<富士山七日間日記>
11月9日(金)
富士山へ行くには良い日である。この分では、久し振りに富士山のご機嫌な姿が見られるかと楽しみだ。
11時出発。都内は混んでいたが、中央道へ入るとクルマの動きも速い。特に、八王子を過ぎると、クルマは少なくなった。
石川で食事をと思ったが、駐車スペースが見付からない。談合坂まで走る事にした。
小仏トンネルに到るまでは、カーブがきつく登りになっている。以前の私は、この様な道は苦手だとは思わなかったし、ぐいぐいスピードを上げて走らせる快感(?????)があった。
今では、そんな気持になれない。小さなクルマがどんどんスピードを上げて行くのを見ると、随分、最近のクルマは小さくても性能が良いのかなと思う。
いやいや!私のクルマだって、もっと良いんだぞ!と言いたくなる。もう、そんな無理は止めにした!『王者』の如く走らせよう!とばかりに思うが、やっぱり俗人だ。シフトダウンをして走る。
談合坂へ着いた。大きな食堂はガラガラだ。もっとも、昼の時間が過ぎてしまったからだろうが、石川の混雑とは違う。
何か食べようと思うが、気に入った物は無し。スターバックで、簡単に済ませる。
リニューアルした談合坂には魅力は全く無いと言う程で、何時もは寄らない事にしていたが、今日は仕方が無い。
ゴルフ倶楽部の道を通って目的地へ着くと、紅葉が真っ盛りだった。勿論、我が家の庭も、二本の楓を中心に色々な樹が、様々な色に紅葉していて見事だった。
やや、お目当ての楓は散り始めた様だが、まだまだ鑑賞の価値はある。滞在中は十分に楽しめると思った。
河口湖ではモミジ祭りがある様だが、もう、見に行こうとは思わなくなった。家の周囲で、十分に楽しめるからだ。
日頃、雑草と乱れた樹々に手を焼いている私だが、紅葉の時季になると、かえって自然の状態にある我が庭が素敵だなと思う。
近所には芝生だけの家や、好きな植物を植えている家が多い。が、それは持ち主の趣味に合わせた人工の庭とも言える。
都会の生活から静かな自然に囲まれた、しかも富士山の一部で生活出来る貴重さが失われる様で惜しいと思うが、これも、個人の趣味だから仕方が無いのだろうか?
今日から六泊七日の富士山生活が始まる。パソコン持参でないので重荷が少しばかり解消出来る。
11月10日(土)
快晴。富士山はご機嫌さん。
朝食後、クルマで道の駅『鳴沢』の奥にある『ゆらり』へ行く。
ここは幾つもの温泉が有る施設で、湯上がりタオルと浴用タオルを貸してくれる。
土曜日だが、午前中なので空いていた。それも、開館して30分ぐらいだったから、温泉は何処も空いていた。日頃、混んでいる『五右衛門風呂』にも入ったが、矢張り露天風呂が一番だ。
道の駅も満車だったが、裏側の駐車場へ入れる。姉が「よく知っているね」と言う。このぐらいの事は当然知っている。時々、この施設に来ている者にとっては簡単だが、姉はあまり気にしないので、今まで知らなかったと言う。
国道側のOスーパーへ行く事にした。左折して「しまった!」と思った。
すごい渋滞である。何時もは少し先だと思った右折可の道まで辿り着くのが容易では無かった。
何と、右折可の箇所辺りが工事中である。一車線に変わる直前の道が更に混雑を派生したのだ。しかも、河口湖方面の紅葉見物に向かうクルマで一杯である。しかも他府県のナンバープレートをつけたクルマが殆どである。
やっと、抜け道を通って目的のスーパーへ行った。約1時間のロスである。「なんで、土曜日のしかも行楽の季節に道路工事をするの?」と文句を言いたくなった。
すっかり疲れて帰宅する。兎に角、眠たい。
11月11日(日)
ここでは、BS以外はNHK1,2と4と6チャンネルしか見れない。
日曜日は何とか見たいものがあるが、後は淋しい限りである。
山の生活では、自分で探せば、結構面白い事が出来そうであるが、最近の私はもう大変な無精になった。
せめて、部屋の片付けをしようと決心して来るのだが、富士山へ来るとダレてしまう。
部屋を眺めたら、画材や本が沢山まとめられている。
「ああ、私はここで富士山を書くつもりだった!」とか、「よーし、本を沢山読むぞ!」とか、「焼き物つくりをしようか。それに庭の手入れもして…」とか考えたものだった。しかし………
今は、バーベキューのセットさえ家の中に鎮座したまま何年も使っていない。
思い立つと、時々、庭をゴソゴソいじったり、木の枝拾いをしたりする。小枝はストーブで燃やせるからだ。山の住人になった気がすると言う遊び心兼ケチな精神。
久し振りにストーブに火を点けた。
大変!!煙が家中に充満した。やっと火がまともに点いたのは拾って来た木々の殆どを焚いた後だった。
折角、ガスフアンヒーターを点けていると言うのに、部屋中、すごいたき火のにおいがした。寒くて仕方が無いが、あちこち窓を開けて、空気を入れ替える。
それでも、焼き芋がしたかった。これが何時もの私の目当てである。
安納芋の焼き芋は黄色くホックりしていたが、少しばかり煙って固くなっていた。
それでも、今回は姉に叱られずにすんだが、何時も好奇心ばかり働かせる私だ。
家中、薫製みたいになった。煙突が原因だなと思う。それに庭で拾った木の枝は完全に乾き切っていない様だ。
私の山の生活はやっぱり狂っていた。あの、ストーブの煙突を何とかしなければ…
11月12日(月)
昨夜からの雨は止んだ。
家の中は二階まで、燻製みたいになっている。それでも嫌なにおいではないと思う。
「洗濯物が皆、煙のにおいがする」と言われた。ゴメンナサイという他無い。
今日もまた『ゆらり』へ行った。何時もより、十分に暖まったので、肩の痛いのが少しばかり静まった様に思う。本当はパソコンの所為だと思うが、今はその操作も無いので良かった。
パソコンと言えば、帰京してからのブログが待っている。せめて、メモをしておこうと思って書いているが、まるでミミズの這ったような文字で、しかも居眠りをしながら薄れた記憶を書くのだから、どうしようも無い。
メモ無しで、自分の記憶力を確かめる良い機会かもしれないと思った。
道の駅の食堂で『冷やし蕎麦』を食べた。『ざる蕎麦』だと思っていたら、ここではこの手の物しか無い。びっくりした。冷やした蕎麦の中に、沢山の山菜が入っているので、最後には食べ切れなかった。
今日の富士山は、少しばかりご機嫌斜めだ。雲が山にかかっている。雨が降るかな?と思う。
買い物をして帰宅。今日は美味しそうなカツオを買った。トロカツオと書いてある。私の好物だ。姉は余り好きでは無いと言う。家族も好みが違うから、時々、譲り合いをする。
今日も疲れた。特に、スーパーは疲れるし、寒いから苦手だ。
11月13日(火)
丸椅子を持ち出して煙突の様子を調べる。
最近は足元がフラフラするので、高い所は禁物だが。
下蓋を調べても無理と分かっていながらも、私の好奇心が動き出した。
下の蓋をやっと外したが、中の煤は厚さ5ミリにも満たない。
何とか、削り取ったが、専門家に頼むしか無い様だ。お疲れ様!!!
今朝は汚水槽の掃除に来てもらった。これは、毎年点検してもらう事にしている。例年来てくれるKさんも、歳をとって来たなと思う。勿論、こちらはすごいバアさんになったけれど…。
道路側の草や伸び過ぎた木の枝を切った。結構、手間がかかる。他所では、男の仕事のうちだけど、我が家は自分でやるしかない。
私はオトコですよ!
また、腰が痛くなった。
今日は、一日中、天気が良くないと聞いていたが、予想よりは良かった。
庭の紅葉は、相変わらずの美しさである。
しかし、折角赤く華やかだった楓も、風で殆どと言って良い程、葉が散ってしまった。何と言う風のむごさよ!
「でも、紅葉が見られて良かったじゃないの」と言われる。本当にそうだ!タイミングが良かった。
明日は又、温泉へ行く事にしている。
11月14日(水)
今日は今回の富士山暮らしの終わりの日になる。
結局、何もしなかったと焦る。しかし、自分の意志が弱過ぎるし、持ち物が多過ぎるからだ。
兎に角、母の写真だけは持ち帰る事にした。その箱が重い事、よろよろする。私は随分、母の写真を撮ったらしい。親孝行かな?
朝のうちに『ゆらり』へ行く。10時過ぎだったので殆ど客はいなかった。浴場も未だ使っていない感じで気持が良い。
「ああ、なんて良い湯!!又、来月来るつもりです」受付の女性に話して別れた。
今日の富士山も素晴らしかったが、雲がかかっている。今回は富士山と毎日の様に会っている。私もご機嫌さんだ!
今日は久し振りに温泉施設のレストランで食事をした。富士山の見える明るい畳敷きの部屋にテーブルと椅子が置かれている。
『麦飯・とろろ定食』を注文した。美味しかった。デザートにメロンがついていた。値段もお手頃で、こんなレストランがあるのなら、道の駅のレストランとは違った雰囲気が味あえる。
私達が一番先だったが、客がどんどん入って来る。
「皆、景気が良いんだね」と、姉。「やっぱり、私達は招き猫」と、私。
山から下りると、必ず、あちこち寄る事にしている。今日も買い物をする為に三か所の店を覗いた。特に買う物は無い。明日は東京だもの!
何もせず、テレビを漠然と視る。
11月15日(木)
朝から帰宅の準備をする。母の写真の箱は重かったが、何とか運び込んだので、ホッとする。
玄関前の石段を見ると、何となく氷のような物を見た。
寒い!しかし、今日も又富士山は美しい。樹の葉が散り始めると、我が家の庭からも、富士山が望める。今日は稜線が何時もより美しく見えた。
11時ジャストに出発。帰る前に掃除機を動かしたのだから、私の体はタイヤード!それもヘビィだ。
ゴルフ場から見える富士山はくっきりと美しかった。
「今回は富士山が毎日の様によく見えたわね」と、二人共ご機嫌さん!
『富士山』さん、有難う!!
高速に入っても、山梨の山々は秋の彩りで美しかった。まさに唱歌に出て来る様な『赤や黄色に彩る…』である。
そして、何時も思うのは山を描く絵描きさん達の作品は作り物ではなかったと、しみじみ思った。疑ってゴメンナサーイ!
私もこんな景色を描いて見たいけれど、無理かなぁ?
それに、空の美しさは青空だけではなく、ポッカリと浮かぶ雲の塊が、如何にもひょうきんで、何かお話を書いてみたいなぁと、運転しながら、姉に声を掛けた。「書けば良いじゃないの」「そうかぁ?童話が書けそうね」と、童話を書いている様に雲たちの話をし始めた。
こう言うのは、運転も楽しく心を静かにして出来るのだと改めて自覚する。
途中『谷戸』で食事をする。最近は、よくここで食事や買い物をするが、駐車もし易くノンビリしている。トラックのドライバーも多く、レストランは親切で、家庭的なサービスをする。
何時もは『卵かけご飯』を食べているが、今回は『ほうとう』にした。何時も、ほうとうを食べる機会を逸しているので食べたかったのだ。
「お客さん、半ライスはどうしますか?」ほうとうとラーメンは半ライスがサービスに付いているそうだ。「アー、要りません」
私は、出来上がったほうとうにこの土地の唐辛子油を3杯もかけた。
熱ーい!そして、充分過ぎる程かけた唐辛子油が利いた。太い麺の一本さえもが熱くて食べられなかったけれど、とても美味しかった。私には、到底、半ライスは無理だ。ドライバーさんたちは食欲旺盛!
姉は『カキフライ定食』だった。とても美味しいから一つ食べない?と言われたが遠慮する。
本当は私の方が牡蛎は大好きなんだけど…しかも、広島の牡蛎なんだと聞いて、ちょっと残念。今度、食べてみようっと!
2時半過ぎに帰宅。又、車庫入れに苦労する。随分、下手になったものだ。姉に怒られるけれど、いささかノイローゼ気味。最近はどこでも、前向き駐車ですます。本当は練習になるのだけど、このクルマは前後がよく見えないと来ているのだ!
他人に笑われようと、バカにされようと構わない。安全安全である。
疲れた!珍しく、早めに布団を敷く。
それでも、相変わらずの夜更かしだった。東京はホッとする。