い訳としか思われないだろう。
自尊心は木っ端微塵……暫く立ち直れなかった。

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主幹とは『担当する校務に関する事項について、副校長を補佐するとともに、教諭等を指導・監督する』職種である。わかりやすくいえば、副校長と教諭の中間に位置する職階である。別称、教諭のリーダーともいわれている。
選考の時期は、通常7月から9月らしいが、導入当初は平成14年11月下旬から12月上旬に試験が行われたようだ。
教職員組合はこの制度の導入に反対したものの、阻止するにいたらなかった。こうした経緯もあって、教諭の主幹に対する印象は概ねよくない。
まさに、その導入期、私までが主幹制度に巻き込まれることになるとは思わなかった。
「昨日は主幹試験でしたね」
子供の通院で休暇を取った翌日、出勤するなり同僚の若僧が意味ありげな顔で話しかけてきた。
主幹試験? ああ、今問題になっている新しい制度のことだっけ。
当時、教職員組合に加入していなかった私は、主幹制度にはまったくの無関心だった。もちろん、自分がなろうとは思わなかったし、出世の足がかりとして希望する人がいれば、勝手にすればいいのだと考えていた。
そのときは、何でこんなことを言われるのかと不思議に感じたが、面倒だったので適当な返事をして聞き流した。
どうも、これがそもそもの始まりだったらしい。その後も他の同僚から、誰もいない場所で「主幹試験を受けたの?」と小声で尋ねられることがあった。
「とんでもない。受けていませんよ」
「でも、ある筋の情報だと、うちから受けたのはNさん、Tさん、そしてあと女性が一人いるんですってよ」
試験当日に休暇を取ったのは、その二人と私だけだという。ということは、その情報が間違っているわけだが、世間はそうはとらない。
私が非組合員だということも災いした。NさんもTさんも組合に入っていなかったから、同類と見られたのだろう。
2月、次年度の人事が発表されたとき私はこの情報を呪った。
「N先生とT先生が主幹試験に合格されました」
校長の言葉と同時に、多くの視線が私に集まるのを感じた。私と目を合わせないようにしながら、ある者は哀れみの、またある者は見下すような表情を浮かべていた。
その瞬間、やっと自分が置かれている状況が理解できた。
受けていないのに、落ちたと思われているんだ!!!!
体中の血液が、脳天めがけて一気に遡ってくる感じがした。はらわただけでなく、脳味噌まで煮えくり返りそうだった。体温が急上昇し、とても平常心ではいられない……。
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