「成田さくらの里」へ行くのに、往路はバスに乗るつもりだったが、予定を変えて歩いた。
三橋鷹女の墓前を素通りしたくなかった。
墓は篤く祀られており、植木の紅葉が目に染みた。
この樹登らば鬼女となるべし夕紅葉 鷹 女
紅葉が夕日に染まった光景は、想像できるが、鷹女が木にのぼるところは想像できない。
新勝寺の参道にある和服の鷹女のブロンズ像は、手をまえにたたみ、やや内股で立っている。
小六月
帰路はまえにkawasakiさんから薦められた取香川の遊歩道をたどった。
国際都市ナリタらしく、軽装の外国人とすれちがった。
相手があいさつのようなことをつぶやいた。こちらは、
「どうも」
と、相手にはっきりとは聞こえないように返した。
少年と岡に遊ぶや小六月 四方太
歳時記によると、小六月は十一月のうち、六月のような陽気の日。
小春日和よりさらに温度がたかい日和だろうか。
桜の蕾
すっかり葉を落とした桜樹の枝に、ちいさいながら蕾がぎっしりついていた。
師をいたむ芸亭のさくら太蕾 佳 郷
手もとの辞書類に、芸亭は載っていなかったが、芸能人の屋敷のことだろうか。
今川焼
「金時」の看板をかかげた店先に女が集っていた。
石焼いもの店かと思ってのぞくと、今川焼の店だった。
落葉掃了へて今川焼買ひに 茅 舎
落葉で焚く金時いもが、なかったのだろうか。
冬帽子
JR成田駅で始発車にのり、発車を待っていると、対面の席に老女がすわり、バックから今川焼を出して食べはじめた。
帰宅してから、写真を整理していると、今川焼の店頭に、おなじ帽子をかぶった人のうしろ姿が写っている写真があった。
老女は今川焼を食べおわると、こんどは飴玉を口に入れた。ガリガリとかじる音がして、その音はすぐにやんだ。
そのつぎは煎餅を取りだして割り、一片を口に含んだ。また快音が聞かれるかと、耳をすましたが、なにも聞こえてこなかった。口のなかはなにも入ってないような感じだった。
まさか、飲みこんだはずはないと、それとなく観察していると、動かなかった口のあたりが、しばらくするとゆっくりと上下運動をはじめた。それまでは、煎餅に唾液をじゅうぶんにしみこませて、食べやすくしていたのかと仮説をたてた。
しかし、飴をかじった一件と符合しないので、その仮説は捨てた。
そのうちに、もうひとつの仮説が思いうかんだ。飴玉をかじって、あっけなく消滅させてしまったので、反省して、煎餅ではながい時間をかけて、味わっているのにちがいないと考えた。
冬帽子別るるときは目深なり 章
帽子のつばをおろすのは、袂を分かつときの冷然たる態度だろうか。
そうではなく、涙をみられたくないときのしぐさと解釈した。