これは したり ~笹木 砂希~

ユニークであることが、ワタシのステイタス

私の普段着?

2008年07月16日 22時30分10秒 | エッセイ
 ソシアルダンスを習いたい。動機は不純だ。
 ダンスはどうでもいいけど、あのドレスを着てみたいっ!
 
 私が衣装にかける想いは大きい。まだ幼いとき、叔母の結婚式に参列するため、裾が大きく膨らんだワンピースを着せてもらったことが始まりだ。ヒラヒラしたピンク色のその服は、絵本に出てくるおやゆび姫を連想させ、幼心にもいたく感動したことを憶えている。
 小学生になると、ピアノの発表会でドレスを着せてもらった。熱心に練習するタイプではなかったからピアノはとちったけれども、ステキな衣装を身につけた事実が重要だった。あのときの写真を見ると、失敗した悔しさは微塵も記憶になく、華やかなステージに立ったことばかりを思い出す。
 大学ではマジックサークルに所属していたので、フォーマルドレス着放題だった。正統派のタキシード風スーツから、そのまま歌舞伎町で働けそうな下着調のドレスまで、4年間で8着は着ただろう。うち4着はまだ着られるので手元に取ってある。手品で人を楽しませるのもよいが、きらびやかな衣装をまとうだけで、自分を満足させられるところが向いていたのかもしれない。
 和装も好きだ。成人式は振袖を着たし、訪問着や留袖も持っている。でも、一人では着られないから、面倒になって何年もしまい込んでいたら、ひどいシワがついてしまった。やはり着なくてはダメらしい。
 極めつけは、結婚式場の内覧会だ。ウエディングドレスとお色直しのカクテルドレスを選ぶだけなのに、何百着ものドレスが部屋中を埋め尽くしていて圧巻だった。純白のウエディングドレスが灯りを反射して眩しく輝き、赤・黄・青・黒・緑といった色とりどりのカクテルドレスがお花畑のように咲き並び、気絶しそうなくらい美しかった。
 決してドレスが着たくて結婚したわけではないが、あの夢のような光景は目に焼きついて離れない。私は教員ではなく、結婚式場の衣装部で働くべきだったのかもしれない。
 
 ソシアルダンスのスクールは、どうやら家の近くにないようだ。遠くまで通うのも億劫だから、ドレスだけを買えばよいのではないかと考えた。ネットで検索すると、2万円前後で本格的な衣装が買えるらしい。
 でも、どこに着ていけばよいのだろう?
 常識的な私の疑問に、非常識なもう一人の私が答える。
 家で着ればいいじゃない。
 家で?
 眠ったままのフォーマルドレスや訪問着、一回しか着ていない留袖に、入学式と卒業式に着ただけのスーツも、ぜーんぶ普段着にしちゃえばいいのよ。
 なるほど、その手があったか。でも、近所の人や宅配便が来たときに恥ずかしいなぁ。
 今はね。加齢とともに羞恥心もなくなるから、それからでいいよ。
 はてさて、それは10年後くらいだろうか。
 ゴミ出しはもちろん、スーパーやコンビニにフォーマルドレスで現れる女がいたら……それも、私かもしれない。



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