内閣総理大臣
安倍晋三殿
集団的自衛権行使容認の閣議決定についての抗議声明
日本国民は戦後70年近く、日本国憲法、特に国際平和の創造を呼びかけ、恒久平和を誓った憲法前文と戦争放棄を定めた憲法第9条を尊重し、それを誇りとしてきました。この間、日本は、武力紛争の絶えない国際社会にあって、自国民についても、他国の人びとについても、戦争でひとりの死者も出すことがありませんでした。しかし安倍内閣は、集団的自衛権の行使を容認する憲法解釈変更の閣議決定によって、この憲法を踏みにじりました。
これまでの政府の憲法解釈では、憲法第9条の下で許容される自衛権の行使は、専守防衛に徹するものとし、自国が直接攻撃されないにもかかわらず武力行使を可能にする集団的自衛権の行使は、その範囲を超え、憲法上許されない、とされてきました。安倍内閣は、集団的自衛権行使を容認する憲法解釈の変更を発表しましたが、憲法の基本理念に抵触するこのような解釈の変更を、一内閣の決定によって行うことは本来できないはずです。それを強行することは、憲法第99条「天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ」に対する明らかな違反であり、立憲主義の否定と言わざるをえません。集団的自衛権行使の容認は、軍備増強と武力行使についての歯止めを失わせるものであり、時の政府の考え一つで、自衛隊員や国民を戦争の恐怖と生命の危険にさらすものです。それは実質的に、憲法前文の精神と第9条を葬り去る暴挙です。
わたしたちは集団的自衛権の行使容認の閣議決定に断固として抗議します。安倍内閣がこの不当な閣議決定をもとに、集団的自衛権行使を前提にして同盟国との協力を約束するようなことは絶対にあってはなりません。即座に閣議決定を見直し、撤回してください。
わたしたちカトリック教会は、現代世界の状況の中で、軍備増強や武力行使によって安全保障が確保できるとする考えは誤っていると確信しています。それは国家間相互の不信を助長し、平和を傷つける危険な考えです。また今ここで、平和憲法の原則を後退させることは、東アジアの緊張緩和を妨げ、諸国間の対話や信頼を手の届かないものにしてしまいます。平和はすべての人間の尊厳を尊重することの上にしか築かれません。また、過去の歴史に対する誠実な反省と謝罪、その上でのゆるしがあってこそ成り立つものです。
対話や交渉によって戦争や武力衝突を避ける希望を失ってはなりません。たとえ、それがどれほど困難に見えても、その道以外に国際社会に平和をもたらす道はないのです。
安倍首相と閣僚の方々の良心に訴えます。日本国民と他国民を戦争の恐怖にさらさないこと、子どもたちのために戦争のない平和な世界を残すこと、人間として、政治家として、これが最大の責務であることをどうか思い起こしてください。わたしたちはこのことを日本国民として、宗教者として強く訴えます。
日本カトリック司教協議会
常任司教委員会
委員長 岡田武夫 東京教区大司教
委 員 見三明 長崎教区大司教
大塚喜直 京都教区司教
梅村昌弘 横浜教区司教
宮原良治 福岡教区司教
菊地 功 新潟教区司教
前田万葉 広島教区司教