オカブの人生の振出は営業だった。
オカブが営業に向いていたかどうか、今となっては分からない。
一社目から逃げ出し二社目も営業だった。
二社目の経営が傾き三社目も最初は営業だった。
しかし、何故か、途中からなし崩し的に企画の仕事をするようになった。
企画と言っても、それほど大きな会社ではなかったから、雑然としたゴミダメのような仕事から、経営企画的なことまで、謂わば会社の遊撃手的な役割で仕事をした。
三社目が合併・統合で再編され、四社目でオカブのマーコムとしてのキャリアが確立した。
しかし、それほど規模の大きくない会社で、マーコムの仕事は男性社員に割り振られることは稀である。
だいたい、これは能力のある女性の仕事である。
オカブはキャリアの限界を感じた。
外資も数社経験したが、なんらキャリアアップにはつながらなかった。
結局、サラリーマンに見切りをつけて、今はこの様である。
人間落ちぶれるのは早い。
しかし、オカブは今の境遇をそんなに悪いものとは思っていない。
なによりも自営はサラリーマンと違って自由がある。
大変結構なことである。
塗炉縁猿も口上申しけれ 素閑
柿の葉の朽ちたるばかり塗炉縁 素閑
夜しんしん釜の音高し塗炉縁 素閑