蝶のように翅をひらひらさせて、とんぼが飛んでいた。画像は27日、川辺町で写す。
墨客
枯草に墨とんぼがとまっていた。カメラのシャッターの音を鳴らすと、ひらひらと飛び去った。
横丁に碩学隠れ墨とんぼ 郁 乎
墨客でもあるのだろう。
翅に風
墨とんぼが去ったあとに、胴の青いとんぼが黒い翅をひらひらさせて現れ、草の葉にとまった。
翅に風あしらひとんぼ止まりをり 鳳 子
風が吹くと、黒い翅が虹色にかがやいた。
目抜き通りに古本屋があった。覗くと、あるじは調べものに専念しているらしく、覗かれていることに気がつかなかった。古本屋より古書肆の名にふさわしい店だと思った。
画像は27日、鹿児島市天文館で写す。
淡色の書の並む古書肆秋灯 豊 水
難解書がずらり。
目抜き通りを歩いていると、
「生活が苦しくなりました」
老人の声が聞こえた。テレビ局が新内閣の発足にあわせて、街頭インタビューをしているらしかった。
帰宅すると、テレビのニュースが目抜き通りの百貨店の閉店決定を報じた。画像は25日、鹿児島市天文館で写す。
世に生くるかぎりの苦ぞも蝶生る 万太郎
蝶は羽化してから喜びが始まると思っていたが、苦しみが始まるのだろうか。
民家の門前にサボテンの花がたくさん咲いていたので、コンパクトカメラで撮したところ、写りが悪かった。翌日あらためて再訪すると、花の数は激減していた。
画像は24日、鹿児島市谷山中央で写す。
サボテンの花の光のある如し 一 雄
古語辞典によると「あえか」の語意は「はかなげ」だそうだが、サボテンの花のような感じだろうか。
彼岸の入の朝市は、山と積まれた供華のまわりに客が集まっていた。
林檎や蜜柑などの秋果のコーナーは閑散としていた。画像は20日、鹿児島中央駅近くで写した。
誰か早父の墓前に盆の供華 みどり女
小説であればここから物語が始まるのだろうが、俳句の場合はここで終わってしまう。
台風が逸れたために、棚田の被害は少ないようだったが、伏せている稲穂が散見された。
稲のほをおこして通る田道かな 蝶 夢
一望したところ、棚田では農婦がただひとり、伏せている稲穂を起こしていた。
滝
瀑声が聞こえたのでのぞくと、滝が落ちていた。
萬緑の底に滝あり轟けり 零 雨
瀑声が聞こえなければ、気がつかないところに滝はあった。
鯉
源流はしばらく小さな池で休んでから、小川を下った。池にはまるまると太った真鯉が回遊しており、上目をつかってこちらを窺っているようでもあった。
睡蓮下出て一本の鯉となる 養 三
一本の真鯉の影は、水底にくっきりと一本だった。
曼珠沙華
池を発した小川の両岸に、曼珠沙華が対峙するように咲いていた。
対岸の火として眺む曼珠沙華 登四郎
「対岸の火事」以上に「対岸の火」は、自分にはまったく災難が及ばないという意味だろうか。
花芒
芒が棚田を見おろすように穂を出していた。
次々に風落ちて行く花芒 汀 女
芒の俯瞰写生であろう。
ドライブに誘われて、棚田のあたりを散歩した。棚田らしい棚田を見たのは初めての経験だったが、日本全国どこの棚田も石垣によって支えられているのだろうか。
画像は20日、鹿児島市郡山で写す。
空へ棚田豊の秋なり嫁に来い 博 明
石組みの手伝いは、させないのであろう。
源流
薩摩半島を代表する川の源流には、秋海棠が咲いていた。
そのほとり秋海棠の濡れ易し 夜 半
暴れ川の源流と思えなかったのは、秋海棠のせいであろう。
黒揚羽
曼珠沙華から曼珠沙華へと、黒揚羽がわたり翔けていた。
黒といふ派手な色あり黒揚羽 淳一郎
曼珠沙華が原因なのか、一句からは喪服美人を連想した。
蕎麦畑
畑に蕎麦の芽が育っていた。
種蒔や祖先の恩地無二の畑 桜 子
畝をつくらずに種をばらまいた感じだったが、それで効率よく蕎麦が稔るであれば、たしかに「祖先の恩地」であろう。
ひともじ
農夫が種蒔をしていた。葱の種を蒔いているのだそうだ。
ひともじに日のさす畠持ちにけり 樗 屋
ひともじの漢字は一文字で、葱のことだそうだ。女房詞ではネギはキと一音だったからという。
民家の庭に二種類の紫の花が咲いていた。
丈が高い方は野牡丹と知っていたが、低く垂れている方はあちこちで長期にわたって咲いているものの、名前を知らなかった。画像は13日、鹿児島市慈眼寺で写す。
野牡丹の一と日の命けさあえか 風 生
薩摩の花は生命力が旺盛なのが多く、野牡丹も「あえか」という感じがしなかった。もっとも、感じがしなかったのは「あえか」とは見た目にどういう状態なのか、理解していないせいかもしれなかった。
天気予報がはずれて、台風が本格的に薩摩半島に上陸するはずだった夕方には、白雲を冠った桜島のわきに虹がかかった。
画像は18日、鹿児島市谷山中央で写す。
刻一刻虹はおのれを溶かしをり つねこ
桜島の虹はもう少し前景を選んで撮りたかったが、すぐに消えてしまった。
抜き足差し足忍び足と、川の中をゆっくり歩いていた白鷺が、いきなり水中へ首を突っ込んだ。水しぶきがあがった。
画像は12日、鹿児島市谷山中央で写す。
うしろより鷺も足抜く蓮根掘 柯 城
泥鰌を油断させているのだろうか。
空き地の隅のあちこちに、白い曼珠沙華、というよりは別称の白い彼岸花が咲いていた。
画像は16日、鹿児島市谷山中央で写す。
彼岸花の白きは幽冥界のもの 白葉女
手前の彼岸花よりもやや離れたところの彼岸花、さらに離れたところに仄白く咲いていた彼岸花は、まさに引用句のような感じだった。